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イ・ラケ遺跡攻略 その2

 攻略を始めてから数日が過ぎた。イ・ラケ遺跡の手強い魔物を相手にしながら、草木が生えているせいでより複雑な迷宮と化した地下遺跡を進んでいくには、何度も潜っては生還を繰り返して地道に地図を書いてを繰り返していく必要があった。


 遺跡の外で野営を行い、地図を作成しながら奥へ進む道を探していく、何度かこれを繰り返し行っていたが、流石にアーデンたちの体力にも限界がきていた。休息のために一度宿屋へと戻ることになった。


 アーデンとアンジュはベッドでぐっすりと眠り英気を養った。対してレイアは工具を手に道具の作成に取り掛かっていた。不思議なことに十分な睡眠を取るよりも、作業に没頭しているほうがレイアは調子を上げる。


 そして体力の限界までくるとぱたりと寝落ちして体力を回復する。子どもが体力の限界まで遊び、体力が尽きてぐっすりと眠ってしまうのと同じだった。


 スミレはアーデンたちが小屋にいない時、掃除を欠かさず布団を干し、空気を入れ替え清潔を保ちいつでも快適に過ごせる環境を作る。マサキはアーデンたちが帰ると食卓に呼び、美味しくて栄養のある料理を大量に用意して振る舞う。


 そして食後にはリンカの他愛のない会話に付き合った。ほぼリンカが一方的に喋り続けるだけの時間だが、魔物との戦いで死と隣り合わせの冒険とはかけ離れたのんびりとした平和な空気は、アーデンたちの心を十分に癒やした。


 遺跡探索と戦闘、地上での地図制作などの作業、本格的な休息を取るために宿屋へ戻る。このサイクルを繰り返してアーデンたちは着実に遺跡の奥へと歩みを進めていた。




 遺跡に挑む前、レイアが声をかけてアーデンとアンジュを引き止めた。自身に満ちた表情をしたレイアは、握りこぶしを作って二人の前に差し出す。


「今度は何作ったんだ?」

「これはね、すっごく画期的なものよ」

「レイアさんの作ったものだからそこは疑いようもありません」

「いつも勿体ぶるよなレイア」

「文句言うなら使わせてやらないわよ」


 アーデンとアンジュが姿勢良く頭を下げたのを見て「よろしい」とレイアは言った。握った手を開くと、中には小さな黒い球体があった。


「見ただけじゃなんも分からんな」

「見た目は重要じゃあないからね、まあ見てなさい」


 レイアはそう言うと、アンジュにこれまで書き上げた地図を出すように指示した。アンジュは地図を取り出し広げる、レイアはイ・ラケ遺跡の入口に当たる場所に球体を置いた。


「あっ、球体が地図にくっつきましたよ?」

「本当だ。ちょっと貸して」


 アーデンは球体が貼り付いた地図を手に取ると、ブンブンと勢いよく振り回したり、くるくると巻いてみたりと、思いつく限りに球体が取れて落ちそうな行動をしてみた。


 しかしそんな行動にもびくともせず、球体は依然地図に貼り付いたままだった。アーデンの行動を見越していたレイアは、得意げになって胸を張った。


「ふふん、その程度で落ちるようなやわなものは作らないわよ。残念だったわねアーデン」

「確認だよ確認!で、これは何がどうなるんだ?」

「実際見てみた方が早いわ。イ・ラケ遺跡に行ってみましょう」


 レイアに言われるがまま遺跡の入口へとやってきた。地図は広げておくようにと言われたアーデンは、その通りにして遺跡に足を踏み入れた。


 少し進むとその変化に気がついたアーデンとアンジュは驚きの声をあげた。レイアはますます得意げになった。


 地図の上に書き記された道の上を、貼り付いた球体がコロコロと勝手に転がっていった。アーデンたちの歩みに合わせてその球体は動く、試しに入口まで引き返してみると、その動きに従って球体もコロコロと地図上の入口まで戻った。


「すごい!これはすごいぞレイア!!」

「もしかして、遺跡内の私たちの動きと連動しているんですか?」

「そうよ。今いる位置を地図上で指し示してくれるの。これならどう進むべきか分かりやすいでしょ?」

「これはすごく役に立つぞ!ありがとうレイア!それにコロコロポインター!」

「どういたしま…ん?」


 レイアが勝手に名付けられたことに抗議をする前に、アーデンは大喜びで地図を持って走っていってしまった。またしても先に名前をつけておかなかったことを後悔し、それでもサッと名付けのアイデアが出てくるのはすごいと思っていた。


 それでも納得はいっていなかった。レイアはアーデンを一発殴るために、アンジュはそんな空気を察して二人を止めるために急いで後を追った。




 その日の遺跡探索は驚くほどに順調に進んだ。レイアが開発したコロコロポインターの利便性は高く、これまで探索してきた遺跡の中でも特に迷いやすい構造をしているイ・ラケ遺跡において、現在地を瞬時に把握出来ることは画期的だった。


