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VS.シェイド その1

 城の屋上で待ち構えていたシェイドは空を見上げていた。駆けつけたアーデンたちは武器を手に取りシェイドと対峙する。


「やはり来たか。死を選ぶとは愚か者よ」

「違う、俺たちが選んだのは未来だ。お前を倒して過去から続く因縁を終わらせる未来を選んだんだ!」

「そうか、しかし見ろ。ここからならよおく見える」


 シェイドが指さしたのは恐怖に怯え慌てふためく民衆の姿であった。帝国の復活に沸いていたお祭り騒ぎは消え、我先にと逃げおおせるために争い合っている。


「なんと醜い姿か、しかしあれこそ人の本質、他を蹴落とし自らだけ助かろうとするが人というもの」

「寝ぼけたこと言ってんなよジジイ。これはテメエが引き起こしたことだろうが」

「そうだな。だが彼奴らの声がお前たちを見誤らせたのも事実だろう?操られていただけに過ぎなかったエルダーだが、計画の中軸であり父親の異変に唯一気がつくことが出来た可能性のあった存在。それを殺せと叫び、歓喜したのは誰だったかな?」


 高みから人を見下してシェイドは言った。


「いつの世も人は変わらぬ。持たざるものは持てるものの足を引っ張り、持てるのもは人の世に尽くすでもなく保身のために人生を捧げる。真に世界のことを考え行動することの出来る人の少なきことよ」

「あなたはそうしていると?」

「吾輩は常に世界を思って行動している。人の持つ可能性を広げ、新たな能力を生み出し、力だけの遺物であるアーティファクトをその身に宿す新人類さえ作り出した。吾輩がまいた種はやがて密かに芽吹き、人の世を覆い尽くすであろう」

「種をまいたですって?」

「グリム・オーダー解体の目的は、研究の成果を世に放つことだった。多くの構成員は捕縛され死の処罰を受けたであろう。しかし我々が培った技術力に目が眩むものや、通常の方法では絶対に手に入らないであろう押収品の数々、それらがすべて処分されているなどと本当にそう思うか?」


 世界各地で一斉に投降を始めたグリム・オーダーの構成員、暴れることもなくただ言われるがままに拠点の場所も白状した。そこで見つかった改造人間や、違法な研究を行って作り出された物品は、各地の自治の裁量に任されていた。


 一つでも保有しておけば他国を出し抜くことの出来る危険なものが世界中に散らばった。アーデンたちはグリム・オーダーの凶行を知っている、だからそれらが破棄されていて当然だと考えていた。


 しかし全員が同じように考えるだろうかと聞かれると、それは否定しきれなかった。欲に流された人がいる可能性は十分に考えられる。


 アーデンの母エイラの勘は当たっていたのだ。投降は目くらましではなく、倫理観を無視した違法な研究の成果の数々を世界にばらまくこと、シェイドはその事実を起爆剤とし、世界に再び大戦争の火を放とうとしていた。


「力というものは持つべきものだけが持ち正しく使われるべきだ。秘宝など無くとも戦を引き起こすことは容易いぞアーデン。そして秘宝が吾輩の手に戻れば、世界はもっと大きな戦乱の火に包まれる。さすれば愚昧な民衆も考えを改め、生存するために強くならねばならないと気がつく。吾輩はそうして世界を進化させていくのだ」


 シェイドの言葉には迷いがなかった。本気で争いだけが人を進化させる手段と信じており、それこそが世界をよくする方法だと考えている。古き時代から生き延び続けているシェイドの考えはまったく変わっていなかった。


 だがアーデンたちはそれぞれ一歩前に進み出て言った。


「もしお前の理想の世界になったとしても、お前はそれを最も安全な場所から眺めて悦に入るつもりだろう?人々の争いはお前にとって、飽いて空っぽになった心を満たすための暇つぶしの一つに過ぎないからな!」

「世界も人間も、あんたのおもちゃ箱じゃあないのよシェイド。あんたが争いのためだけに生み出した魔物も、もはやあんたの手から離れて独自の進化を遂げている、命がけで人を守る心を持った子だっているのよ!」

「人の可能性の一側面しか見ず、それで人を理解した気になっているとは笑わせてくれます。人はあなたのように愚かなだけではない、心の内はもっと複雑で、だからこそ分かり合う尊さを知っている」

「老いぼれの夢はここで終いにしようや。テメエには確かに才能があってカリスマもあるんだろうよ。だけどな、何故自分が負けたのかを考えつかなかったお前に未来はねえよ。それをあの世で息子たちに教えてもらうんだな」


 それぞれの言葉でシェイドに対して啖呵を切った。シェイドは最初それを鼻で笑い、その内には肩を揺らし、そうして最後には空を見上げて大笑いした。


「ハッハッハッハッ!!愚か者はどこまでも愚か者か。いや、吾輩も愚か者だな、お前たちに語る言葉などとうに尽きた。もはやこれで語るのみよ」


 シェイドが大きく手を開きパンと手を叩いた。すると黒い球体がその身を包み込み、それがどんどんと膨らんで大きくなっていった。見上げるほど大きくなった球体は、内側からバリバリという音が鳴り始めた。


