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VS.キメラゴーレム

 アーデンも一人遺跡の中を歩いていた。常とは言わずとも大体は誰かと一緒にいることが多かったので、他の仲間よりも寂しさを感じていた。


 一人で歩くことをこんなにも寂しく思うのなら、父はいつもどうしていたのだろうとアーデンは思った。行く先々で出会う人々と友人になっていたという話は聞いていたが、父は基本的にいつも一人だった。


 どんなに危険な場所へ行くときも一人、わざわざ仲間を募ることはなかった。自分が感じている不安を父は感じたことはないのだろうか、そんなことを考えていた。


 冒険者になって色々なことを経験した。しかし仲間がいなければ乗り越えていけなかったとアーデンはそう思っていた。父はどんなことを考えて感じて冒険者をしていたのだろうか、そんなことに思いを馳せた。


 それも自分たちが伝説の地へたどり着けば分かること、そしてそのためには今ゴーレムを討伐する必要がある。アーデンは仲間たちの心配は一切していなかった。皆の力を心から信頼していたし、どんな試練にも立ち向かい乗り越えると確信していた。


「俺も不甲斐ない戦いは出来ないな」


 アーデンはそう言って扉を開いた。




 部屋に踏み入った瞬間に感じたのは吐き気をもよおす血の匂いに淀みきった空気、壁や地面は血と肉片がべっとりと貼り付いており、肉が腐って血と混ざり合いドロドロになっていた。


 くちゃくちゃという湿った音が部屋の奥から聞こえてきて、アーデンはその音が聞こえてくる方へと向かう。


 そこにいたものを見た時アーデンは既視感を感じた。見たこともない魔物なはずなのに一度見たことがあるように感じた。


 そのゴーレムの両腕はジャイアントマンティスの鋭い鎌、上半身はホーンライオン、下半身はドレイクだった。長い尾を揺らし両腕の鎌をカチャカチャとすり合わせていた。


 そしてアーデンはその存在を思い出した。それはシェカドでリュデルと共に戦った合成魔物キメラ、このゴーレムは殺した魔物の体を奪い、それをつなぎ合わせて構成されていた。


「さしずめキメラゴーレムってとこか」


 キメラゴーレムはアーデンの姿を認識すると雄叫びを上げた。ビリビリと空気を震わせる雄叫びに、アーデンは怯むことなく武器を手に取った。


 アーデンのアーティファクトはもうファンタジアロッドではない。ドリームウェポンと名付けられたそれは、武器と防具をまとめてそう呼ぶ。


 鞘から抜き放った刀、名を紫電。ファンタジアロッドは起動させることで棒状の光刃を展開していたが紫電は違った。


 常に高出力マナエネルギーの光刃が展開されていて攻撃に特化されている。ロッドにあった硬度や伸縮性を変化させる機能は失われたが、その分武器としての機能が劇的に向上していた。


 切れ味と強度、共に申し分なく高水準。その青白色の光刃はどんなに強固な装甲も容易く溶断する。常にマナで覆われている光刃の下にも鋭い刃が備わっていた。


 腕に装着された独特な形状をした腕甲、名をファンタジア。前腕を包み込み防護する機能は勿論のことだが、防具としての役割よりも重要な物が備わっていた。


 腕甲に埋め込まれた結晶がある。ファンタジアクリスタルと名付けられたそれはロッドにあった変幻自在の拡張性を引き継いでいた。


 クリスタルから生成されるマナエネルギーの紐は先端が鏃のように尖り、伸縮自在で硬軟の調節も思うがままに出来る。紐を伸ばした高所への移動や、伸縮性を利用した高速移動、敵の動きを封じる拘束も、紐の硬度を高めて鞭のような武器としても使うことが出来た。


 腕甲が装備された左腕には肩当ても装備されており、ファンタジアを使用する際にかかる腕の負担を軽減させ保護する機能が備わっていた。


 ファンタジアロッドの特徴を引き継ぎながらも、それをより際立たせて機能を分離させ、役割を明確化させたドリームウェポン。父から貰ったアーティファクトは姿形を変え、完全にアーデンのものとなり新たな力に変わった。


