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皆で出した答え

 とうとう伝説の地へ訪れた俺たち、そこで父さんに再会し、秘宝の正体を知った。俺たちの住む世界とは別世界からやってきた秘宝は、世界をマナという未知のエネルギーで満たし、それを操作することで願望を叶える機能をもっていた。


 秘宝、マナ、アーティファクト、魔法、それぞれの関係性が明らかとなって、より秘宝のもつ危険性が明確なものとなった。人には過ぎた力である秘宝。手にすればシェイドのように世界を変えかねない。


「今回の冒険、俺の目的は伝説の地を見つけることだった。皆の協力のおかげでその夢が叶った。本当にありがとう皆」


 まず俺はお礼を述べた。皆がいてくれなかったら俺はここまで来ることも、父さんと再会することもできなかった。深々と頭を下げた。


「…ここにたどり着くまで、俺はずっと考えていたことがある。それは…」

「おっとアー坊!ちょいと待ってもらおうか」


 話を遮ってカイトが声を上げた。俺は視線を送ってカイトに主導権を譲る。


「俺の夢は皆のことを守ることだった。そこで聞きたい、俺ぁ皆のことを本当に守れたかな?」


 その問いかけにレイアが真っ先に言った。


「何馬鹿なこと言ってるのカイト、あんたがいなかったら私たち何度死んでたか分からないわ。シェイドとの戦いだって、カイトが庇ってくれたから私たち助かったのよ」

「そうですよカイトさん。でもいくら人よりちょっと頑丈だからって無茶し過ぎですよ?そこは反省してください」

「お嬢…アンジー…、お小言はさておいて俺ぁその言葉が聞けて嬉しいぜ」


 アンジュの小言は置いておくのかと俺は苦笑いをした。そしてカイトに向かって俺も言葉を投げかけた。


「カイトは俺たちを守ってくれただけじゃあない、俺たちの心の支えにもなってくれていた。一緒にいてくれるだけで俺たちは安心することができたんだ。カイトは俺たちの心まで守ってくれたんだ」

「へへっ、そうか。アー坊がそこまで言ってくれるんなら、俺ぁ俺の夢を果たせたって胸張れるぜ。じゃあ次!ほれアンジー」


 カイトに呼びかけられたアンジュ、そういうことですかと前置いてから話し始めた。


「私は皆さんとの冒険を通じて、沢山のことを学び、魔法の技術を磨き上げ、多くの固有魔法を編み出しました。それどころか秘宝とマナの関係という、魔法の真髄をこの目で見ることができました。魔法使いの本懐を遂げられたと言っても過言ではありません」


 アンジュは魔法だけではなく、持ち前の聡明さで俺たちのことを何度も助けてくれた。俺たちだけでは知り得ないことを知り、気付けないことに気がついてくれた。


「私が今考えているのは、この冒険で得た学びを多くの人に伝えたいということです。そして魔法学の発展に努めたい。今はまだ未知のエネルギーであるマナですが、きっと研究していけば既知のエネルギーへと変えられるはずです。別世界の存在にも興味を惹かれますし、知りたいことはまだまだ沢山あります」

「なんだか生き生きしてるなアンジュ」

「ええ!アーデンさんの冒険心と同じですよ」

「ワクワクってやつかアンジー」

「意外と似たもの同士よね二人とも」

「ふふっ、ありがとうございます。ではレイアさん、どうぞ」


 一斉に視線を向けられたレイアがこほんと咳払いをした。そして意を決したように話し始める。


「私の夢はアーティファクトを越えるものを作ること…だったけど秘宝を見て触って感じたの、これは越えるものではなく並ぶものだって。まったくの未知の技術で作られているし、触った瞬間分かったの、これは理解できないものだって」

「理解できないものか…、レイアがそういうなら本当なんだろうな」

「そうですね。私もどう表していいのか分かりませんが、秘宝は私たちにとって理外の存在のような気がします」

「アンジュの言う通りよ、秘宝からはどこか異物感が拭いきれないの。そりゃそうよね、だってまさか世界の外から来たものだなんて想像もつかないもの」


 確かにそうだと俺たち三人はうんうんと頭を振った。


「それでどうするんだお嬢?」

「越えられないなら並び立てばいいのよ。私は私とこの世界の技術を使って異世界に並ぶものを作ってみせる。目的は勿論愛と平和のため、世界の可能性を広げるためによ。願えば叶うものを作るんじゃない、願いを叶える可能性を作り出すの。それが私の新しい夢」

