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VS.キラーエイプ その2

 分断され孤立し、囲まれて攻撃を受け続けたアンジュ。ついには杖を失い、絶体絶命のピンチに陥った。


 キラーエイプたちはアンジュをこれで仕留められると確信した。詰めのために仲間にハンドサインを送り合う、後は囲んで殴り殺せば片がつく。


 この圧倒的な危機の中、アンジュはこれまで感じていた焦りや恐怖から開放されていた。杖を失ったことで状況は絶望的だ、しかしそれがアンジュに冷静さを取り戻させた。


 まずアーデンたちがすぐに助けにこられないのは何らかの事情があってのこと、恐らく打開策を考えてくれている。頼りにはしているが救援は望まない。アンジュはそう頭を切り替えた。


 そしてキラーエイプに取り囲まれているこの状況、いくらでも手を打つ機会があったのに混乱からすべて裏目に出た。事態を好転させるには相当な労がかかるだろう、下手な手を打つと簡単に悪化する、それさえ分かっていればいい。アンジュはそう飲み込んだ。


 更に考えるのは魔法、杖を失った今これまで通りの魔法は使えない。固有魔法は言わずもがな、上級中級魔法も使用不可能だった。初級魔法は触媒なしでも発動出来る自信はあったが、それだけで現状を打破出来るとは思えなかった。


 徹底的に追い詰められ持ち札は少ない、このまま囲まれて袋叩きにあえば無惨な死は免れないだろう。考えれば考えるほど絶望しかない状況にアンジュは思わず笑ってしまった。


「そうだ、どうせなら笑おう」


 アンジュはそう呟いた。こんな時こそ笑ってしまえ、そうだそうしよう。だって泣いても笑ってもどうにかなる訳ではない、ならば今の状況を楽しんでしまえばいい、アンジュはそう覚悟を決めた。




 キラーエイプたちはアンジュの様子に戸惑っていた。追い詰めたはずの獲物が笑った。理由はまったく分からなかったが笑ったのだ、この状況をひっくり返すだけの手があるのかと疑いの目を向けた。


 しかし追い詰めたことに変わりはない、作戦通り叩けば終わる。キラーエイプたちは武器を棍棒に持ちかえると無防備なアンジュに飛びかかっていった。


 死が迫るアンジュの思考は今までないほどに加速していた。今まで学んできたすべてが必要だ、魔法使いの本領発揮をするには今しかないと思った。


 キャプチャ、周りに漂うマナを吸収し右腕に溜め込むことが出来る。しかし長時間留めておくことは出来ない、リリースで放出しなければ体が保たない。


 だがアンジュはそこで思い至った。自分の体はマナを操る素質が備わっている、杖が担う触媒の代わりが出来るかもしれない。


 キャプチャでマナを集めリリースで放出する、そしてそれを留めるためにセットを応用する。一度体に取り込んだマナを放出してセットで固定し、魔法を常時発動しておくことで体内で暴走することを防ぐことが出来る。


 それだけではただ魔法を発現させただけ、運用するには威力不足になる、詠唱などの手順を省いているからだ。属性を都度用途に合わせて変化させる、地・水・火・風・氷・雷・光・闇、これら属性を放出する際ブーストで増幅しセットする、発動はバーストで補える。


 イメージが固まってきたアンジュはそれを実行に移す。すでにキラーエイプたちは眼前まで迫ってきていた。だが猶予は少しでいい、イメージが噛み合いさえすれば魔法はすぐにでも発現する。




 アンジュの体にある尾の近くから、その形に似た魔力の尾が八本発現した。そして尾が橙色に変色する。その尾が地面を叩くと、鋭く尖った岩石が隆起し、飛びついてきたキラーエイプを数匹まとめて刺し貫いた。


 水色に変色した尾の先から圧縮され勢いよく噴出された水がキラーエイプを押し流す。そのまま壁にぶつけられ、押しつぶされた肉塊がずるりと落ちる。


 赤色に変色した尾が振り払われると、細かい火の粉が舞い散った。それに少しでも触れたキラーエイプは途端に発火炎上し、灰になるまでその身を焼かれ続けた。


 緑色に変色した尾がぷくりと膨らみ一気にしぼむ、すると先端から風が噴出しキラーエイプの体を上に高く跳ね飛ばした。強い衝撃で天井に衝突した後には、赤く湿った染みのみが残った。


