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アイデアを武器に

 レイアはバイオレットファルコンの調整を続けていた。バイオレットファルコンの問題点をいくつか洗い出した。


 一つは重量。大型化した弊害で重さが増し、小柄なレイアが扱うには取り回しが悪い。機銃による制圧力破壊力は共に申し分ないが仲間の足止めあってのものだ、隙さえあれば叩き込めるが自身は無防備になる。


 二つ目は対応力不足。真ん中の銃身から放たれる砲撃も威力の高さは申し分ないが反動が大きい、正確に当てなければ大きな隙をさらすことになる。そして属性変更の機能が組み込めなくなったバイオレットファルコンでは、状況に合わせた属性弾の必殺の一撃として機能しなくなった。


 組み込まれた消えずの揺炎によって弾切れはない。放熱する必要があるので無限に撃ち続けることは出来ないが、魔力弾の生成については問題がなかった。連射速度も一撃の威力もブルーホークとレッドイーグルの時とは比べ物にならない。


 レイアはどこを変えるべきかを考えた。重量は使うパーツの最適化を行い軽量化を図ることはできる、一度分解して組み立て直す必要はあるが、今のレイアにとっては造作もないことだった。


 目下大きな問題は二つ目の対応力不足だとレイアは思った。弾の性質を自在に変更出来た以前では対応できる状況に幅もあった。その分火力不足だったのだが、問題点を解決すると新たな問題点が浮かび上がってくることは常だった。


 だからこそ頭脳を使って改良を重ねるのだ、レイアは自分の技術屋としての矜持がうずくのを感じていた。問題点があればそれを解決する案をひねり出す。手ごわさとは裏腹にレイアの胸はわくわくと躍り、工具を持つ手が動き出していた。




 手は動き出したものの、それですぐに解決するとは限らない。手持ちの材料を使い尽くしてしまったレイアは、買い出しが必要になるなとがっくりと肩を落としていた。


 宿屋の部屋を出て階段を下る。広間へ出るとレイアは辺りをキョロキョロと見渡した。アーデンたちの誰か一人でも帰ってきていないかと確認した。


 しかし願いは虚しく誰も帰ってきてはいなかった。こうなるとレイアにとっては厳しい状況になる、ロックビルズで必要な材料を買い出すことが出来る店など当然知らない、必然的に誰か知っている人に聞くことになる。


 人見知りのレイアにとって最もハードルが高いことだった。宿屋の広間には冒険者たちが集まっていたが、当然初対面の人に声をかけることなどレイアには出来ない。


 では従業員ならどうだと動向を見る、皆忙しなく働いていて、レイアにはとても声をかけて引き止める気にはなれなかった。自分のせいで迷惑を被らせてはいけないと気持ちがキュッと奥へと引っ込む。


 頼れる仲間がいないとなるともう無理だと諦めかけたその時、ふとレイアには宿屋の主人の顔が目に止まった。困ったような表情をして頭を掻いている、それを見てごくりと唾を飲み込むとレイアは意を決して宿屋の主人に話しかけた。


「あ、あ、あの、困っているみたいに見えたのですが、どぅっかしたんですか?」


 盛大に噛んでしまって顔を真っ赤にするレイア、主人は急に話しかけられたことと、真っ赤な顔でうつむくレイアに少し言葉を失ったが、すぐに切り替えて返事をする。


「まいったな、態度に出ていましたか?」

「え、えと、なんとなくですけど…」

「お客様にそんな姿を見せるのは宿屋の主としては失格ですね」

「あ、あ、あ、ごごごめんなさいっ!」

「いえいえそんなに慌てないで。謝らなくていいんですよ、こちらの不手際ですから」


 レイアは主人から深呼吸を促されて落ち着きを取り戻す。様々な客に対応してきたからか、主人の対処の仕方は手慣れたものだった。


「それで何かあったんですか?」


 冷静になったレイアがそう聞くと主人はまた困った表情を浮かべた。


「いやお客様に言う事じゃあないんですがね、実は調理器具が突然調子悪くなってしまいまして。知り合いの技術屋に修理を頼んだのですが、今日に限って手一杯で後回しになってしまうと言われてしまいまして、作る量が多いだけにその遅れが致命的でしてね」