 並みいる魔物を斬り払い、撃ち落とし、魔法で薙ぎ払い、どんどんと奥へ奥へと歩を進めていく。意識を探索より戦闘に割くことが出来るのは、魔物が手強いイ・ラケ遺跡では都合がよかった。


 突如茂みの影から襲いかかるカタナバッタ。固く鋭く尖った外殻の背が刃のようになっており、体当たりと同時に斬り掛かってくる。アーデンはファンタジアから伸ばした紐と紫電を結んでつなぎ、弾性をもたせ上に軌道を逸らさせた。


 高く無軌道に空に放り出されたカタナバッタは、返し刀で振り下ろされた紫電によって真っ二つに斬り裂かれた。固い外殻も紫電の前では紙も同然だった。


 木の枝の上から隙を伺っていたクローオウル、暗がりの眼光はしっかりとアーデンたちを捉えていた。しかしレイアも相手のことを見逃してはいない、素早く構えたバイオレットファルコンからの正確な射撃はクローオウルの胴体に風穴を空けた。


 しっかりと重ねてきた改良のお陰で、バイオレットファルコンは機能の最適化の他軽量化にも成功していた。二丁拳銃で戦っていた頃よりは劣るものの、素早い動きも可能となった。


 群れで壁に張り付き、一斉に毒の糸を吹きかけようとしていたアシッドスパイダー、糸には酸性の粘液がついており巻き付けた相手を溶かす。だがどれだけ魔物が数を揃えようともアンジュがまとめて魔法で吹き飛ばす。炎で燃やし、岩で押しつぶし、氷柱で刺し貫く、多彩な属性を操るアンジュの魔法は、ブーストによって更に威力が高まっている。


 ブースト、セット、バースト、キャプチャにリリース、属性だけではなく固有魔法の種類も豊富だった。冒険の旅で編み出してきた数々の固有魔法、これだけ多くの固有魔法を持ち合わせている魔法使いはアンジュ以外には存在しない。そしてまだアンジュは可能性を探し続けている。


 三人の遺跡攻略は快進撃を続ける。そしてついに最後の部屋の前にある広場に辿り着いた。そこもまた草木が鬱蒼と生い茂っている。


 不自然なほどに静かだった。しかしアーデンはそこにいる気配を感じ取っていた。二人を手で制して引き止めるも、強い違和感に額から冷や汗が流れる。


「何かが変だ」


 いくつかの気配を感じ取ってはいるものの、魔物が何匹いてどこに潜んでいるのかまでは分からなかった。


 茂みの暗影に潜む魔物たちは気配を殺してアーデンたちを睨んでいた。相手の力量を見定めて、近くの仲間に支持を出す。単純な形のハンドサイン、何度も繰り返し行われてきたそれは会話よりも素早く完璧に意志を伝達していく。


 何かがおかしいと一時撤退を指示しようとするアーデン、しかし次の瞬間、投げ込まれた木の実の殻が割れると煙が辺りを包みこんだ。煙幕を張られ、足元に編まれたツタが投げ込まれる。


 足を絡め取られる前にアーデンはツタを斬り裂いた。そして近くにいたレイアの腕を掴む、アンジュのことも探したが煙が邪魔をして見当たらない。


 煙は目と鼻に刺激を与え、そこに留まり続けるのが危険だと分かる。アーデンはレイアに「アンジュを探せ」と短く言った。煙を吸い込まないように鼻と口を抑えて探すも、アンジュの姿は見当たらない。


 焦燥感にかられやみくもに行動を起こす。しかし煙は思ったほど留まることはなく視界が元に戻る。側をついて飛び回るブライトグモが照らす先を見て、アーデンとレイアは思わず叫んだ。


「アンジュ!!」


 ツタで編まれた網が張り巡らされアーデンとレイアの二人はアンジュと分断されていた。アーデンたちはいつの間にか通路の方へと戻され、広間にはアンジュだけが残されている。


 煙幕に罠に仲間と分断、そのすべてを行ったのはキラーエイプの群れだった。アーデンは旅立ちの前、アーティファクトホルダーのテストで戦ったことがあった。


 しかし見た目はその時のキラーエイプとはまったく違っていた。大きさは子どもの身長ほどで力強い印象はない。ただし手には木を削り出して作った棍棒を持つものや、スリングショットを構えているものもいた。


 キラーエイプの投げた煙幕に混ぜられていたハーブの粉末、効果は長続きしないものの、一時的に強力な幻覚作用を与え相手を前後不覚の状態にする。その短い間を使いアーデンたちを分断した。


 煙によって視界を奪い、足元の罠に意識を向けさせ、効果の短い幻覚作用で居場所を分からなくさせる。道具と罠を駆使して集団を分断させる連携は、魔物とは思えない動きであった。


 分断されたアンジュは一人キラーエイプに挑むこととなる。アーデンとレイアは、分断に使われているツタを何とか排除しようと試みて合流を急いだ。

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