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カイトの夢と次の国

 俺たちはロックビルズから旅立ち、リュデルから教えてもらった情報をもとにシチテーレへ向かっていた。


 しかし全員揃っての旅立ちではなかった。俺たちが乗るゴーゴ号には、俺とレイア、そしてアンジュしか乗っていなかった。


 カイトがいない理由、それは旅立ち前に遡る。




「修行?」

「ああ、ちょいとばかりリュウ爺にもんでもらおうかと思ってな」


 カイトからそう言い出された時には流石に戸惑った。てっきり一緒に行くものだと思っていたからだ。


「でもそんな…、急にまたどうして?」

「リュウ爺のお陰で俺ぁ多少だが技ってもんを覚えた。しかしなあ、どうもまだ体に馴染んだようには思えないんだ。経験が足りないってやつなのかなあ」

「そりゃ一朝一夕に身につくものでもないでしょ」

「そう!お嬢の言う通りだぜアー坊。俺ぁその辺もう少し詰めていきてえんだ」

「それにしても急ですねカイトさん。何か思う所でもあったのですか?」


 アンジュにそう聞かれカイトは腕を組んで考え込んだ、うーんと唸り声を上げて思案が終わると口を開く。


「シルフィードから聞いた話の中で、命がけで世界を守った兄弟がいただろ?」

「ああ」

「アー坊はそこまでする必要があったのかってシルフィードに聞いてたな、別にそれを否定する気はねえ。だが俺ぁ二人は自分たちの不始末にけりをつけるためにも必要だったんじゃねえかって思う、奪ってきたもん考えればな」

「だけどそれは、兄弟にはもう他の選択肢がなかったからじゃあないのか?追い詰められて疲弊して、最後の最後これしかないってさ」


 俺は兄弟に命をなげうつ必要まではなかったと思う。そう思いたいだけかもしれないけれど、彼らは心の底から善の行動をとっていたと思う。


 人が人のためを思って戦った。その時代にそういう人がどれだけいたか分からないけれど、はっきりと彼らだけはそうしたと断言出来る。


 兄弟はシェイドの息がかかった者であっても、戦いを止めたいと武器を捨てた者にも救いの手を差し伸べた。シェイドの企みである魔物の出現により、もう一度武器を取ることになってしまったが、それでも憎しみ合わないようにしようと努力したと俺は思う。


 そんな俺の考えをカイトはすべて聞き入れた。そして聞き入れた上で語った。


「俺ぁ思う。そこまで追い詰められた奴らを体張って助けてくれる馬鹿が一人でもいたらなって。二人じゃあ足りない部分を補える奴がいりゃよかったなって。選択肢がなくなっちまった時にさ、それでも俺が側にいるって言える馬鹿がいてほしかったと思うんだ」

「カイト…」

「俺は俺の夢がはっきりと見えてきた。アー坊、お嬢、アンジー、三人は俺にとって大切で大好きな仲間だ。俺ぁもしもこの先お前たちが困難にあった時、真っ先に体張って守ってやれる馬鹿になりてえ。そのためにやれることをやっておきたいんだ」


 そこまで言われて、カイトを止める言葉を俺は持ち合わせていなかった。それでもやっぱり寂しいと俯いてしまう、するとレイアがため息をついてから言った。


「あんたそれだけ大見得切ったなら自信もあるんでしょうね?」

「それは大丈夫だ!…多分」

「はっきり言い切りなさいよ。ったく、シチテーレの場所は分かる?」

「そういや知らねえな」

「…ちょっと待ってなさい」


 レイアはそう言うと、工具を取り出してカチャカチャと何かを弄り始めた。そして出来たものをカイトに手渡した。それは普段使っているフライングモより、もっと小さいフライングモだった。


「その子にシチテーレまでの地図を記憶させた。それと私たちを感知するとあんたを導いてくれるわ。ゴーゴ号なしでどうやって追いつくつもりか知らないけど、これだけあれば十分でしょ?」

