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VS.サンドゴーレム

 一対一のゴーレム討伐、四匹まとめて戦うことが上策ではあるが、遺跡内にそれが行える広さの部屋は存在しない。それに分体を操ることの出来る寄生スライムが、そうやすやすと分体を一所に集めはしない。


 本体が戦闘能力を持たいない寄生スライムにとって、ゴーレムの存在は生命線だった。一所に集めて核を破壊されれば、それで寄生スライムは死する。そんなリスクを取る理由がない。


 ゴーレムは分散して配置されていた。それぞれが寄生スライムによって強化されたゴーレム、例え一匹を集中攻撃して倒したとしても、スライムとゴーレムの再生能力が噛み合いすぐさま復活してしまう。


 どのみちアーデンたちは一対一の戦いを制するほかない。ゴーレムを破壊して寄生された核を取り除く、そして同時に破壊するしか勝つ方法はなかった。




 どんなゴーレムが相手になるのかは戦いが始まるまで分からなかった。アーデンたちはバラバラに遺跡内へと散る、魔物はいないのでゴーレムに遭遇するまで危険はない。


 カイトは適当な扉を開けて中に入った。そして突然バランスを崩した。固い地面があると思ったその場所にはサラサラとした砂が積もっていた。


「なんでこんなに大量の砂が?」


 地面に積もった砂をカイトは掴んだ。遺跡内を歩いてきたがこんな砂など見たことがない、手のひらに乗せた砂を見て首を傾げていると、急にその砂がぶわっと舞い上がった。


 さらさらと音を立てて砂が一塊に集まっていく、カイトはそれを見てなるほどと手を打った。


「そうかい、お前さんが俺の相手のゴーレムって訳だな?」


 砂で出来た体のサンドゴーレムが、いきりたつようにその巨大な両腕をぶんぶんと振り回した。やる気満々の姿を見てカイトは不敵に微笑んだ。


「気合十分ってところだな。いいぜ、来いよ砂人形」


 一呼吸整えた後カイトはすっと戦闘態勢に入った。カイト対サンドゴーレムの戦いが始まった。




 サンドゴーレムは体を捻ってパンチを繰り出した。砂の体ではあるが、ガチガチに固められた拳は岩石並だった。如何にカイトが頑強であろうと、捻りが加わり速度が乗ったパンチを受ければひとたまりもない。


 しかしカイトは冷静だった。迫りくる拳を体全体を使って受け止める、脱力して姿勢を柔らかくし、勢いのある攻撃の衝撃を殺しきった。それはカイトが今まで使ったことのないものだった。


 リュウジンから教わったのは水の心だけではない。組手の中で数多く投げ飛ばされ、いなされ、姿勢を崩されてきたカイトは、その技を体で自然と覚えていた。リュウジンは敢えてカイトに多くの技を経験させていた。


 だが一朝一夕で技が再現出来るほど甘くはない。それを可能としていたのはカイトが教わった水の心だった。脱力と集中力、研ぎ澄まされたカイトの感覚は一度受けた技を再現するという離れ業を可能としていた。


 サンドゴーレムはパンチが効かなかったことに動揺するも、すぐに思考を切り替える。受け止められた拳を一度砂に戻して抜け出すと、もう一度腕の形に固めた。


「はあ、器用な奴だな」


 感嘆するカイトを無視してサンドゴーレムは次の攻撃に移った。腕を切り離して砂に戻す。そしてその砂を部屋中にばらまいた。


 ばらまかれた砂は鋭い針のような形に固まり、宙にとどまった。そして四方八方からカイトに襲いかからせた。


 隙間なく襲いかかる砂の針があらゆる方向からカイトに飛びかかる、しかしカイトはそれすらも難なく対処した。


 死角から飛びかかってきたはずの針を避け、体に当たる寸前の針を握りつぶし、一斉に襲い来る針は華麗な回し蹴りで叩き落とした。針の攻撃を全弾防ぎきったカイトの足元には砂が散らばっていた。


 隙のない攻撃だったはずだった。しかしサンドゴーレムの攻撃はすべて無に帰した。散らばった砂を再び体に集めるものの、サンドゴーレムは混乱していた。


 この人間どうして攻撃を避けられる。それだけじゃあない、猛攻を受けてなお傷一つなく呼吸の乱れも一切ない。生半可な攻撃じゃあなかったはずだ。サンドゴーレムは次の攻撃を思考しながらも同時に微かな恐れが紛れ込んだ。


 攻防が始まってからカイトはずっと防戦一方だった。そんなカイトがすっと前に出る、攻撃の手段はサンドゴーレムと同じく拳である。カイトはサンドゴーレムの体に拳を叩き込んだ。