 青色に変色した尾は氷柱のように尖って伸びた。それに刺されたキラーエイプの体はたちまち全身が凍りつき、地面に落ちた衝撃で粉々に砕け散った。


 黄金色に変色した尾は近づいてきていたキラーエイプの体を拘束した。掴まれたキラーエイプたちは発せられる電撃に焼き焦がされ一瞬で絶命した。


 白色に変色した尾の先端に光が収束する、そこから放たれた光線がキラーエイプの足元を薙ぎ払う。次の瞬間には強烈な閃光と共に爆発し、バラバラになったキラーエイプの体の一部がそこら中に転がっていた。


 黒色に変色した尾が地を這う、影のように伸びる尾が這った場所は、そこにいたキラーエイプを沼のように闇に引きずり込んだ。抜け出せぬ底なしの闇に沈むキラーエイプは、やがて跡形もなく消滅した。


 唯一残った一匹のキラーエイプ、アンジュに起こった変化がただ事ではないと察知し、命令を無視して突撃を止めていた。そして尾を操るアンジュによって仲間たちが惨殺されていくのを怯えながら見ていた。


 すぐさま逃げるか、それとも隠れるか、もうキラーエイプに勝ち目はなかった。残された一匹は生き残るための選択を迫られている。


 腹を決めたキラーエイプは全力で逃げ出した。茂みに隠れた時に音が出てしまうかもしれない、それを聞き取られてしまえば一巻の終わりだ。


 それならばまだ足を止めずに走った方が可能性がある。隠れて動きを止めたらもう逃げることも出来ない、できるだけ遠くへ走って逃げる、最後の一匹のとった行動はこうだった。


 アンジュはキラーエイプを見逃し追ってこない。賭けに勝った。そう思ったキラーエイプはひたすらに駆けた。


 事実それは生き残るための最適解ではあった。ただしここが遺跡の最奥部ではなく、かつ自分たちが敵を分断するために出入り口を封鎖していなければの話だった。


 そして隔たりの向こうにまだアーデンたちがいることも忘れてはならなかった。突然起こった爆発によって網が吹き飛ばされ、キラーエイプは驚いて足を止めた。


 煙の向こうから光る紐が伸びてきてキラーエイプの首に巻き付いた。首が締まらぬように指を差し込むも意味はなく、ぐいっと体が引き寄せられた先で待っていたのは紫電の切っ先であった。


 身動きも取れぬまま、キラーエイプは空中で腹部を刺し貫かれる。アーデンは紫電を持ちかえると、貫いた箇所から頭部に目がけて紫電を振り抜き斬り裂いた。生き残った最後のキラーエイプはそうして死んだ。




 戦いが終わりアーデンとレイアは急いでアンジュの元へ駆け寄った。


「アンジュ!!」


 地面に倒れ伏せているアンジュを見つけると、アーデンが抱きかかえ起こす。呼吸もしていて意識もある、しかし顔色が悪くとても苦しそうだった。


 早く遺跡を出た方がいいと判断したアーデンは、ゆっくりとアンジュを抱きかかえた。レイアは最奥の扉を開けて二人を待っていた。


 扉の先にある小部屋へ入った。そこは今までのイ・ラケ遺跡の景観とは大きく異なり、無機質で何もない空間だった。


 ゲノモスの言う通りに部屋の中央、床に魔法陣が描かれていた。アーデンはアンジュを抱きかかえたまま、レイアと一緒にそれを踏んだ。するとパッと景色が変わって、三人は遺跡の入口がある巨岩の前に立っていた。


 思わぬ強敵キラーエイプ。罠と道具を使う知恵に、連携の取れた行動。孤立させられたアンジュは一度死にかけた。


 アーデンはいつの間にか自分の腕の中で眠りに落ちていたアンジュを見つめた。まだ顔色はすぐれないが取り敢えず大事ないようだった。アーデンは安堵のため息をついて、レイアはアンジュの頭を優しく撫でた。


 イ・ラケ遺跡攻略完了、最後の一波乱も乗り越えてアーデンたちは一つ目の遺跡を攻略した。

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