レ・イイ遺跡攻略
アーデンたち一行は、修行を終えたカイトを迎え入れて改めて四人で遺跡を進む。その様子はまさしく快進撃の一言であった。
変幻自在な動きを可能にするファンタジアと、絶対的な切れ味を誇り大技フォトンバーストを持つ紫電を使いこなし、縦横無尽に万能な働きをこなすアーデン。
多種多様なアタッチメントを駆使して有利に戦況を作り出し、圧倒的な火力と制圧力で魔物を寄せ付けることなく消し炭に変え戦闘を終えるレイア。
冷静沈着に味方と敵を俯瞰し、その場その場の最適解を導き出すアンジュ。多属性魔法とそれを強化する尾術による攻撃は強力無比の一言に尽きる。
攻守共に隙がなくなり、気炎澄水の心得によって自らの精神を操るカイト。剛と柔の型はカイトに足りなかった戦闘技術を補完し、一騎当千を文字通り体現するに至った。
一人一人がこれまでの冒険で得たものを力に変え、大きく成長を遂げた。更に四人の力が合わさることで連携力が生まれる、問答無用の戦闘力をアーデンたちは手に入れた。
探索の方にも隙はない。レイアの発明品にアンジュの知識、アーデンが魔物の気配を探り、多少の危険はカイトが持ち前の頑強さでもって吶喊し踏み潰す。
勇猛果敢にも攻めかかる魔物が居たが、鎧袖一触、奮起も虚しくそのことごとくが打ち破られていった。
レ・イイ遺跡で敵になりうる魔物は、アーデンたち一行には存在しなかった。
遺跡探索の休憩中、四人も自分たちが思うより自由に動けていることを感じていた。そしてそれに対する戸惑いもあった。
「なあ皆、何だかやけに動きやすいというか、戦いやすくなってると思わないか?」
アーデンが皆にそう問いかけると、それぞれ頷いて口を開く。
「特に合図もないけど連携もスムーズよね?」
「私は今まで以上に広く戦況を見られるようになった気がします」
「考えることが苦手な俺も、最近は戦いの中で色々考えられる余裕ができてきたぞ」
何故そうなったのか分からずに全員一斉に首を傾げて「不思議だなあ」と呟いた。積み重ねてきた経験と、くぐり抜けてきた修羅場の数々がそうさせているのだが、アーデンたちにその自覚はなかった。
皆それぞれに夢や目的はあれど、純粋な気持ちで自由に冒険を楽しんでいる。旅先で出会う人々や、見たこともない絶景、じっとしているだけでは分からなかったことなど。冒険で得たすべてがアーデンたちの力になっていた。
確かな信頼関係と強固な絆が互いを結びつけ、並みいる冒険者の中でも一二を争う実力者となっていた。今やアーデンたちとリュデルたちの実力は拮抗しているが、それを知るよしもないアーデンたちにはいまいち自分たちの強さを自覚しにくかった。
「まあ問題はないしいいか」
「そうね。今まで通りでいいでしょ」
「もし問題が起きても都度修正します」
「どのみち皆のことは俺が守るぜ。俺ぁ皆にとっての大船だからな」
「カイトは船乗りなのに?」
「アー坊、それはそれこれはこれだぜ」
四人の間で笑いが起きた。危険な遺跡の中でも、アーデンたちは心を穏やかにリラックスしていた。しかし決して空気は弛緩しておらず、物陰から休憩中を狙って襲いかかろうとしていた魔物は、一分の隙も見せない四人を見て諦めて逃げ帰った。
レ・イイ遺跡最奥手前、やはりそこには今まで通り魔物が待ち構えていた。遺跡に棲息する他の魔物とは、実力もまとう雰囲気も異なる強者だ。
待ち構えていた魔物はフューリーベア。アーデンたちは以前、アカトキの森でロゼッタを助けた時に特殊個体と遭遇していた。
その個体も巨体であったが、更に一回り大きい体躯をしており。逆立つ毛は赤黒い返り血に染まっていた。興奮と殺気を抑えられず、鼻息を荒くしてよだれを垂らしながら、フューリーベアは血走った目をアーデンたちに向けていた。