 パァンという破裂音が響く、軽く繰り出したパンチだったがとてつもない威力だった。サンドゴーレムの体は抉れて吹き飛んだ。


 しかしどれだけ威力のある攻撃だったとしてもサンドゴーレムにダメージはない。体が砂で出来ているのでどれだけ抉れようともまた集めれば再生出来る、打てども打てども砂が飛び散るだけだった。


 カイトはそれでもパンチのラッシュを繰り出した。血しぶきの代わりに砂しぶきが辺りに飛び散る、削れては再生を繰り返すサンドゴーレムはカイトの行動に更に混乱した。


 サンドゴーレムは腕を再生させ、カイトを押しつぶすためにぐわっと両手で挟もうとした。サンドゴーレムに肉薄していたカイトは体を思い切り反らせて避けると、そのまま倒れ込むような姿勢から腕と体のバネを使って後方へ回転して離れた。


 離れたカイトを見てサンドゴーレムは思った。この人間には自分に対する有効な攻撃手段はない。パンチの威力は強力無比だが、砂の体にそれは意味をなさない。それ以外の攻撃がなければ人間に勝ちの目はない。


 事実カイトがこのままただサンドゴーレムを殴りつけているだけでは勝負はつかない。それはカイトも理解していた。しかしカイトもただ闇雲に攻撃を続けていた訳ではない、ある目的を持って肉弾戦を繰り広げていたのだった。


「まだ機はこないか」


 カイトはあるタイミングを待っていた。機さえ訪れればこの戦いを終わらせられる算段をすでにつけていた。サンドゴーレムは大きな勘違いをしていた。


 カイトに勝ちの目がないのではなく、サンドゴーレムに勝ちの目がなかった。砂による攻撃は確かに強力で、パンチも針も並の相手ならばたちまち屠っていただろう。


 だがカイトはそれらをすべて無傷で制した。その時点でサンドゴーレムはカイトに対する有効打がないことを悟らなければならなかった。時間さえあればサンドゴーレムがカイトを飲み込むという幻想を捨て去らねばならなかった。


 それを気づくことの出来るタイミングはとうに過ぎた。サンドゴーレムは体を砂に戻してカイトを覆い囲むように広げた。今度はカイトに避けさせず防がせもしないと砂の壁を作った。


 壁にはびっちりと鋭い針が敷き詰められていた。その砂の壁でカイトの体を包み込む、これならば避けようも防ぎようもない。砂の中でズタズタになって死ぬがいいとカイトを球体に形に包み込む砂の密度を高めた。


 砂の球体にカイトを閉じ込めたサンドゴーレム、中にある針が完全に食い込み命を奪うように入念に圧した。これで殺せなかったとしても無傷では済まないだろうとサンドゴーレムは思った。


 ただしそれは次の瞬間までの話だった。


「イグニッション」


 カイトの掛け声で胸のフレアハートが鼓動する。駆け巡るマナがカイトの体に備えられたアーティファクトを満たし活性化した。砂の球体から爆ぜるように飛び出したカイトは、無傷のまま首をゴキゴキと鳴らした。


「悪くないアイデアだったんじゃあないか砂人形。固めちまえば確かに避けるもなにもねえからな。相手が俺じゃあなければの話だがな」


 迫りくる針の壁、その中に閉じ込められたカイトは敢えて逆らうことをせずに体を限界まで脱力させ針に身を預けた。鋭い針はぐにゃぐにゃに弛緩しきったカイトの体を突き通すことは出来ず、皮膚に食い込みもせずに止まった。


 砂に閉じ込められながらカイトはある合図を待っていた。それは他の仲間がとどめを刺すタイミングを知らせるものだった。機が熟すのを待ち、満を持してカイトは心に火を灯した。


 飛び散った砂を急いで集めて体を構成するサンドゴーレム、カイトは小さくなったサンドゴーレムの頭を見下ろしながら言った。


「俺ぁ今までとは違うぜ、戦いに頭使うようになった。お前をぶん殴り続けていたのも、体を構成するための核の位置を特定するためだ。崩しても崩しても後生大事に固めて守ってる箇所があったからな、そこにお前の核がある」


 カイトは腕を振りかぶって拳を地面に向けて放った。サンドゴーレムは体を自在に砂に戻すが、頭部だけは形を変えずに残していた。カイトは攻撃を続けてそれを探っていた。


 サンドゴーレムは最後に砂をかき集めて防御しようとするが焼け石に水だった。フレアハートに火が入ったカイトの拳を止められるはずもなく頭は粉々に砕け散った。


 殴っても殴ってもダメージを与えることの出来ない砂の体のゴーレムに、カイトは技と知恵を駆使して殴り勝った。これまでカイトにはなかった剛柔織り交ぜた技術の前に、サンドゴーレムは敗れ去りただの砂となりて消え去った。

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