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シェイド討伐会議 その1

 エイジション帝国皇帝の嫡男、エルダー・エイジションの殺害という目標を宣言したリュデル。その語り口はゆっくりとしたものだった。


「ちょっ!ちょっと待てリュデル!」

「何だ?」

「流石に犯罪の片棒をかつぐのは御免こうむるぞ。そんな大それたことは出来ないって」


 俺の言葉に隣に座るレイア、アンジュ、カイトもぶんぶんと頭を振って肯定した。大体俺たちはシェイドを倒しに来たのであって、エルダーを倒しに来た訳ではない。


「まあ落ち着け、言いたいことは大体分かる。しかしこれは必要なことなんだ」

「必要なこと?」

「じゃあここから先の説明は私がしようかな」


 そう話に入ってきたのはトロイさんだった。説明を遮るのも失礼なので言われた通り一度無理やりにでも落ち着く、ソワソワしてしまうのはどうにもならない。


「アーデン君たちがロゼッタ君を守るためにグリム・オーダーと戦った後、私はグリム・オーダーが表立って活動をし始めたことに危機感を持ってね。ギルド本部に頼み込んで調査の指揮に当たらせてもらうことになった。こっそりとだけどね」

「そうだったんですか?あの後そんなことになっていたなんて…」

「しかしグリム・オーダーの尻尾は中々掴めなかった。奴らとにかく隠れるのが好きみたいでね、滅多に姿を見せない。あのシーアライドのオリガ事変の際でもオリガ以外のボロは出てこなかった」


 オリガ事変は、カイトの命を盾にして俺たちの動向を探らせていたオリガ女王が引き起こした一連の騒動のことだ。その後グリム・オーダーの手先であったオリガの証言で、俺たちは旧ゴーマゲオ帝国領内に向かうことになった。


「あっ、えっ、待てよ?そうか、もしかして」

「何よアーデン?」

「もしかして、裏でリュデルたちに指示を出していたのはトロイさんですか?」


 俺の質問にトロイさんは何も答えず肩をすくめて見せた。沈黙が質問の答えということだろう。


 あの時、いくらリュデルでも行動が早すぎると思っていた。しかしトロイさんがギルド内部に網を張り巡らせていたとしたら、リュデルへの協力要請も素早く行えたはずだ。


 そしてシェカドで起きたロゼッタの事件で関わりがあったのはリュデルたちも同じこと、トロイさんとリュデルにその後繋がりがあったとしても不思議ではない。


「私はリュデル君と密かに連携を取り続けていてね、ギルド側の情報を出す代わりに帝国側の情報を流してもらっていた」

「え、それ大丈夫なんですか?」

「出せると判断した情報だけだ。それにトロイ様の仕事ぶりは信頼していたからな、僕個人として付き合いがあっても問題はない」

「しかしシェイドの存在を出し渋られていたのは痛かったがね」

「それについては私の責任だ。トロイ殿、本当に申し訳ない」


 それまで黙っていたオーギュストさんが口を挟んで頭を下げた。これは旧ゴーマゲオ領内で起こったシェイド本人が直接襲撃してきた事件。モニカさんが命がけでグリム・オーダーに潜入し情報を得て、殺されかけたオーギュストさんと協力してことに当たっていた。


 あの時はシェイドの出方を調べる必要があった。極限まで情報を絞って外に出ないようにしていたのだと思う。当事者である俺たちにでさえ最後まで知らされていなかった。


「でも流石に仕方ないと思います。まさか本人が直接乗り込んでくるとは思いませんでしたし」

「あのジジイ、穴蔵に籠もっているばかりじゃあないんだよな」

「いえカイトさん。それは少し違うと思います」

「何でだアンジー?」

「あの時私たちは、アーデンさんのお父さんが残していた切り札が発動していなければ負けていました。私が思うに、シェイドは完全に勝利を確信したからこそ出てきたのだと思います」


