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エピローグ

 闇に潜む邪悪な組織の親玉シェイド・ゴーマゲオの討伐、伝説の地を発見しそこからの帰還、そして死亡したと思われていた偉大な冒険者ブラック・シルバーの生還、それら多くの偉業を成したのはそのブラックの息子と仲間たちであった。


 偉大な冒険者を継いだアーデン・シルバー、稀代の発明家レイア・ハート、賢者アンジュ・シーカー、英俊豪傑カイト・ウォード。彼ら四人の冒険を書き記した冒険譚はまたたく間に世界へ広がり、多くのものがその名を知ることになった。


 彼らから話を聞き取り冒険譚としてまとめたのはモニカ・ワードという女性だった。彼女自身もエイジション帝国で起こった騒乱でアーデンたちの力となり、シェイド討伐の決定打を与えた存在でもあった。


 帝国の失墜と共にワード家も没落の憂き目にあったが、真実を細かに記したこの冒険譚のおかげで持ち直し、結果として家内で冷遇されていたモニカが家を救うことになった。


 共著者である考古学者ロゼッタ・アビスは、共に戦った戦友でもあり、そこで固く結ばれた絆をもつ盟友でもあった。ロゼッタもアーデンたちとの親交があり、グリム・オーダーの魔の手から救われた経験があった。


 彼女たちの活躍によってシェイドとグリム・オーダーの所業が明るみになり、そのことは各地にばらまかれた不穏の種が、芽吹く前に取り除かれることに寄与した。


 しかしそれでもシェイドの残した爪痕は深く食い込んでいた。深く闇へと根を張り、グリム・オーダーの負の遺産はゆっくりと人々の中に浸透していた。


 だがそんな闇に常に目を光らせ、凶兆あれば即座に摘み取るものがいた。


 その者の名はリュデル・ロールド。滅亡の危機にあった帝国を救うべく、現皇帝オーギュスト・エイジションと協力体制を敷いて守り抜いた英傑である。


 彼はシェイドの遺産を排除するための組織を結成し、闇へと溶け込む前にそれらを刈り取り続けた。その組織は彼の懐刀である二人の人物を中心として結成されており、情報収集と分析、各地の警戒網の構築をメメル・アンバーがトップとして担い。実働部隊のトップであるフルル・アンバーは、情報を元に素早く動き、陣頭に立って組織を率いた。


 リュデル、メメル、フルル、三人の活躍によって世界からシェイドの遺志が取り除かれていた。リュデルはそれを「償い」と称していたが、その意味を周りに明かすことはなかった。


 皇帝オーギュストは帝国国民のことを愛し、平和の尊さを訴えかけ争いを嫌った。理想を語るだけではなく率先して活動を行い、名ばかりの皇帝はいらないと自ら言い放ち、国内外を積極的に訪れ交流を重ねて理想の実現に尽力した。


 兄である前皇帝リチャードがシェイドに傾倒していた理由は不明のままであった。遺体も残らず消えてしまったリチャードだったが、帝国国内にひっそりと埋葬された息子エルダーの墓に遺品と共に葬られた。


 世界を混乱に陥れた大罪人である二人の墓に訪れるのは、オーギュストとリュデルというごく僅かな人だけであった。シェイドに踊らされた彼らの魂が慰められる時がくるのか、それは誰にも分からなかった。




 偉大な冒険者たちとなったアーデンたち一行は、活躍が認められ冒険者ギルドから最上級である黄金の位を授けられた。しかしそれを受け取ってからパーティーを解散してしまい、これからの活動を期待されていただけに周りからは残念がられた。


 カイトはシーアライドを拠点に船を駆り、自由気ままに大海原を旅した。世界中を巡って時折各国の港へ船をつけた。


 そして行く先々で問題を解決したり、逆に自分が問題を起こしたりと、騒ぎの中心であり続けた。


 だが彼が立ち寄った場所ではどんな問題が起きても最後には丸く収まり、そしてどんちゃん騒ぎが始まった。そこには争いなどなく笑顔だけがあった。カイトは行く先々で仲間を作っては笑顔の輪を広げていった。


 アンジュはサンデレ魔法大学校へと復校した。冒険者からの復校は異例中の異例で反対意見もあったが、アンジュ自らがその意見をねじ伏せて特例を認めさせた。


 そもそも大学で強大な権威を持つものであっても、アンジュほど固有魔法を作り出したものはおらず、知識量だけでなく技量も遥か劣る。冒険によって磨き上げられたアンジュの魔法の前に敵う魔法使いは誰もいなかった。