「それ私に見せてもらえませんか?」

「え?」


 レイアは迷いなくそう言った。しかし主人は更に困ったような表情で言った。


「流石にそれは…、お客様に修理を頼むことも気が引けますが、何より商売道具ですからね」

「分かってます。もし私が不審な動きを一つでもしたらそこで止めてもらって構いません。触らないでほしいと言われたらそこまでにします」


 どうしてそこまでして食い下がるのかと主人は思ったが、結局頑として引き下がらないレイアの圧に負けて厨房へ案内した。


 調子を悪くしていたのは鍋やフライパンを火にかけるための加熱装置だった。火がつかなかったり、ついたかと思うと火が安定せず火力が高くなり過ぎてしまう。これでは調理はまともに出来ない。


「ね、酷いものでしょう?どうにもならなくて困ってますよ」

「これなら直せます」

「はい?」

「ちょっと失礼します」

「あっ!」


 主人が止める間もなくレイアは工具を持って装置の下に潜り込んだ。止めてもいいとレイアは言っていたが、実際は行動が早すぎて止めようもなかった。


 仕方なく主人は成り行きを見守ることにした。カチャカチャという音が鳴るたびに壊さないでくれよ祈っていた。しかしそんな主人の心配は良い意味で裏切られることになった。


「はい。これで問題なく動くと思います」

「えっ?早っ!?ほ、本当ですか?」


 レイアが試しに火をつけると、いつものように安定した火が何の問題もなくついた。火力の調節もスムーズで、壊れる前よりも調子がいいと主人は思った。


「一体何をどうしたんです?」

「内部の構造が経年劣化で接触不良を起こしていたんです。火の魔石の出力を調整する機能が特にガタがきていたので、ちょっと弄ってありものを使って作り直しました。応急処置みたいなものだからもう一度しっかり見てもらった方がいいとは思いますけど」

「あんなに短い間に部品を作り直した?」

「中にまだ使える部品もあったしそんなに難しいことでもないですよ。それよりいい物を見せてもらいました」


 主人はレイアの言っていることの意味が分からず首を傾げた。その様子を見てレイアが言った。


「この加熱装置、長年使い込まれているのに劣化が少なかった。手入れをして大切に使われてきたんだって見て分かりました。だから私もすぐに直す方法を思いつけたんです。物作りをする者としては、物が壊れるのは当たり前だと分かっているんですが、大切にされていると知るとやっぱり嬉しくなりますね」

「お客様は技術屋ではなく冒険者ですよね?」

「そうです。だけど何だろ、どっちも出来るエキスパートになりたいと思ってます」


 レイアはそう言うと主人にニッと晴れやかな笑顔を向けた。それを受けて主人も微笑み返し自然と思ったことを口にした。


「お客様ならなれますよきっと」

「そ、そうですかね?」

「ええ。少なくとも私は今そう思いました」


 その言葉に照れるレイアは、どう返していいか分からずに別の話題を探した。そして目の前にある加熱装置を見てパッと思いついたことを言う。


「そ、そう言えばですね!この火口とかはやっぱり消耗が激しいんです。だから手入れにも限界があって、例えば取り外して付け替えられるようにすれば新しい機能なんかも…」

「ん?どうかしましたか?」


 言葉の途中でレイアの動きが止まった。そして主人がいるのを忘れたかのようにぶつぶつと独り言を呟き始める。


「用途に合わせて取り付け…、付け替えて機能の追加…、状況に応じた選択肢を増やす!これだ!すみません!この辺で部品や素材が買えるお店ってどこにありますか!?」

「え、ええとそれならここから出て…」

「地図ありませんか?」

「ああはいはい。少々お待ち下さいね」


 突然人が変わったかのようにハキハキとしだしたレイアに戸惑いつつ、宿屋の主人は地図を出していくつかの店に印をつけて渡した。


 それを受け取ったレイアは急いで宿を飛び出して材料を買い漁った。そして宿へ戻るとすぐに部屋へと引きこもる。アイデアがまとまり完成形が頭の中で浮かんでいるレイアの手は、テキパキと作業を進めてあっという間にそれを完成させた。


 まだまだレイアの作業は進む。次々浮かぶアイデアを形にし、子供のような無邪気さで手を動かす。それは発明の楽しさと喜びを取り戻したレイアの姿だった。

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