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秘宝 その1

 船出前、まだ俺たちがエイジション帝国にいた時のこと。伝説の地がある場所を知るために、俺たちは四竜と対話をしていた。それぞれの印から浮き出た光の玉がぴかぴかと輝いて言葉を紡ぐ。


「クロン島?」

「聞いたことないか?」


 橙色の光、つまりゲノモスが俺に聞いた。頭を振って聞いたことないと返す。


「俺ぁ知ってるし、一度行ったことあるぜ」

「そうなの?」


 レイアに聞かれてカイトが頷く、しかし首を傾げて不思議そうな顔をした。


「最果ての地、絶海の孤島クロン島。名前だけは大層なもんだがあそこにはなーんにもないぜ?そこそこの陸地に雀の涙ほどの自然、生物も魔物もいない無人島さ」

「確かにカイトの言う通り、あの場所には特別なものはなに一つありません」


 青色の光が瞬きニンフが言った。じゃあどうしてそんな場所の名前を出したのかと聞く前に赤色の光、サラマンドラが喋り始める。


「しかし何もないことこそが重要なのだ。何の変哲もない無人島、その事実が隠れ蓑としてちょうどよい」

「何の伝承にも残らず、特別なものもなく利も産まない、長い航海の補給地点としても使えないからこそ、自然に人々の記憶から消えていく」

「そういった理由からクロン島が封印の場所に選ばれたのです。クロン島と似たような条件で、もっと資源が豊富な島は多くありますし、逆に同じような環境でありながら、クロン島よりも劣悪な場所というのもあります。中庸であるからこそ記録にも記憶にも残らない島なのです」


 サラマンドラ、ゲノモス、シルフィードと続いてクロン島について話してくれた。散々な評価だなと思ったが、意図は伝わってきた。


「要は一番無関心な場所が一番バレにくいってことか」

「その通り。そしてクロン島自体には何ら仕掛けもない。どれだけ調査しようとも竜の印がなければあそこはただの無人島。シェイドは今まで何度も、入念にクロン島を調べ上げていたが、何も得られるものがなく引き返していた」

「そこにあるって分かっているのに何もできなかったんだ。あいつにとってすごく業腹ものだったでしょうね」


 レイアの言葉にアンジュとカイトがうんうんと頷いた。確かにあの老人が思い通りにならなくて癇癪を起こしている姿が目に浮かんだ。割と激情型だったし、手当たり次第当たり散らしていそうだ。


「まあやっと死んだジジイについては置いておいてだ、とにかくそこへ行けばいいんだな?」

「ええ、あなたの船ならば問題ないでしょう」


 ニンフの言葉に、カイトはぐっと握りこぶしを作ってポーズを決めた。


「任せときな!久々に船乗りの血が騒ぐってもんだ!じゃあ一度シーアライドに戻って、セリーナ号を迎えに行くとするか」


 こうして俺たちの目的地はクロン島に決定し、現在の船旅へと至る。カイトの駆る船に乗り、波に揺られ辿り着いた孤島は、本当に何一つとして特徴がない無人島であった。




 島に降り立った俺たちはまず辺りを見渡して状況を探った。とはいっても、大きくはない島に草木もわずか、見えるのはただ広い海ばかりで何もない。


「これは…、確かに言うだけのことはありますね」


 アンジュが苦々しい顔で呟いた。照りつける日差しばかりが強くてそれがまた物悲しい、人が好んで訪れるような場所ではない。


「で?ここでどうしたらいいんだ?」

「そう言えば来てからどうしろとは言われてないわね」

「聞いておけばよかったですね」

「すっかり忘れてたな。ともかく行こう!って行動し始めちゃったし」


 それぞれの顔を見合わせて苦笑いをする。ここまで来てなんて計画性のないことかと段々恥ずかしくなってきた。偉大な冒険者たちが聞いて呆れる。


 そんな時、全員の手の甲にある竜の印が強い輝きを放ち始めた。目を開けていられないほどの明るさに思わず目を覆って閉じた。それでも白む視界の中、ようやく光が収まってきてから目を開けて俺たちは驚いた。


「な、何だここは?」


 辺り一面に広がっていた海は消え、足元にあったはずの島さえなくなっていた。真っ白な景色の中にぽつんと四人で立たされており、何もない島よりも更に何もない白い空間へいつの間にか来てしまった。


「こりゃあ一体どうなってんだ…?」

「アンジュ、これって魔法かなにか?」

「いえ違います。濃いマナを感じますが、ここには魔法的な要素が見受けられません」

「ということは、まさかここが伝説の地なのか?」


 俺がそう言うと背後からパチパチと手を叩く音が聞こえてきた。先程まで気配の欠片もなかったはずなのにと、全員が警戒態勢をとって振り向いた。


 だが、そこで見た人物に俺とレイアは跳び上がって驚いた。すでに杖を構え尾を展開していたアンジュと、いつでも殴りかかれるように構えていたカイトは俺たちを見て驚いていた。


