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帝国奪還作戦 その6

 クリアを倒したアーデンは、移動する途中でレイアとアンジュに合流した。急ぐ必要はあるが、アーデンの首の傷をアンジュが治療する。その間にお互いの情報を交換しあった。


「ウェアドラゴンだって?またとんでもないものと戦ってきたな二人共」

「いや透明人間も十分とんでもないでしょ。よく勝てたわねアーデン」

「必死だったよ。もしあいつを仕留め残ったと思うとゾッとする、まさか透明化能力を持つ奴までいたなんてな」

「だけどアーデンさんのお陰でその脅威も取り除かれました。その人が積極的に動き回っていたら危なかったですね」


 治癒魔法をかけおわったアンジュがそう言った。アーデンはそれに頷いて同意する。


「恐らく護衛か切り札として残しておいたんだろう。カードを切ってこなくて助かったな」

「つくづく綱渡りねこの作戦。…メメルとフルルは無事なのかしら」


 アーデンからメメルとフルルのことを聞いたレイアがその身を案じた。アンジュも心配そうに俯いた。


「確かめたいけれど今はリュデルの方を優先だ。あいつはエルダーと直接対峙している、リュデルが負けるってのはちょっと想像つかないけど、それでも肝心要の役割だ」


 その言葉にレイアとアンジュは頷いた。運良く合流出来た三人は、治療を終えるとすぐさま駆け出すのだった。




 リュデルの元に駆けつけたアーデンたち、それを見つけたリュデルが手を上げてこっちだと声を抱えた。


「何だよ、もう終わったのか?」


 鼻から血を流して地面に伏せているエルダーを見てアーデンが言った。傍らには砕かれた魔剣スレイヴが散らばっている。


「想定より手こずったがな。一対一の形を取ってくれて助かった」

「数揃えてこなかったの?」

「レイア、言っただろ透明人間がいたって。そいつ不意打ちしてきたんだ、こっちに数の有利があると思わせておいた方が成功率が高いだろ?」

「それにもしクリアの存在に気が付かないまま、僕とアーデンが攻撃を仕掛けて戦闘に突入していたらより危険だった。エルダーはそれも狙っていたのだろう」

「なるほど、じゃお手柄ねアーデン」


 レイアがそう言うとリュデルはぐっと奥歯を噛み締めた。それが純然たる事実であり、リュデルは言葉にしてアーデンにちゃんと伝えなければならないことがあった。


「…レイアの言う通りだ、助かったアーデン。ありがとう」


 素直な態度で礼を述べるリュデルの姿を見てアーデンは少し驚いた。しかしアーデンは、普段では見られない殊勝な態度を見せてくれたことを嬉しく思った。また少しリュデルと打ち解けることが出来たと感じたからだった。


「いいんだリュデル、それぞれの戦いを精一杯やった。それに俺を信頼してクリアのことは任せてくれただろ?…ありがとな」

「ふっ、お前とこんな会話を交わす日が来るなんてな」

「それは俺の台詞だよ」


 アーデンとリュデルがそんなやり取りをしていると、アンジュが手を上げて割って入ってきた。


「和やかな空気を壊すのは心苦しいですが、まだ作戦は実行中ですよ。お二人共まだやるべきことがあるでしょう?」

「「あっ、はい…」」


 苦言への返答の声が揃った。アーデンとリュデルは、顔を見合わせて苦笑いをするのだった。




 本命であるエルダーを手中に収めたことで形勢は一気に傾いた。城から近くで待機中のオーギュストとトロイへ向けて信号弾を打ち上げ合図を送った。


「そうか、成ったか…!」

「これは彼らがくれた機です。ここで畳み掛けましょう、冒険者ギルドを動かしてグリム・オーダーの息がかかった者を捕らえます」

「ああ、そちらは頼んだよトロイさん」



 オーギュストは作戦の成功を喜んだが、その表情はあまり晴れやかなものではなかった。冒険者ギルドの介入で、エイジション帝国とグリム・オーダーとの蜜月が知れ渡るのは時間の問題であった。国の存続に関わる大問題である。


 それを主導していたのが現皇帝の嫡男エルダーであったことも、諸外国に対して大いに不利となる事柄であった。帝政を維持することはもはや不可能かもしれない、謀殺されかけて大切な家族を奪われていても、オーギュストにとって祖国であることに変わりはなかった。


