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昇格、そして次の石板

 ニリド村、日が落ちて夜が来る。民家の明かりも徐々に消えていき、小さな村から音も消えた。


 自然が鳴らす音、ガサガサと何かが動く、微かに主張する虫の声、夜の帳の訪れは静かながらも確かな主張を連れてくる。


 二人の若き冒険者が動き出したのも、丁度その頃であった。畑に現れる魔物を待っていると、村の奥の林の中からずるずると影が這い出してきた。


 レイアは右手を天に掲げて一発の弾丸を撃ち出した。弾丸は空で弾けると辺りを強く照らし出した。


「見つけたぜ元凶」


 照明弾によって照らし出された魔物は、ポイズンスラッグだった。大型のナメクジのような魔物で、その体に猛毒を溜め込む性質を持っていた。それが3匹、通常よりも少し大型であった。


 突然明かりに照らされたポイズンスラッグは混乱と同時に怒りを覚えた。食事の時間を邪魔される事に怒りを覚えない生き物はいない、それは魔物も例外ではなかった。


 ポイズンスラッグは体を高く持ち上げると、毒液を噴射する為の触手を伸ばした。圧力が高まり、勢いよく毒液が噴射される。狙われたのは手近にいたアーデンだった。


 しかしアーデンもその攻撃は予測済みだった。直線的な毒液の攻撃を横に跳んで避ける、3匹が次々に噴射する毒液も同様に避けた。アーデンはファンタジアロッドを伸ばして予め用意して貰っていた袋を掴んだ。


 ぶんと勢いよく空中に投げられたそれは、レイアが撃ち抜く事で袋が破かれて中身が撒かれた。バサリと中身がかかったポイズンスラッグは悶え苦しみウヨウヨと体をよじらせた。


 中身は乾いた砂だった。ポイズンスラッグは体が粘液に包まれている、乾いた砂はそれを吸収し、ポイズンスラッグの表皮を乾燥させた。


 この程度で魔物のポイズンスラッグは死する事はない、しかしただでさえ鈍い動きは更に鈍り、毒液を噴射する触手もダメージを逃れる為に引っ込めざるを得なかった。


 すっかり的として仕上がった所で、レイアのブルーホークが火を吹いた。四発撃ち込んだ内三発はそのままポイズンスラッグへ命中した。炎の魔力が込められた弾丸は着弾と同時にポイズンスラッグの体を焼いた。まとわりついた砂も熱せられてポイズンスラッグは体をのたうち回らせた。


 撃ち込んだ弾の一発の行き先は、アーデンのファンタジアロッドだった。炎の魔力を受け取ったロッドの刀身は赤く発光し、のたうつポイズンスラッグの体を斬り裂いた。




 ガサガサと林を分け入っていく、粘液が地面に残っている内に辿っていくと思った通りの物があった。


「ああ、これが卵ね」

「うん。全部潰しちゃおう」


 近くにあった岩を拾って卵をすべて潰した。これでこれ以上繁殖はしないだろう。また出現はするだろうが、魔物の種類さえ判明すれば対策は取りやすい。


「だけどよく魔物の正体がポイズンスラッグだって分かったわね」

「ずっと前本で読んだ事があるんだ、態と毒のある食べ物を食べて、その毒を体の中に溜め込む魔物がいるって。這った跡とか粘液とか、状況がポイズンスラッグを指し示してたからな」

「ふーん。いい勘してるわ」


 レイアはそう言うとすっと手を上げて手のひらを広げた。それに気がついた俺はパチンとハイタッチを交わすのだった。


 レフ村長の家に戻ると、寝ずに待っていてくれたらしく出迎えてくれた。問題なく討伐を終えた事と、魔物の種類を伝えた。


 人に被害が出る前に解決出来てよかったとレフ村長はとても喜んでくれた。そのまま夜はぐっすりと眠り、朝になってたらふくご飯をご馳走になった。すっきりとした達成感のある気分だった。




