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千差万別な体験

 食卓に招かれた俺たちは、用意されたご飯の美味しさに舌鼓を打つ。出されるものすべてが美味しい、俺たちの食べっぷりを見てマサキさんが豪快に笑った。


「いやあここまで美味しそうに食べてくれると作ったかいがあるよ!ハッハッハ!!」

「マサキさんが作ったんですか?」

「そうだぞ、こう見えて料理上手なんだ俺は」


 そう言うとマサキさんは更に笑い声を上げた。別に料理下手に見えはしないけれど、普段の豪快さを思うと料理の味はとても繊細で、下ごしらえもとても丁寧だ。


 煮物は野菜は煮崩れせず、口にいれるとほどけるように広がる。出汁を吸い込んでいて野菜の旨味と見事に溶け合う。


 揚げ物はカラリと揚がっていて、味付けもしつこくなくジューシーだ。どれだけでも食べられてしまいそうだった。


 料理に詳しくはないが手がかかっているというのは分かる。カイトが作る料理も同じように美味しい、どうしてこんなにも美味しいのかとカイトに聞いた時、後ひと手間を惜しまないことだと教えられた。


 完全に理解はしていないがマサキさんの料理もひと手間を惜しんでいないんだろうなというのは分かった。机に並べられたどの料理も美味しい、俺たち三人とリンカさんは黙々と食べ続けた。




「ふーっ大満足だ」


 後片付けを手伝った後、座りながら俺はそう言った。リンカさんが食後のお茶を持ってきてくれた。礼を述べて受け取ってお茶を飲む。


「お父さんの料理は美味しいでしょう?シチテーレでも屈指の腕利きですよ」


 リンカさんは得意げにそう語った。疑いようもなく俺たちは頷いてその言葉に同意した。


「だけど本当にごちそうになっちゃってよかったのかな?」

「いいんですよレイアさん。そもそもお父さんは沢山作ることが好きなんです。私にはよく分かりませんが、その方が美味しく作れるだとかなんとか」

「へえ、不思議ですね。一つのものに集中して作った方が手の込んだものになりそうですけれど」


 アンジュは興味深そうにそう言った。確かに不思議だ、料理は時に魔法よりも高度なものなのかもしれない。


「おっと満足して忘れる所でした。アーデンさん、頼まれていたもの持ってきましたよ」

「本当ですか?ありがとうございます」


 リンカさんはかけてあった鞄を引っ掴むと、中に手を突っ込んでごそごそ探り、三枚の資料を取り出した。受け取ったものを一緒に見ようと、レイアとアンジュが俺の横へ近づいてきた。


「シチテーレ国内で保有している遺跡は三つだけです。イ・ラケ遺跡、タ・ナナ遺跡、そしてレ・イイ遺跡です」

「本当に三つだけなんですね」

「そんなに珍しいんですか?そう言えば他の国から移動してきた先輩も同じこと言っていたっけ」


 シチテーレは国土の大きさや規模からみても大国と言って差し支えない。そして大国というのは得てして多くの遺跡を支配下においているものだった。


 リュデルの出身であるエイジション帝国は数百の遺跡を保有していると聞いたことがある。俺とレイアが生まれた国ファジメロも、帝国には及ばないが多くの遺跡を保有していたはずだ。


「シチテーレくらい大きい国なら、国内にもっと遺跡があってもおかしくないと思います」

「ふうむ。私はシチテーレ生まれシチテーレ育ちだからいまいちピンときませんが、そんなものなんですね」


 リンカさんは興味深げにそう語った。資料を覗き込んでいたレイアがリンカさんに質問をする。


「何か思っているより情報が少ないわね。ねえリンカさん、この遺跡ってどれくらい調査が進んでるの?」

「どれくらいと言いますと?」

「地図とか、生息している魔物とか、他にもどんな特徴があるとか」

「成る程!少々お待ちくださいね」


 リンカさんはまたしても鞄の中を探った。そしてまた三枚の紙を取り出し俺たちに渡した。


「それが地図で、間引きの際注意する魔物です」


 受け取ったものを見て驚いた。それも悪い意味で驚いた。地図は遺跡の入口からほんの少し進んだ場所しか記録が進んでおらず、魔物も間引きが必要な数種類しか書かれていなかった。