「お嬢!ありがてえ恩に着るぜ!」

「カイトさん迷子にならないでくださいよ?もしもの時のために冒険者ギルドに寄って地図も買ってください。それと移動手段も確認して、それから…」

「分かってるってアンジー。子どもじゃあないんだからそんなに心配すんなよ」

「路銀は多めに渡しておきます。無駄遣いしちゃ駄目ですよ?」

「心配性だなあアンジーは…」


 まるで母親と子のやり取りをするカイトとアンジュ、二人がカイトの考えを支持するのを見て、俺はカイトに言った。


「分かったよカイト。きっと追いついてきてくれよな」

「ああ。アー坊たちも、俺がいなくて寂しいって泣くんじゃねえぞ?」

「泣かないよ。道中の自炊が怖いけど」

「違いねえ」


 俺とカイトは笑みを交わすと互いの拳を突き合わせた。カイトならきっと大丈夫。その強さを誰よりも知っているのは俺たちだからと心の中でそう思った。




「カイトは今どうしているかな?」


 ゴーゴ号を運転するレイアの後ろで俺はそう皆に聞いた。


「さあね。そもそも私たちカイトの面倒を見てくれているリュウ爺って人のことよく知らないし」

「私は出掛けに少し話を聞いたのですが、ムツタの腕相撲大会で負けた相手だって言ってました」

「あー!あのお爺さんか。えっ、ロックビルズの人だったのかあの人」


 そういえば最後の鍵の欠片を手に入れる騒動は大分急ぎになってしまった。異常事態続きで緊急性が高く、早期解決をギルド側から求めれれていた。それぞれ単独行を取っていた時の話を聞きそびれていた。


 レイアとは新しく作ったドリームウェポンの機能を調べてもらうために色々と話し合ったが、カイトとアンジュの話はあまり聞けていない。その辺りの事情を説明してから俺はアンジュに聞いた。


「俺たちはそれで情報交換してたんだけど、アンジュは何やってたんだ?」

「私は思い出したくもないわ…。アーデンが紫電をビュンビュンピカピカ丸、ファンタジアを便利ブンブンノビール紐って名前にしようと思うって相談受けた時には卒倒しかけたもの」

「紫電とファンタジアも気に入ってる名前だけど、俺が考えてた名前もいいだろ。なあアンジュ?」

「どこがじゃ!ドリームウェポンでさえ奇跡の産物なのよ!!」


 キーッと甲高い抗議の声を上げるレイア、それを聞き流すように苦笑いしてからアンジュが語った。


「私はあの時サラマンドラに会いにいっていました」

「ええっ!?一体どうやって?シャン炎山まで行った訳じゃあないよな?」

「まさか、遠すぎますよ。説明が難しいのですが、私は意識だけを飛ばしてサラマンドラのいる場所に近づいたんです」

「んん?意識だけで??」


 聞いてもさっぱり分からなくて首をひねる。するとレイアが呆れたように俺に言った。


「詳しく聞いても絶対に分からないでしょ。取り敢えずサラマンドラに会ってたってことだけ納得しなさいよ」

「そもそうだな。アンジュ、サラマンドラは元気だったか?」

「表情は読み取れなかったのですが元気だったと思いますよ」

「そっか!なら何よりだなあ」


 俺は満足して何度かうんうんと頷いた。サラマンドラは最初に会った竜だから思い出深い、何事もなく元気でいてくれるならそれが一番だ。


「その意識だけ飛ばすって奴俺には出来ないの?サラマンドラやニンフ、シルフィードといつでも会えたら素敵じゃあないか?」

「すみませんアーデンさん、それは難しいです。私の方法も結構無理やりだったようなので」

「そう上手くはいかないかあ」

「でもアーデンさんの言う通りですね、いつでも竜たちとお話出来たら素敵なことだと思います」

「だろ?」

「あんまり甘やかさない方がいいわよアンジュ。調子に乗ってやっぱり皆でもう一度会いに行こうとか言いだしかねないんだから」

「どうして今俺が言おうとしたこと先に言っちゃうんだよ!」

「アンジュも無理したって言ってたでしょうが!これ以上負担かけてどうすんの!」


 俺とレイアの口喧嘩が始まろうとしたタイミングで、アンジュが声を上げて前方を指さした。


「あっ!二人とも見てください!あそこじゃあないですか?世界一風光明媚な国と呼ばれるシチテーレ!」


 道の先には見えてきたのは巨大な城壁、聞いた話ではそれが広大な国を取り囲みずらりと立ち並んでいるらしい。まだ遠くから離れて見ているというのにまったく全貌が見えない。


 外は無機質な城壁に守られているが、中はとても自然豊かで美しい景観だと言われている。最後の竜がいるシチテーレ、俺たち三人はそこへ向かって急いだ。

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