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VS.アイアンゴーレム

 レイアは仲間に渡した装置を見つめていた。トドメを刺せると確信出来たタイミングでスイッチを押すと、仲間に渡した装置がそれぞれが信号をキャッチする。そして全員分のスイッチが押されると、耳に装着された装置が音を発し核を破壊する機会を知らせる。


 レイアはアンジュは絶対に操作ミスをしないと信じていたが、他二人を心配していた。アーデンもカイトも、戦闘で勢いに乗りすぎてしまいスイッチを押すという単純なことでさえも忘れてしまいそうだと思っていた。


 普段レイアはこんな心配をしない。今そんなことを考えているのも、一人で遺跡にいるという状況に焦りと怯えがあったからだった。仲間たちと一緒に居られないことがこんなにも不安だったとは思わなかったと、レイアは心の中でそう思った。


 しかしレイアは頭を振って前に進んだ。弱気を振り払い勇気を持って歩みを進める。作戦を成功させ皆とまた無事に会う、そう心に決めると弱気が勇気に変わってきた。




 扉を開けて部屋へ入る、バタンと扉が閉まる音が部屋に響いてゴーレムが動いた。


 レイアはバイオレットファルコンを構えてゴーレムを見据えた。自分の相手となるゴーレムは何か、それを観察する。


 ゴーレムが動くたびに地面がかすかに揺れた。レイアが対峙したゴーレムは鋼鉄の体で出来ていた。頭部の赤く発行する点は、さながら魔物サイクロプスのモノアイのようにギョロギョロと動いていた。


 アイアンゴーレム、鋼鉄の体に刻まれた細い溝に沿って青い光が伸びていく、レイアはそれを見てまるで血管のようだと思った。全身に青い光が行き渡ると、アイアンゴーレムは本格的に動き始めた。


 レイアとアイアンゴーレムが向かい会って立つ、忙しなく動き回っていたモノアイだったが、ピタリと止まってレイアを見て捉えると、排除するべき敵として認識した。


 振り下ろされたパンチを姿勢を低くして走って避ける。鋼鉄の体で鈍重そうな見た目をしているが、その攻撃は鋭いものだった。


「見た目より動きが俊敏ね」


 すでに次の動作に入っているアイアンゴーレムを見てレイアはそう思った。やられてばかりもいられないとバイオレットファルコンの銃口を向ける。


 走り出しの足を狙って、魔力弾の威力が高いミドルバレルから弾丸を発射する。レイアの狙い通りに足に命中し、アイアンゴーレムはバランスを崩した。


 しかしアイアンゴーレムは崩れたバランスを無理やり戻して地面を踏みしめた。自重によって転ぶと考えていたレイアは、運動性能の高さに目を丸くして驚いた。


 アイアンゴーレムは攻撃をパンチから体当たりに切り替えた。肩を前にし助走で勢いをつける、動く鉄塊がまともにぶつかれば、レイアの体はその衝撃でバラバラに砕け散るだろう。


 跳び前回りでその場からすぐに離れた。体当たりを仕掛けてきたアイアンゴーレムはそのまま壁にぶつかって土煙を上げた。パラパラと破片が体から落ちる、壁に勢いよく衝突したがアイアンゴーレムは無傷だった。


 レイアは身を潜めて土煙の中に紛れた。アイアンゴーレムがこちらを見失っていればいいと思ったが、モノアイはぐるっと回ってレイアを捉えた。


「意味無しかっ!」


 すぐさまレイアは土煙を抜けて駆けた。アイアンゴーレムは土煙の中に飛び込み、レイアを体で押しつぶそうとした。頑丈な鋼鉄の体を生かした攻撃に、見た目とは裏腹な高い運動性能。


 一発だけ命中させたミドルバレルからの射撃によって多少の傷はついていたが、アイアンゴーレムにとってダメージになっているかは怪しいものだとレイアは思った。


 魔力弾の威力が足りないというわけではないとレイアは見ていた。ミドルバレルの魔力弾も同じ箇所に連発して当てていけば砕くことも出来るだろう、機関砲で圧し潰すことも不可能ではなさそうだった。


 しかしそこで厄介になるのがアイアンゴーレムの高い運動性能と、鋼鉄の体の頑丈さだった。重量を生かした攻撃を避けつつ同じ場所を狙い続けるにはレイア一人では不可能だった。足を止めて機関砲を撃ち込めば、ダメージは覚悟の上でアイアンゴーレムは吶喊してくる。