「ワハハハ!中々元気があってよろしい!冒険者の先輩としてドンパチかますのも悪かねえが、それより今は再会を喜びたい所だな」

「再会?ということはもしかしてあなたが…」

「父さん!!?」「ブラックさん!!?」


 驚きの声が揃った俺とレイア、その様子を見て父さんはまたしても豪快に笑った。


「ワッハッハ!久しぶりだなあアーデン!レイアちゃん!本当によくここまで来た…。ちょっと見ない間に随分とでっかくなっちまって…。おっとしんみりするのはまた後だな。お前たちよく来たな、ここが秘宝眠る伝説の地だ」


 父さんがバッと手を広げると、一面真っ白だった景色が一気に変化し、星空の中にいるかのような景色へと変わった。竜域に似ているようで少し違うような不思議な感覚の場所だった。


「さあ、秘宝の所まで案内するからついてきな。道すがら色々と話しもしてやるよ」


 そう言って父さんは歩き始めた。目まぐるしい展開に頭がついていかないが、俺たちは互いの顔を見合わせて頷き、後に続いて歩き始めた。




 夜空の上を歩いているかのように、道なき道を父さんは迷いなく進む。


「どうだ伝説の地ってやつは?結構殺風景で拍子抜けしたろ?」

「あの、えっと…」

「気にすんな気にすんな!俺も同じこと思ったから!君がアンジュちゃんだな?息子が世話になったな」

「え?どうして私の名を?」

「俺はここでお前たちのことをずっと見守ってきたからな。まあ見てるだけしか出来なくてもどかしかったけど、俺にも事情があってな」

「事情っすか?」

「おう、やむにやまれぬ事情があったんだよカイト君。俺がシェイドに死にかけたことは知ってるよな?」


 俺たちは全員頷いた。それはシェイドから聞かされたことだ。


「あのジジイの企みに乗せられて手痛い目にあった俺は、命からがらここへ逃げ込んだ。その時の俺は一矢報いたが死にかけていてな、本当にあともうちょっとで死ぬところだったんだ」

「はあ!?父さんそんなことになってたの!?」

「いやあ完璧に油断してたからな、あのジジイ俺一人殺すためにそりゃ大層な準備してやがってな。まあそれでもジジイ以外の奴はぶっ飛ばしたんだが、肝心要の奴を仕留める前に死にそうになった。そんで逃げ込んだのがここってことだ」


 シェイドは父さんに差し向けた刺客を大軍と称していた。それを大怪我を負った上で討ち倒し、ついでにシェイドにまで迫ったと父さんは軽く言ってのけた。


 しかも父さんは武装型アーティファクトのホルダーではない。つまり自力のみでそこまでできるということだ。我が父ながら本当に人間か疑わしくなってきた。


「父さん、そんなに無茶したのかよ。母さんに怒られるぞ」

「…やっぱり?」


 俺が頷くと父さんは震え上がった。父さんにとって、シェイドに襲撃されるよりも母さんから怒られる方がよほど恐ろしいらしい。


「そ、それはそれ!これはこれだ!…ともかく俺はここに逃げ込んだはいいが、怪我の程度が自分で治療できるようなものじゃあなかった。そのままでは待っているのは確実な死だ。でも俺はまだ死ねなかった。愛する家族の待つ我が家へ帰るまでは俺の冒険は終わらないからな」

「ブラックさん…」

「俺はそこで願った。まだ死にたくないってな。するとどういう訳か体の傷がみるみるうちに治っていった。すっかり元通りの体になった俺の目の前に現れたのが秘宝だった。秘宝が俺の願いを叶えてくれたってことだ」


 死にかけの重症をあっという間に回復させ元の体に戻す。秘宝の力は本当に計り知れないものがある。ただそれで、やっぱり疑問に思うことがあった。


「父さん。秘宝って一体何なんだ?どんな願いでも叶えるものなのは分かってるけど、どうしてそれが所有者を求めているんだ?」

「…人の身には余る力の具現、願望を実現させるもの、正直秘宝を知った上でもこいつをどう呼称していいのか俺にも分からない。だから自分たちの目で確かめるといい」


 父さんはそう言って足を止め前方を指さした。そこにあったのは薄い手のひらサイズの板のようなものだった。宙に浮いたままそこに留まっている。


「あれが秘宝の姿だ。そしてこいつは、この世界のものじゃあない。別の世界からやってきたものだ」

「別の世界…?」

「秘宝が元あった世界の名は地球と呼ぶそうだ。それがどんな運命を辿ったのか移ろいこの世界へとやってきた。これが秘宝の正体だ」


 秘宝を目の前にして俺たちは言葉を失う。これがこの世界のものではなく、別の世界から来たものだと聞かされても何の実感も得られなかった。


 しかしここで父さんが嘘を言うはずもない。小さな板切れにしか見えない秘宝は、ただそこにあった。

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