 今回の作戦で要となっていたのはカイトであった。派手の大暴れしてもらい要衝の門を破壊し、多くの関心を引き付けた上で負傷者は出しても死者は出さない。


 一番危険な役割であり、無理難題を押し付けられたかたちとなったカイト。それでも二つ返事でそれを了承しやってのけてみせた。ベルクの介入で死者を出してしまったものの、カイトの人柄が功を奏し兵士間に上層部への不信感を抱かせた。


 陽動に目が向いているうちに、少数精鋭で一気になだれ込み電撃的な動きでエルダーを捕縛する。相手に連携を取らせないよう素早く動くことが当初の予定であった。


 しかしシェイドから送り込まれエルダーの元に集まったグリム・オーダーの刺客たち、この存在が迅速な行動の妨げとなった。特殊な能力を持ったシェイドの兵、五人もエルダーについていたのは、全員の想定外であった。


 グリム・オーダーが作り出す改造人間は成功例が少ない。ギリギリまでモニカがトロイと協力して行っていた潜入調査でも、それらの研究が難航しているのを確認していた。タロンを除く四人の成功例は、グリム・オーダー側にとって貴重な戦力であると推察されていた。


 他の改造人間がどれほどいるのか把握出来てはいないが、それでも四人が特別であったことには変わらないだろうと、実際に敵対したアーデンたちは同じ考えを持っていた。


 気がかりであったのはタロンの存在であった。タロンは他四人と違い、改造人間ではなく別の研究の成れの果てだった。レイアとアンジュの二人は、シェイドが単純に強さだけを求めて竜の研究をしていたとは思えなかった。ウェアドラゴンの存在は大きな不安を残すことになった。


 多くの懸念を残しはしたが、エルダーの捕縛並びにグリム・オーダーの刺客全員の排除は、それを上回る大きな戦果であった。その勢いを利用してオーギュストとトロイは動いた。


 オーギュストは帝国兵を集めると、自らの生存と真実を明かし、再統制を図って混乱を鎮めた。帝国軍の殆どのものはエルダーに忠誠を誓っていた訳ではなく、傀儡とされていた皇帝リチャードと帝国に忠誠があった。


 エルダーはまだまだ若輩の身でもあり、皇帝の威光がなければ権力者としての発言力はまだまだ弱かった。お陰で末端にまで毒は回りきらず、オーギュストの生存が特効薬となりみるみる内に勢力は盛り返した。


 冒険者ギルドとしてもシェイドとグリム・オーダーの存在は厄介なものであった。冒険者の活動を利用され、依頼という形でグリム・オーダーに関与してしまった事例が何件もあった。


 それは間接的ではあるがシェイドに与することに変わりない、信用や信頼は一朝一夕に築けるものではないのに、崩れ去る時は一瞬である。ギルドと所属している冒険者たちを守るためにも、グリム・オーダーの壊滅は望むところであった。


 二つの巨大勢力が帝国国内に潜んでいたグリム・オーダーの残党たちを次々と制圧していく、戦いはアーデンたち個から群へと移っていった。


 信号弾を見てカイトも城に走ってきた。珍しく息を切らしているカイトにアーデンが聞いた。


「カイト、今までどこで何やってたんだ?」

「ちょいと頼まれごとを片付けていた。今回やること多すぎて特に頭が疲れたぜ…」


 誰に何を頼まれていたのかをアーデンが聞こうとした時、兵士の一人が急いで駆け寄ってきた。リュデルは一歩前に進み出て互いに敬礼をした。


「報告します!城内の捜索を終え、皇帝陛下は無事に保護されました!」

「そうか…ついにやったか…」

「オーギュスト様がリュデル様をお呼びになっております。案内致しますのでこちらへ」

「分かった」


 兵士について行く前に、リュデルは振り返るとアーデンたちに言った。


「アーデンそして皆、本当にありがとう。申し訳ないがメメルとフルルのことを頼む、様子を見に行ってやってくれないか?」

「ああ任せておけ」

「すまない。二人には…」

「お前からの言葉は直接言えよ。二人もそれを待っているはずだ」

「…そうだな。その通りだアーデン」


 用件を伝えた後足早に去っていくリュデルをアーデンたちは見送った。帝国奪還作戦は成功した。しかしこれはまだ本命ではない、グリム・オーダー首魁シェイド・ゴーマゲオ、巨悪はまだ健在である。

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