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二つ目の真実

 宿屋の部屋にて全員で集まる、エアは俺たちの顔をぐるりと見回すと、すっと目を閉じてまたもう一人のエアへと変わる。


「二つ目の鍵も手に入れられたようでなによりでございます。ご活躍のほどをこの目で見られることが出来ないのが残念です」

「うん?あんたエアちゃんの中にいるんじゃあないのか?一緒のものを見聞きしているものと思っていたけど」


 カイトの質問にエアは頭を振った。


「私はエアの一面ではありますが、本来なら存在しえないものです。シルフィード様のお力でこうして表層まで出てきていますが、ほとんど意識はないのです」

「確かシルフィードの知識って言ってたっけ?」

「そうです。この子はまだ多くを学ぶ途中、そして多感な時期です。シェイドのことを聞かせるのは酷だとシルフィード様はお考えになったのだと思います」

「それはそうですね、あの怪物のことはなるべく伏せてあげてほしいと私も思います」


 アンジュの言葉にレイアも頷いていた。シルフィードとしても、いつかすべて明かされる日がくるけれど、それは今ではないという考えなのだろう。


「それで、今回教えてもらえるのはどういったことなんだ?」


 脱線しかけた話を戻すために俺はそう聞いた。エアも分かっていたのか頷いてから話し始める。


「秘宝と強固な結界に守られた遺跡、それにまつわる双子の兄弟。どうしてその兄弟はシェイドから人々を隔離できる施設を作りえたのか、不思議には思いませんでしたか?」

「思った。だけど同時に見当もついている」

「アーデン様のお考えは正しいかと思います。お教えください」

「秘宝の力だろ?」


 俺がそう言うとエアは「そうです」と短く返事をした。しかしそれにカイトが待ったをかけて異を唱える。


「待て待てアー坊よ、秘宝はあのジジイが持ってるはずだろ?」

「だけど奴はこうも言っていただろ?今一度秘宝を手にするって。ということはシェイドの手から秘宝が失われたタイミングがあるってことだ、そして秘宝は今俺たちが伝説の地と呼ぶ場所にある」

「成る程、アーデンの言いたいこと分かってきたわ」

「どういうことだよお嬢?」

「つまりシェイドが秘宝を奪われた時期の話よ。その双子の兄弟がどうやったのかは分からないけれど、私たちが思っている以上に早い段階で、双子はシェイドから秘宝を奪ったんじゃないかしら」

「そう簡単にいくかあ?」


 そう言って腕組みをして考え込むカイト、俺もこれが都合のいい解釈だとは分かっている。しかし今は地下にあるとはいえ、あれだけの大きさの建造物をぽんぽんと建てて、なおかつシェイドが手出し出来ないという限定的かつ強力な結界を施すなんてことを可能にする力は秘宝以外には思いつかない。


「カイト様のご懸念は至極真っ当なものです。シェイドから秘宝を奪うことは容易ではありませんでした。実はそれを成し遂げた双子の兄弟は、シェイドの実子です」

「シェイドの身内ですか!?」


 アンジュは驚きの声を上げた。エアはそれを肯定し頷くと、人々を救う為に行動を始めた勇敢な兄弟のことを話し始める。




 秘宝を集中に収めていたゴーマゲオ帝国は、その力を思うままに使い絶対的な覇権国家として君臨し続けていた。帝国の皇帝だけが継承できる秘宝の力は、その恩恵を得たいと画策する者たちの心を魅了した。


 そんな状況に目をつけたのが、ゴーマゲオ帝国最後の皇帝シェイドだった。世継ぎのためにと事務的に産ませた子が双子の兄弟であったことを利用し、跡継ぎについての情報を曖昧にして、どちらが次期皇帝となるか分からないという餌をばらまいた。


 その餌に釣られた権力者たちは、少しでも多く秘宝の力を得たいとこぞって跡目争いに参加した。それは兄派と弟派という大きな派閥に分かたれて、互いの関係は日増しに険悪なものとなっていった。


 国内の情勢が悪化していく一方で、渦中の人物である双子の兄弟はその状況を大変に憂いていた。自分たちの名前をつかって勝手に派閥を作っていがみ合っているが、当の本人たちはとても仲がよく、強固な信頼関係と強い義務感を持ち、輝かしいまでの正義の心を宿したものたちだった。


 二人は割れゆく国と渦巻く不穏な空気をいち早く察知し、ろくに顔を合わせたことのない父親が企みを巡らせていることを突き止めた。しかしたった二人だけの力では秘宝を持つ父に太刀打ち出来るはずもない、二人がこっそりと準備を進めていくうちに大戦争は引き起こされてしまった。