「じゃあ俺たちはこれで。ポイズンスラッグの対策については大丈夫ですか?」

「ええ、後はこちらの方で対策出来ます。本当に助かりました」


 お礼の言葉を受け、握手を交わした。ここまで喜ばれると、こちらまで嬉しくなる。多分レイアはもっと嬉しいだろう。


 今彼女は子供達に囲まれていた。別れを惜しむ声が次々に上がり、嬉しそうだけどちょっとだけ困ったような複雑な表情で子供達の頭を撫でていた。


「レイア姉ちゃんもう行っちゃうのかよ!」

「もっと遊ぼうよ!」

「行っちゃやだー!うわーん!」


 泣き出す子も現れた。流石に助け舟を出そうかと思った時、レフ村長がすっと前に出た。


「皆、お姉ちゃんを困らせてはいけないよ。それに、このお兄ちゃんとお姉ちゃんは皆が安全に遊べるように村を守ってくれたんだ。そんな時は何を言えばいいか分かるかい?」


 流石村長だ、子供達はその話をすぐに聞きそして落ち着いた。多分この村の子供達はいつも年長者に見守られて、そして様々な事を教わりながら生きているのだろう。


 子供の内の一人が「せーのっ」と声を上げた。その掛け声に合わせるように大きく元気な声が響く。


「お兄ちゃん、お姉ちゃん、ありがとう!!」


 体の芯を揺さぶるようなビリビリとしたお礼の言葉だ、暖かな気持ちが湧き上がってきて思わず声が出た。


「どういたしまして。皆魔物には気をつけるんだぞ」


 俺がそう言うと、子供達はまばらながらも元気に返事をした。レイアは気付かれないように顔を背けてから目を拭うと、子供達に向き直って言った。


「皆いい?私が直してあげた玩具は大切に使う事、そして作って上げた物もね。壊してもすぐに直しには来れないんだから」

「分かったよレイア姉ちゃん」

「また会いましょう皆、私も楽しかったわ。次はもっとびっくりするような発明品を作ってくるからね」


 俺はゴーゴ号に乗り込んでハンドルを握った。レイアはその後ろに乗り、背後を振り返り子供達に手を振っている。走り出したゴーゴ号の音に負けないくらいの子供達の声を背なに受け、俺たちはニリド村を後にした。




「という訳で、俺たち晴れて3級の冒険者に昇格したんだ」


 シェカドへ帰りロゼッタの元へ訪れると、3級の冒険者である事を示す色に変わったタグを見せて、ニリド村での出来事を話した。


「凄いです!私感動しました!」

「またロゼッタは…、そんなに褒めるとアーデンが調子に乗るわよ?」

「何を言うレイア、喜ぶべき時は喜ぶ!そして今は最高に喜ぶべき時だ!」


 俺は自分の冒険者タグを握りしめ高く掲げた。ロゼッタはパチパチと手を叩いて称えてくれたが、レイアはやれやれと呆れたように首を振った。


「何だよう、嬉しくないのかよう」

「う、嬉しくないとは言ってないでしょ。ただあんまりはしゃぐとみっともないってだけ!」


 内心では嬉しいと思っているくせにと俺は思ったが、レイアはふんとそっぽを向いてしまった。照れ隠しが下手くそだ。


「でも本当に私感動しましたよ。お二人の冒険の話はいつも面白いです」

「そ、そう?」

「ええ、今まであまり冒険者の方とこういった話をした事がなかったんです。仕事で一緒になる事はあっても、護衛者と被護衛者の関係だったし、教授からもあまり馴れ馴れしくしないようにと教わってきましたから」


 それは意外だなと思い、俺は理由をロゼッタに尋ねた。


「教授はどうしてそんな事を?」

「私達は遺跡に関わる身ですから、アーティファクトの知識も自然と蓄積されていきます。そして冒険者の欲しがる情報の最たるものがそのアーティファクトです」

「成る程読めてきたぞ、つまりあまり馴れ合うと都合よく利用されかねないって事か」

「私はまだそういった経験はありませんが、教授はそれで一度痛い目を見たと仰ってました。経験に則った忠告だったので、私も守り続けてきたんです」


 すべての冒険者がそうではないと思いたいが、中には自分たちだけが得をする為に迷惑を顧みない連中もいるという事か。俺もレイアもアーティファクトに興味はあるけれど、その方向性は他の冒険者とは大分異なる。


 俺はただ純粋に興味があって、伝説の地への手がかりが見つかればいいだけ。レイアはただ研究と観察の対象であって、彼女にとってアーティファクトは手に入れるよりも作り出す物だ。


「皆色んな事情があるんだなあ」

「ふふっ、そうですね。だから冒険者の友達から話を聞く機会がくるなんて思いもしませんでした」

「そっか。ロゼッタが楽しんでくれるなら、俺たちももっと色々な所に行ってみなくっちゃな」


 ニッと笑顔を浮かべてロゼッタに笑いかけた。彼女はそれを受けくすりと笑うと、何か思い出したようにぽんと手を叩いた。


「そうだ!お二人にお伝えする事があったんです」


 そう言うとロゼッタは、石板に被せてあった布をバッと取って俺たちに見せた。


「ウラヘの滝の石板、解読が進みましたよ。もしかしたら新しい石板が見つかるかもしれません!」


 非常に興味をそそられる話だ、俺とレイアは身を乗り出してロゼッタの話を聞くことにした。

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