 レイアにとって不利な点はまだあった。アイアンゴーレムはマナが切れるまで動き続けていられるが、レイアの体力と集中力はそこまで続かない。攻撃を引き付ける前衛が居ない今は、アイアンゴーレムの攻撃を避けつつ自分の攻撃を通すことを意識しなければならない。


 アイアンゴーレムの一撃が命中すれば、レイアにとって致命傷になりかねない。その状況下で一人適切な判断を下し続けるのは困難を極めていた。


「仲間がいないと私って本当に不利ね。でもそれを知恵と技術力と発明品でなんとかするのが私なのよ」


 レイアはディメンションバッグからいくつかの物を取り出した。そしてミドルバレルに一つのパーツを装着すると、バイオレットファルコンを構えた。


「私作るのも得意だけど壊すのも得意なのよ。鉄ダルマ、すぐに私があんたを解体してやるわっ!」


 啖呵を切ると同時にバイオレットファルコンの機関砲がうなりを上げた。




 機関砲の弾幕に包みこまれたアイアンゴーレムだが、その威力は取るに足らないものだった。好機と見てアイアンゴーレムは前に出た。


 体に当たった魔力弾の煙はアイアンゴーレムの視界になんら影響を及ぼさなかった。モノアイはレイアの体温も感知して居場所を特定出来る、煙の中にいようとも見逃すことはない。


 射撃は途中で止んだ、アイアンゴーレムは逃げられる前に素早くパンチを繰り出した。鋭い鋼鉄の拳が熱源を完全に捉え押しつぶす。


 これであえなくバラバラとなって死んだだろう、アイアンゴーレムはそう判断しかけた。しかし次の瞬間殺したはずの人間の攻撃が襲いかかる。


 ドシュッと低い発射音がした。そしてアイアンゴーレムの体にそれが着弾する。凄まじい爆発が起きて鋼鉄の体は吹き飛ばされて壁に埋め込まれた。体には衝撃でヒビが入る。


 レイアはアイアンゴーレムの攻撃によって潰されてなどいなかった。弾幕を張った時、一緒に発射したのはミドルバレルに取り付けたデコイボム、煙と人影を発生させるものだった。人影には誤認させるために熱も備わっている。


 そうしてアイアンゴーレムの目を欺いたレイア、土煙が意味がなさないのを確認済みだったので、自分を認識する情報が視覚だけではないことを予測していた。攻撃の当たらない後方へと走り、次の兵装を取り付けていた。


 それがロケット弾。アイアンゴーレムの体を吹き飛ばした爆発の正体だった。爆発の威力から身を守るため距離を取る必要があった。デコイボムはそのための布石だった。


 バイオレットファルコンはレイアの最高傑作、しかし完成度の高さのあまり発展性に欠けた。それを拡張するために発明したのが、ミドルバレルに装着して発射出来る数々の兵装だった。


 宿屋での加熱装置を修理した際に得た着想、状況に応じた機能を付け替えるというアイデアを落とし込んで発明されたものだった。特殊兵装の種類とそれを撃ち出すことの出来るバイオレットファルコンのお陰で、レイアの戦法は数多く広がりを見せる。


 些細なヒントからこれだけの発明品を生み出す。今まで多様な発明品を生み出してきたレイアがたどり着いた技術者としての戦い方だった。


 自分だって冒険者だ、アーデンと二人で始めた冒険に今は大切な仲間が二人加わった。仲間を守るために自分が出来ることは何か、レイアはそれだけを思いこれを発明した。


 レイアはトドメが刺せると確信しスイッチを押した。するとすぐに音が鳴った。


「結局私が最後だったか、皆のこと待たせちゃったかな」


 バイオレットファルコンのミドルバレルに取り付けられていたのは、先端が鋭く尖った巨大な杭だった。アイアンゴーレムの体に入ったヒビに、その先端があてがわれた。


「これも私の発明品、クラッシュパイル。派手に砕け散りなさい」


 勢いよく撃ち込まれた杭が鋼鉄の体を貫いた。アイアンゴーレムの体は核ごと粉々に砕け散った。


 レイアはバイオレットファルコンを担ぎ上げ、額に浮かんだ汗を拭った。一人で勝利を収めたことを喜ぶと同時に、安心と共にドッと疲労が押し寄せてきたのを感じていた。

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