 全然調査が行われていない。シチテーレの遺跡はほぼ手つかずと言っていいくらいに情報がなかった。


「これだけ?」

「これだけです」


 レイアの質問に端的に答える。


「国で調査を行ったりなされないのですか?」

「うーん特別力を入れて調査は行わないみたいですね。ギルド側は再三調査を進言しているのですが、全然取り合ってもらえないみたいでして。ほぼ放置されていると考えてもらっていいです」


 アンジュは質問の答えを聞いて絶句した。遺跡の扱われ方が他の国とはまるで違う、話を聞く限りあってもなくてもいいと言外に言っているように思えた。


「発掘されるアーティファクトとかに興味ないわけ?」

「今までやってこなかったってことは興味ないってことじゃあないですかね」


 答えを聞いたレイアは唖然としていた。アーティファクトに興味がないということが信じられないのだろう。


 実際それには俺も驚いた。武装、非武装問わずアーティファクトを欲しがるのは冒険者だけじゃあない、国だってその力を欲しがっている。


 それ一つで国同士の力関係を崩すことは出来なくとも、どれだけ持っているかということが一つの目安となる。アーティファクトを研究し、利用方法を探し出し国民に還元したり、産業とすることも出来る。


 それら一切を放棄するということは国にとっては損しかないと思うのだが、シチテーレはそういうことを重要視していないのだろうか。


 俺は頭を振って考えを改めた。そんなことを俺が考えた所でどうしようもない、大体国の方針などよそ者が口出しすることじゃあない。


「リンカさん。この三つの遺跡にはそれぞれどう行けばいいんですか?シチテーレって広いからやっぱり時間かかりますか?」

「ああそれはですね…」


 俺が話の流れを変えたことで、レイアとアンジュも意図を察したらしい。二人共同じく頭を振って気持ちを切り替えていた。


「遺跡に行くにはやっぱりちょっと時間がかかってしまいます。道はあるのですが遠いし迷いやすいんですよね。ただ、実はこの遺跡、入口が一つにまとまってるんです。だからもし三つ回りたいのならその遺跡の入口に行くまでで済みますよ」

「み、三つとも同じ場所にあるんですか!?」

「そうです。まあそこに行くまでちょっと大変ですけど、私が道案内しますよ。ここのギルド職員の仕事の一つです」


 三つの遺跡の入口が一つにまとまっている。そんな遺跡は今まで見たことも聞いたこともない、シチテーレでは驚かされることばかりだ。もう一通り驚いたのでぐっと我慢して俺は言った。


「では道案内はよろしくお願いします」

「お任せください!私この仕事だけは褒められるんです!」


 胸を張ってそう言うリンカさんに疲れた愛想笑いを返して俺たちは席を立った。




 小屋に戻って俺は二人に話しかけた。


「なんというか、シチテーレは色々と俺たちの想像を越えてくるな」

「場所が違えばこうも違いますかって感じですね」

「もう色々と疲れがどっと襲ってきた気がする。私先に寝る、後頼んでいい?」

「分かった。おやすみレイア」


 ふらふらと歩くレイアの背中を俺はアンジュと一緒に見送った。


「疲れてるなあレイア」

「ここに来てから歩き通しでしたから」

「アンジュは大丈夫そうだな」

「ここまでの大自然ではありませんが、私の昔の遊び場は山でしたから。慣れてる方だと思いますよ」

「それに加えてリモの実栽培もあるんじゃあないか?」

「ふふっ懐かしいです。何だかパラリモが飲みたくなりました」


 それから暫く俺はアンジュと思い出話に花を咲かせた。くたっと横になり寝息をたてるレイアを横目に、シチテーレの夜は更けていった。

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