戦いはフューリーベアの咆哮から始まった。殺意の衝動に突き動かされるままに走り出し、アーデンたちに巨躯をぶつけてこようとした。一瞬で目の前にまで迫る瞬発力は、強靭な四肢と体のバネを利用したものだった。
しかし前に立ちはだかるカイトは冷静だった。柔の型渦巻によって突進をいなすと、進行方向を壁に向けさせた。勢いを敢えて殺さずにフューリーベアの向きだけを変える妙技、フューリーベアの突進の的は壁にすり替わった。
とてつもない勢いで壁に激突するフューリーベア、しかしダメージは軽微で軽いめまいがしただけだった。すかさず体勢を立て直し標的を探した。
だがすでにフューリーベアの眼前には、レイアが撃ち込んだスタングレネードが炸裂寸前で迫っていた。はたき落とそうと行動を起こすも遅く、目の前で強烈な閃光と爆音が鳴り響いた。
視覚と聴覚を奪われたフューリーベアは一瞬身悶えた。すぐにそれらに頼らない索敵方法に切り替えるが、尾の色を橙色に変えたアンジュが動いた。
『尾術・破岩槍ッ!』
アンジュが杖を差し向けると尾が伸びてフューリーベアの足元を叩いた。九つの尖った岩石が勢いよく隆起しフューリーベアの体を突き上げた。その勢いは巨躯を軽々と宙に打ち上げ、フューリーベアの体の自由を奪った。
宙に打ち上げられ前後不覚となったフューリーベアは敵の位置を把握することもままならない。そこに追い打ちをかけるように、フューリーベアの体にはアーデンがファンタジアから伸ばした紐が巻き付けられた。
「せーのっ!!」
巻き付けた紐をアーデンとカイトが握っている、息を合わせて思い切り引っ張ると、フューリーベアの巨躯を振り回し地面へと叩きつけた。全身を強く打ち付けたダメージは大きく、フューリーベアは立ち上がるのもやっとであった。
アーデンは巻き付けた紐を利用しフューリーベアに乗りかかると、紫電を突き刺した。マナエネルギーを送り込んでから引き抜きその場を離れると、フューリーベアの体に注ぎ込まれたマナが行き場をなくして膨れ上がる。
フォトンバーストが炸裂しフューリーベアの体が爆発四散する。その様子を見届けた後、アーデンはゆっくりと紫電を鞘に収めた。
ふうと息を吐き出したアーデンに、背後からカイトが飛びついて肩を抱いた。
「すげえなアー坊!派手な技だ、かっこいいぜ!」
「だろ?フォトンバーストって言うんだ。本当は地面に叩きつけて終わりに出来るかと思ったけど、すごいタフネスだったな」
「ああ、起き上がってきた時は目を疑ったぜ」
爆発四散したフューリーベアは欠片すら残っていない。戦闘を終えてレイアとアンジュも二人の元へ駆け寄ってきた。
「やったわねアーデン」
「これでとうとう三つ目の遺跡も攻略完了です」
二人の言葉に頷いてからアーデンは言った。
「これで大手を振ってゲノモスに会いにいけるな。あれだけ勿体ぶったんだ、きっと驚く話が聞けるはずだ」
「そしていよいよ最後の印ね。これで伝説の地へ向かう鍵が揃う」
「ドキドキしてきました」
「よっしゃ!そうとなりゃとっととゲノモスの面拝みに行こうぜ!」
アーデンたちはレ・イイ遺跡最奥の小部屋に入ると、中にあった魔法陣の上に全員で一斉に乗った。通常ならば遺跡の外に出るはずだったが、今回アーデンたちが出た場所はまったく異なる所だった。
見渡す限り続く平坦な世界、真っ白な地平線と青い空しかない場所。そこにいたのは山のような大きさのゲノモスだった。ぴくりとも動かずその場に鎮座している。
「よく来たな。アーデン、レイア、アンジュ、カイト。竜の印を集めしものたちよ。俺様がゲノモス、お前たちにとっては最後の竜となるものだ」
ゲノモスの声がアーデンたちの耳に届く、最後の印を持つ竜にアーデンたちはとうとう邂逅を果たすのだった。