 アーデンは紫電を構えキメラゴーレムと対峙する。互いが前に飛び出して戦いは始まった。




 キメラゴーレムの足となっているドレイクは大きなトカゲのような魔物だった。四足の強靭な脚力で突進してアーデンに迫りかかる。ホーンライオンは頭に生えている大きな角を突き立てて、突進の勢いを利用してアーデンを串刺しにしようとしていた。


 アーデンは紫電を片手に持ち替え、ファンタジアから天井目がけて紐を伸ばした。紐の先端を天井に食い込ませ、アーデンはキメラゴーレムの突進を跳んで避けた。


 そして上に到達すると今度は姿勢を変え足裏を天井にしっかりとつけた。強く蹴って落下の勢いを増すと、落下の勢いを利用して紫電を振り抜いた。


 その雷の如き素早い動きと天からの一閃は、キメラゴーレムの片角と片腕を斬り落とした。地面にごとりと大きな角と鎌が落ちた。


 キメラゴーレムに痛みはない。魔物の死体で出来た体は、ゴーレムの核によって繋ぎ止められていて動かされているだけだった。核さえ無事ならばまた再生出来るのがゴーレムの強みだ。


 しかし魔物と同化したことによってキメラゴーレムの思考は魔物に寄っていた。痛みはなくとも体を傷つけられたことに激昂し、キメラゴーレムは癇癪を起こして暴れまわった。


 これは本来のゴーレムには絶対にないものだった。敵を始末するための思考はあっても、傷つけられたことに怒りを表すような感情は持ち合わせていないからだった。


 キメラゴーレムは無秩序に体を振り回して暴れまわる。アーデンは一度距離を取って攻撃を避ける、安全ではあったが今度はそう簡単に近づくことが出来ない。


 アーデンが次の手を考えていると、キメラゴーレムがまたしても突進してきた。怒りに身を任せた突進は先ほどより速く、アーデンは紙一重で避けるのが精一杯で反撃は出来なかった。


 キメラゴーレムの突進はアーデンに避けられても止まらず壁に激突する。ホーンライオンのもう片方の角も折れて、頭はぐちゃりと潰れる。しかしそんなことはお構いなしで今度は残った大鎌をブンブンと振り回す。


 攻撃は単純なもので見切ることは容易いものだった。しかし千切れても構わんと言わんばかりに振り回される大鎌の斬撃は手数が多く、より近寄りにくくなってしまった。


 アーデンは紫電を構え姿勢を低くし攻撃の機会を伺った。鎌による斬撃を避けつつ一撃一撃を見極めていく、キメラゴーレムの攻撃が大ぶりになり、単調な動きになった瞬間を狙って紫電を振り抜いた。鎌は根本から斬り落とされた。


 角に鎌、噛みつけられる牙も失ってしまったキメラゴーレム。残されているのはドレイクの下半身だけだった。尾を振り回して攻撃を試みるも、縦横無尽に動き回れるアーデンの前では焼け石に水だった。


 そんな時アーデンの耳に知らせが届いた。ゴーレムの核を破壊する準備が整った仲間からの知らせである、アーデンはふっと小さく微笑むと、紐を伸ばしてキメラゴーレムの胴体に乗り込んだ。


 アーデンのことを振り落とそうともがくキメラゴーレムだったが、アーデンは紫電を体に突き刺してそれを耐えた。そしてその姿勢を保ったまま言った。


「お前に恨みはないがこれでトドメだ。奪った魔物の体も返してやりな」


 体に突き刺した紫電の刀身が更に輝きを増していく、光刃から直接体内に大量のマナエネルギーを送り込んでからアーデンは紫電を引き抜いた。胴体から下りて紫電を鞘に収める。


「紫電を通じて体内に注ぎ込まれたマナエネルギーは許容量を遥かに越える。そして注ぎ込まれたマナはお前の体内で一気に炸裂する」


 キメラゴーレムの体から溢れ出たマナの光が漏れ出ていた。最後の一瞬、辺りを強い閃光が照らした後、キメラゴーレムの体内のマナが爆発した。塵一つ残さない破壊力、アーデンが編み出した必殺技だった。


「フォトンバースト。俺は最後までどかんぼかん突きと迷っていたけど、レイアに猛反対されてこの名前になった」


 アーデンはそう言い残して部屋を立ち去った。仲間と合流する道すがら、やっぱりどかんぼかん突きの方がかっこいいのになどとブツブツ呟くのだった。

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