 壁を突き破って出てきたのは体長6メートルはある巨大な怪物であった。ウェアドラゴンのように四本の脚と強靭な尻尾を持ち、体からも腕が四本生えていた。長く大きくなった人の腕と、竜の鉤爪をもつ腕、背からは大きな翼がついている。


 頭はもはや人のものではなく醜く歪み、耳まで裂けた口からギラギラと光る牙が覗く、長く伸びた白髪の間からは角が生え、異形のものであることを強く印象付けた。


「これこそ我が力と研究の真髄、人竜合一魔人なり!!数多の改造人間の屍を築きあげた研究の粋!!そしてウェアドラゴン化したリチャードを吸収して作り出した竜の体!!貴様らに万に一つも勝ち目はないッ!!!」


 人竜合一魔人シェイド、アーデンたちはその化け物に怯むことなく立ち向かっていった。




 鉤爪を振り下ろす攻撃をカイトが渦巻によっていなす。二本目の腕の一撃はアーデンが間に入って斬り払った。しかしシェイドは残った両腕から魔法を放ち、アーデンとカイトの真上から「業火炎弾」が襲いかかる。


 アンジュが杖と尾を差し向け「魔絶障壁」を張って防ぐ、レイアはシェイドの頭を狙って機銃を発射した。ダメージはそれほど大きくないが視界は遮られる。


 その隙をついてアーデンとカイトは懐に潜り込んだ。アーデンは紫電を、カイトは拳を振り抜いて脚を攻撃する。だがしかし。


「硬い!紫電の刃が通らないなんて!」

「こっちもだ!びくともしねえ!」


 紫電の斬撃は表皮を少しだけ傷つけるに留まり、カイトの拳撃も拳の跡を残すのみで終わった。シェイドは脚を上げて二人を踏み潰そうとする、アーデンはファンタジアの紐を伸ばすとカイトを連れてその場から離脱した。


 脚が踏み抜かれると屋上の床に亀裂が走った。シェイドの重さと攻撃の衝撃に耐えきれず、そのまま割れて崩れ落ちる。崩落に巻き込まれまいとアーデンたちは近くのものに必死でしがみついた。


 シェイドは何度も床に衝撃を加え自ら落ちていった。城の一階から天井に丸く

 大穴が空いて、さながら円形闘技場のように変わる。


 アーデンはレイアを抱え、カイトはアンジュを抱えて下に降りる。瓦礫まみれのステージの中央でシェイドは不気味に笑った。


「どうだ?戦いの場としては誂向きであろう?観客が一人もいないのが不満ではあるがな」


 シェイドが翼をはためかせると強風が巻き起こった。飛び散った周りの瓦礫が浮き上がり風の乗ってアーデンたちに襲いかかる。


 カイトがアーデンたちの前に立ち瓦礫を次々と受け流し弾き飛ばした。しかし強風に足を取られ思うように受けきれない、見かねたレイアはバイオレットファルコンを構えミドルバレルからの射撃で瓦礫を撃ち抜いた。


 カイトとレイアの連携で瓦礫を防ぎきるが、シェイドは長い尻尾をしならせ鞭のように扱い、カイト目がけて叩きつけた。


「まずは貴様からだッ!!」


 改造人間を生み出し続けていたシェイドにとって、カイトの脅威は誰よりも理解していた。加えてカイトは戦いの技術まで磨いており、攻防ともに隙がない。


 それゆえカイトは真っ先に自らが前に出て盾となることをシェイドは知っていた。瓦礫と強風による攻撃も、足場と姿勢を乱し渦巻を封じる一手であった。


 尻尾による一撃は強力無比なもの、重量のある尻尾に振り降ろされる加速が乗って更に威力を増す。いくらカイトの体が頑強でもまともに食らった今ひとたまりもないはずだとシェイドは思った。


「何っ!?」


 しかし土煙が晴れてカイトの姿が現れると、尻尾の攻撃を受け止めて踏ん張る姿が目に入った。受け流す余裕はなかったはずだとカイトを見ると、腕にあるものが装備されていた。


 陽炎盾ソル、リュデルのアーティファクトの盾でカイトは攻撃を受け止めていた。アーデンは飛び出して左手に持った月聖剣ルナで尻尾に斬りかかる、斬り裂かれ血が吹き出す痛みに、シェイドは尻尾をどけた。


「この場で戦っているのは俺たちだけじゃあないッ!!俺たちは仲間の思いも背負ってここにいるぞ!!」


 紫電とルナ、二刀を構えるアーデンが吠えた。この場に居ないリュデルの思いも乗せた鬨の声が響き渡った。

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