 始まってしまった争いを止める力は双子にはない。武装型アーティファクトが引き起こす人々の戦争は常軌を逸していた。人の身に余る力は、力への渇望を更に強めていった。


 多くの人々を巻き込んでも構いもせず、アーティファクトを用いた戦争は苛烈を極めていった。力と欲望を巧みに操り、秘宝を使って戦の火を煽るシェイドに兄弟は恐怖した。


 だが同時に、恐怖してばかりいられない、自分たちがなんとかしなければならないという使命感で、双子の結束は高まった。双子は覚悟を決めると、結託して父に取り入った。


 二人は優秀な頭脳と大胆な行動力、そして目的のためには一切の躊躇を見せない意思の強さをもって父に自分たちの有用性を認めさせた。時に残忍なことに手を染めようとも、二人は歯を食いしばり血の涙を流しながらも耐えた。


 そして双子はとうとう父の信頼を勝ち取った。辛酸を嘗め、苦難を乗り越えて運命の時はやってきた。双子は父から秘宝を奪い取るとそこから一目散に逃げおおせた。


 双子は秘宝の力を用いて人々を助けた。世界を破壊尽くさんとする父の魔の手から遠ざけ、生きる希望を世界に広げていった。双子はどんなに苦難な時であっても、ただひたすらに平和を求めて戦い続けたのだった。




「それから今に至るまで一度たりとも秘宝がシェイドの元に渡ることはありませんでした。双子は力を合わせてシェイドの持つ最大の力を奪い取ったのです」


 話し終えたエアはまたしても静かに目を閉じた。いつものエアが戻ってきてぐっと体を伸ばした。そして俺たちの顔を見回して言った。


「やっぱりあんまりいい話じゃないみたいッスね…」


 申し訳無さそうにそう呟くエアに俺は言った。


「…悪いな、でもエアのせいじゃあないから。色々と頭の整理が追いつかないんだよ」

「分かりましたッス。私、走ってくるッス!走ると元気が出るッス!皆様と気持ちを共有できないのは辛いッスけど、その分明るく元気でいるッス!!」


 エアはまさしく風のように部屋を飛び出していった。気を使わせてしまって申し訳ないと思いつつも、俺はそのエアの気遣いに感謝した。


 皆それぞれ考え込む中、俺は一つ目の鍵と手に入れた二つ目の鍵を組み合わせた。ぱちりとパズルのピースのようにはまって一つの鍵の形に近づく、残りはあと一つだ。


 それから俺は手記を取り出すとページを開いた。皆もそれに気がついて、考えるのをやめて一緒になって手記を覗き込んだ。




 手がかり集めは順調か?こうして聞いたところで答えが返ってくる訳ないんだがな、どうしたって心配で聞いてしまうな。


 アーデン、お前は今どんな問題に直面しているだろうか。冒険の中で多くのことを知ってきた今、そろそろ気持ちが揺らいでしまうんじゃないかと思う。


 それでもお前は足を止めることはないだろう、どんな困難を前にしても進んで、乗り越えて、そして大きく成長してまた次の冒険へと向かうと俺は信じている。


 そんなお前の力になるか分からんが、お前に渡したファンタジアロッドについて書き記しておく。


 このアーティファクトは他のものとはまったく異なるものだ。なにせ俺がアーデンのために作ったものだからな。伝説の地から戻る時、どうしてもお土産が欲しくって秘宝を使わせてもらった。


 でもな、どんなものがいいか分からなくって色々考えていたら、光る粘土みたいなものが出来上がったんだ。で、取り敢えずお前が好きなちゃんばらが出来る形になればいいなって思ったら今の形になった。


 つまりファンタジアロッドは元々不定形なんだ。やり方までは父さんには分からないが、ファンタジアロッドには様々な形へと姿を変える可能性が秘められている。はずだ。


 参考になったか分からないな、すまん。ただ覚えておいてくれ、父さんはいつだってお前のことを思っている、エイラちゃんだって同じさ。


 アーデン、頑張れよ。




「ファンタジアロッドの元の形が不定形!?考えただけで姿形が変わる!?どういう仕組みなのよ一体!!もうっ!ブラックさんは適当なんだから!!」


 いの一番にそう声を上げたのはレイアだった。俺はそれに対して苦笑いするしかなかった。


 しかしこれは思いがけず重大なヒントを貰った。ファンタジアロッドを発展させるには、今の形どころか名前にもとらわれてはならないことを知れた。俺は自分とこの相棒の力をまだまだ引き出す必要がある。


 父さん、ありがとう。きっといつか会って直接お礼を言うよ。だから俺は前に進む、そしていつか伝説の地で会おう。俺は密かに心の中でそう呟いた。

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