 復校してすぐに頭角を現したアンジュは次々と研究成果を発表し、停滞し始めていた魔法学を刷新していった。古きに固執せず挑戦的な意見を取り入れて、生徒間の交流と意見交換を促し大学をもり立てた。


 恩師テオドール教授の後押しもあり、アンジュは付属校の設立の責任者となった。


「より多くの人々に学びの道を」


 その志を掲げて設立された学校には多くの生徒が集まった。アンジュはそこで教鞭をとり、魔法の楽しさと素晴らしさを広めていった。


 レイアはファジメロ王国に新たな技術開発研究機関を設立し、そこの代表に就任した。自らの発明品を自らで各国に売り込み出資者を集め、自分が好きなだけ研究開発ができる環境を作り上げた。


 そこには人見知りだった頃の彼女の顔はなく、どれだけ発明品をこき下ろされようとも、一歩も引き下がることのない不屈の精神で突き進む彼女の成長した姿があった。


 秘宝という異世界の技術と並び立つものを作り出す。そんな荒唐無稽な夢にレイアは全力で向き合った。世界中のあらゆる技術の粋を吸収し昇華させ、あらゆる発明品を生み出した。


 類まれな才能を発揮して莫大な富を築き上げたレイアであったが、どれだけ大金を積まれようとも絶対に譲らない一線があった。それは自分の発明は「愛と平和」のためにだけあるというものだった。


 自分の発明が人の世を更に豊かにする、しかし、それと同等に争いと悲しみを生む可能性を常に考え続けた。責任を果たすべく、独自に調査を行う機関を設けて、発明品を悪用させないように目を光らせた。


 レイアは発明の他、魔物の生態についての研究も行った。足繁く通った先はシチテーレであり、訪れる度に小さな墓標へ沢山の花束を供えるレイアの姿があった。


 伝説の地から生還したブラックは冒険者を引退し、妻であるエイラと一緒に過ごす時間を増やした。冒険者ブラックの跡を継いで、新しい偉大な冒険者として活動を始めた息子アーデンであったが…。




 そのアーデンは今、森の奥深くでジャイアントビーの群れに追いかけ回されていた。木の枝から枝へとファンタジアから伸ばした紐でスイングを繰り返し逃げて回るが、ジャイアントビーの群れはしつこく追いかけ続けてくる。


「特殊個体とは聞いてたけどでかすぎるだろ!まさかあれが巣だったなんて!」


 森を探索していたアーデンは、巨大な岩が転がっているのを見て麓で一休みしようと岩に寄りかかった。その瞬間とてつもない羽音が岩から響き渡り、ようやくそれがジャイアントビーの巣だと気がついた。


 完全に油断していたアーデンは気配にもまったく気が付かず、一目散にそこから逃げ出した。依頼内容に記載されていた大きさよりも遥かに大きいジャイアントビー相手にどう戦ったものかと思案しながら逃げ回っていると、上空から放たれた魔法が一匹のジャイアントビーを撃ち落とした。


 アーデンは空を見上げる、見つけたそれに笑顔を向け大きく手を振って叫んだ。


「おーい!皆!どうしたんだそんな所で!!」

「アーデンさん!助けに来ましたよ!」


 手を振り返すアンジュが言った。謎の機械を操縦しながらレイアも叫ぶ。


「見なさいアーデン!ゴーゴ号改良型よ!陸海空どこでも自由自在なんだから!」

「すっげー!!めっちゃかっこいい!!」

「ほら掴まれよアー坊!」


 ゴーゴ号から身を乗り出して手を差し伸べたのはカイトだった。アーデンは手にめがけてファンタジアの紐を伸ばした。受け取ったカイトが引っ張り上げアーデンが空を飛ぶゴーゴ号に乗り込む。


「久しぶりだな皆!でもどうしてここに?」

「いやあ海の旅もいい加減飽きてきてな、久しぶりに皆の顔を見たくなったんだ。で、アンジーに会いに行ったらさ」

「私の所へはレイアさんが来ていたんです。冒険のお誘いを受けたのでカイトさんと共に乗り込ませてもらいました。そろそろフィールドワークをしたかったので渡りに船でした」

「皆にゴーゴ号の改良型をお披露目したくてね、ラボのメンバーも随分成長してきたし、そろそろアーデンの冒険に付き合ってあげようかなってね」

「はははっ!そっかそっか!じゃあ手始めにあのでかい蜂何とかするの手伝ってくれよ」


 こうして偉大な冒険者たちは再会した。互いに笑顔を向け合い、肩を抱き、声を上げ拳を突き上げた。この広い広い世界のすべてを、四人でまた冒険の旅に出る。いつまでもいつまでも、果てなき夢を追い続けて。




 了

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