 アンジュの言うことに俺も頷いて同意した。俺たち全員あそこで死んでいてもおかしくなかった。それに母さんが手紙で書いていたシェイド評とも合っている。


「ええと、君はアンジュ君だったね。すまないね自己紹介もせず話を進めてしまって」

「いいえ大丈夫です。それにトロイさんの話はアーデンさんたちから聞いていました。この顔合わせも親睦を深めるものではないと分かっています」

「そうか。では今の話に付け足させてもらいたい、シェイドの動向を探るのは困難を極める。本格的な穴蔵がどこかも分からない、いや、もしかしたら穴も持たず転々としているのかもしれない」

「でもトロイさん、確かモニカさんが本拠地へ乗り込んだことがあるはずですよ。そこはどうなったんですか?」


 俺のその質問に、モニカさんは黙って残念そうに頭を振った。


「実はその転移魔法ですが、旧ゴーマゲオ領内での事件から少し経って使えなくなりました。恐らくシェイドが我々の存在に感づいたのでしょう」

「ギルドとしてもモニカ君に協力してもらって何度か確認を行った。細心の注意は払っていたが、人が増えたことによって嗅ぎつけられたのかもしれない」

「いやトロイ殿、私は時間の問題だったと思う。企みに失敗し煮え湯を飲まされた奴は、より慎重に深く潜りこんだのだろう。探ることすら危険だった」


 モニカさん、トロイさん、オーギュストさんが揃って顔を曇らせた。いい話ではないことは流れで分かる、俺たちが想像している以上にシェイドの尻尾を掴むのは難しいみたいだ。


「ああ、成る程そういうことかい」

「何だカイト?」

「坊ちゃまがエイジション帝国の…、何だっけ?何とかさんを叩くのが必要って言った理由だよ」

「カイトさん、エルダーですよ」

「ありがとうアンジー。つまりだ、グリム・オーダーの手先のエルダーが今帝国の実権を握ってる訳だろ?そいつを締め上げてシェイドをおびき出そうって話ってことだ」

「ええ?そんなんであの爺さんが乗ってくるの?」

「お嬢、あのジジイが言ってたことだ。帝国をもう一度自分のもんにするって言ってたんだ。そいつを俺たちで先にお釈迦にされたらメンツ丸つぶれだ。無駄に気位の高い老いぼれがこれに黙っていられるはずがない」


 カイトの説明は少々粗野なものではあったが言いたいことは分かった。そしてこの行動の必要性と、どれだけ大それているかもよく分かった。


「つまりエイジション帝国を餌にシェイドを釣り出そうってことか」

「高級でいい餌だろ?」

「例え話だとは分かっているが、僕の前で帝国を餌呼ばわりはやめてもらおうかカイト。…しかしまあ、端的に言えばそういうことだ」




 ここに集められた人々で考案された「打倒エルダー」と「帝国の奪取」を餌としたシェイドの釣り出し作戦。伸るか反るかで言えばシェイドは乗ってくるだろう、それは分かる。


 しかし大きな問題が残っている。それを話し合わずして作戦の実行は不可能だ。


「それでシェイドを釣り出せるだろうけど、どうやって倒す?」


 これが一番の問題だ。シェイドの打倒、言うは易く行うは難し。そもそもだが、シェイドを死に至らしめるまでの方法があるのか。


 シェイドをぶっ潰すとゲノモスに大見得切ったのはいいが、恥ずかしながらまったくその方法は思いついていなかった。


「そもそも死ぬのかなあれ」


 レイアの言葉が場に重くのしかかる。秘宝によって不死を得たシェイドの力は未知数だった。しかも肝心の本人はこれまで殆どその力を見せてこなかった。


 圧倒的な情報量不足、そして調査不足だ。会議が行き詰まってしまうかと思った時、リュデルが口を開いた。


「そのことについてだが、実は当てがない訳ではない」

「本当か!?」

「アーデン、それに皆も竜から授けられた印を出してくれ」


 俺たちはリュデルに言われた通り右手の甲を見えるように差し向けた。リュデルもまた自らの右手の見えるように差し向ける。


 すると俺たちの手からはそれぞれの、リュデルの右手からは一斉に光が放たれた。赤、青、緑、橙色の光は集まると浮かぶ球体となった。


「打倒シェイドについては我々の力が役立つだろう。世界を守るため、四竜も力を貸すぞ」


 その声はサラマンドラの声だった。そして打倒シェイドの会議の場に、四竜が参加することになった。

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