「よし!これで皆の意見は出揃ったな。待たせたなアー坊、せーので皆の意見を言おうぜ」


 話の途中でカイトの意図に気がついた俺は、しっかりと頷いてからすうっと息を吸い込んだ。そして大きな声で「せーのっ」と合図をした。




 皆と息を合わせて出した答えはまったく同じものだった。カイトは、皆同じ思いだと俺に教えてくれていた。


「秘宝も伝説の地も再封印する」


 それが俺たちの出した答えだった。俺たちの呼びかけに応じた四竜が印から姿を現す。そして俺たちの答えを伝えた。


「そうか…、この地をもう一度閉じるのだな」

「ああ、秘宝は誰か一人の手に渡っていいものじゃあない。四竜の皆にはもう一度ここを守ってほしいんだ」


 俺はサラマンドラにそう言った。するとニンフが俺たちに問いかけてきた。


「恩恵は受けずともよいのですか?」

「いやいやニンフよ。俺らは十分に堪能したぜ?夢幻の存在だった伝説の地に立って秘宝を目の当たりにした。冒険の成果としては十分過ぎる」

「そうそう。それにさ、願えば何もかも思い通りになるなんてつまらないよ。俺たちは、俺たちの力で夢を叶えていくんだ」


 俺がそう言うと、ゲノモスが笑い声を上げた。


「まったく欲のねえ連中だな。だがそうだな、嫌いじゃあねえぜお前たちのその答え」

「ええ、私もゲノモスに賛同します。世界の守護、この四竜が承りましょう」


 ゲノモスとシルフィードが賛成してくれた。すると俺たちに刻まれた印がするすると剥がれて宙へ浮き、光と混ざり合うとそれぞれの印が竜の姿へと変貌した。本来の姿となった竜たち、四竜の代表としてサラマンドラが声をかけてくる。


「この地と秘宝を再度封印する。当然それにはお前たちも含まれる。心残りはないな?」

「ええありません。しっかりと世界と秘宝を守ってくださいねサラマンドラ」

「ニンフ、海に出たらまたお前と会えることもあるだろ。その時は綺麗な歌声でも聞かせてくれよな」

「あなたから教わった勇気の心、私はそれを忘れないわシルフィード。風と一緒に見守っていてね」

「シェイドを倒して伝説の地に来たけど、俺はまだまだ自由にこの世界を冒険し続けるぞゲノモス。俺たちに力を貸してくれてありがとう。きっとまた会おう世界の守護神たち、そして俺たちの仲間たち!」


 俺たちは四竜に向かって大きく手を振った。伝説の地とそこに眠る秘宝はまた世界から守られ隠されることになる、これが今生の別れになるかもしれないことも分かっている、それでも俺たちは「また会おう」という気持ちを込めて手を振った。


 秘宝と四竜たちの姿がどんどんと遠ざかっていく、やがてそれが見えなくなると、俺たちはクロン島の元の場所へと戻っていた。


 夢や願いは自分たちの力で叶えるもの、秘宝を使えばきっと次々と欲が出てくる。どれだけ気高く志をもっていても、人は誘惑を完全に振り払えるほど強くはない。


 地に足をつけ、ゆっくりでもいいから夢に向かって進んでいく。俺たちの冒険はそれでいい。いいや、それがいい。


「それじゃあ皆行こうか!次の冒険が俺たちを待ってる!」


 皆でおおっと声を上げて拳を突き上げた。その手の甲にはもう竜の印はない。だけど刻まれた思い出は、決して消えることはないだろう。




 シーアライドでカイトと、サンデレ魔法大学校でアンジュと別れて、俺たちは故郷のファジメロ王国へと戻ってきた。家の前でレイアと別れ、俺と父さんはそーっと音を立てずに我が家の扉の前に立った。


 家には明かりがついていた。ということは母さんがいる。俺は父さんの脇腹を小突いた。小声で父さんが俺に抗議する。


「痛っ!何すんだよアーデン!」

「父さんから行けよ」

「いやいや分かってるだろ?エイラちゃん絶対怒ってるから!」

「分かってるから父さんから行けって言ってんだよ!」

「おまっ、お前は怒ったエイラちゃんの本当の怖さを知らないからいいよな!そういうこと簡単に言えて!」


 玄関前でそんなヒソヒソ話をしていると、がちゃりと扉が開いて俺と父さんは同時に尻もちをついた。母さんが険しい表情で俺たちを見下ろしている。


「あいにくだけど声を潜めても全部聞こえてたから」

「ヒェッ!あの、その、エイラちゃんこれは…」

「言う事は?」

「へ?」

「二人共、家に帰ってきたんだから言う事があるでしょ?」


 俺は父さんと顔を見合わせて頷くと、声を揃えて元気よく言った。


「ただいま!」

「おかえりっ!」


 涙を流しながら俺たちに抱きついてくる母さんを、父さんと二人で受け止めた。見たことないくらいにわんわんと泣く母さんを俺と父さんの二人で強く抱きしめた。


 こうして俺たちの秘宝を巡る冒険は終わった。伝説の地を見つけ、父さんを連れて帰ってこられた。初めての冒険としては上出来だろうと、涙を流して喜ぶ母さんを見てそう思った。

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