表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
144/225

VS.アーマークロコダイル

 アーデンたちはヘ・ハハ遺跡内部を進む。肝心の特殊個体の魔物について、遺跡前で出会った冒険者からの情報では、突然襲われてあっという間にパーティーが壊滅させられたという。


 断片的な情報ではあったが、巨大な体長と鋭い牙、鈍重な見た目からは想像がつかない素早い動き、皮膚は鎧のように固く刃が容易く弾かれたという情報を得られた。


 襲われた場所は遺跡最奥近く、脱出用の道具を用意していたお陰でなんとか逃げ切ることが出来たと冒険者は語った。そしてその用意がなければ自分たちは全員あの魔物の腹の中であっただろうとも語った。


 ともあれまずは遺跡の奥に辿り着く必要がある。遺跡に出現する魔物は中堅冒険者が苦戦しない程度の実力であったため、アーデンたちには障害になりえなかった。


 これ幸いにと体力を温存しながら前へ進んだ。消耗を抑え効率よく戦っていく。待ち受けているはずの鍵を取り込んだ特殊個体を思えば丁度よかった。適度に戦闘の緊張感を保ったままでいられる。


 そうしてとうとう最奥の部屋手前にたどり着いた。アーデンは扉の奥に気配を感じ、皆にそれを伝えた。エアに身を隠すように言うと、ゆっくりと扉を開けた。




 殺風景な部屋の中、武人トカゲと対峙した時の部屋とほぼ変わらない様子だった。しかし武人トカゲの時とは違い、気配はすれども魔物がどこにいるのかは分からなかった。


 警戒心は一気に高まる。じりじりとした緊張感にアーデンたちは自然と身を寄せ合った。薄暗い部屋の中をブライトグモが照らして飛び回る。圧倒的な存在感と身のすくむ威圧感をそなえていた武人トカゲとはまったく異なる緊張が走っていた。


 薄暗がりの中、最初にその異変を見つけたのはアンジュだった。遠く離れた物陰からアーデンたちを伺うギラリと光る目のようなものが、突然ふっと消えた。その瞬間アンジュは杖を地面に向けて魔法を放った。


『ブースト・岩槍ッ!!』


 地面から突き上がる鋭い岩が、飛びついてきた大きな影の頭に命中した。しかしその魔物は怯みもせずにその岩を噛み砕いてしまった。だがアンジュは次の手をすでに考えて詠唱を終えていた。


『ブースト・風弾ッ!!』


 魔物が噛み砕いた岩の欠片目がけて突風を撃ち出す。礫は風に乗って勢いを増して魔物へと命中した。魔物にダメージはなかったが、相手の攻撃も利用した魔法の連続攻撃に怯みが生じた。


 その隙に全員が魔物から距離を取った。ようやく戦う相手を目視することが出来て全貌を知ることになる。


 フレンジークロコダイルというワニの魔物がいる。体長は小さくて普段は温厚な性格をしているが、一度怒らせ暴れ出すと手がつけられない厄介な習性をもつ魔物だ。


 しかし対処法を知っているとそう恐ろしい魔物ではない。怒らせる前に仕留めてしまえばいいからだ、幸いなことに好戦的な性格ではないので手を出すまで手を出してこない。やられる前にやる、そんな基本的なことを教えてくれる魔物でもあった。


 アーデンたちが対峙している魔物は、そのフレンジークロコダイルによく似た姿をしていた。事実同種の魔物であり、鍵を取り込んだことによって特殊個体化したフレンジークロコダイルだった。


 だがその魔物は、アーデンたちの知るフレンジークロコダイルとは比べようもないくらい大きな体をしていた。ゴツゴツとした鱗は刺々しく尖り、硬質化して全身を覆っている。鎧纏うアーマークロコダイルと呼称するにふさわしい特殊個体であった。


 アーマークロコダイルはもう一度アーデンたち目がけて突進をしてきた。俊敏な動きであっという間に近づいてきた。全員その場から離れて回避するものの、ぐるりと方向転換してもう一度襲いかかってくる。


 このまま突進と回避の応酬では埒が明かない、意を決したカイトはアーマークロコダイルの前に出た。ぐぐっと腰を落として構えると、大口を開き噛みついてきたアーマークロコダイルの上顎と下顎を手で掴んで抑えた。


「ぐっおおおおぉぉお!!」


 突進の勢いを受け止めたカイトはずりずりと少し後ずさった。大口を開かせたまま抑え込むが、並々ならぬ咬合力に体中が悲鳴を上げている。耐えるカイトの全身から脂汗がにじみ出た。


 カイトの奮闘のお陰でアーマークロコダイルの動きが完全に止まった。三人はこの好機を見過ごすことのないよう動く、アーデンはアーマークロコダイルの側面に回り込むと、ファンタジアロッドの出力を上げてアーマークロコダイルに殴りかかった。


「なっ!?」


 硬度を高め出力も上げたロッドの一撃、どれだけ頑丈な装甲であろうとも溶断出来るエネルギーをもっている。しかしアーマークロコダイルの体にその攻撃は弾かれた。


 ロッドの一撃を弾いた箇所には傷一つない、アーデンはすかさずロッドを持ち手から割り双剣形態へと変える。そしてマナ出力を更に高めて二刀による連続攻撃を叩き込んだ。


 一方レイアはアーデンとは反対側の側面へと回り込んだ。バイオレットファルコンを構え真ん中の銃身から強力な弾丸を撃ち込む。出力を最大限まで上げて威力を高め、一発一発が砲弾並の威力を誇る魔法弾は着弾して爆ぜる。


 二人の攻撃で強固な装甲を誇るアーマークロコダイルも流石にダメージを負った。顎の噛む力が弱まったのを感じたカイトは、腕に力を込めて口を押し広げた。


「アンジー!!」


 カイトの呼びかけにアンジュは素早く反応した。このタイミングを待っていたとばかりに、杖の先を開いた口の中に向けた。


『ブースト・爆破九点バーストッッ!!』


 現在のアンジュがセット出来る数の限界、九つの爆破の魔法が一斉にアーマークロコダイルの口内目がけて放たれた。カイトは手を離して口を閉じさせるとその場から離れる。アーデンとレイアも攻撃の手を止めて急いで離れた。


 アーマークロコダイルの体内で九つものブーストされた爆破の魔法が炸裂した。その衝撃は内部から皮膚を破裂させ、内蔵をぐちゃぐちゃにかき回して焼いた。いくら外側が分厚く固い装甲に覆われていようとも、体内の衝撃は防ぐことは出来ない。


 風船が弾けるようにアーマークロコダイルの体は破裂した。辺りにおびただしい血が飛び散って床を赤く染めた。




 戦闘が終わりアーデンたちは武器を下ろす。とんでもない強敵だったと思わずため息がもれた。アンジュは限界までセットした魔法をブーストして使った為、流石にマナを消費しきってしまってその場にへたりこんだ。


 カイトも同様に床へどかっと座った。アーマークロコダイルとの力比べは辛うじてカイトに軍配が上がったが、自らの膂力に任せるがままの戦いに限界を感じつつあった。


 アーデンは血の池から鍵を探しながら考えていた。それはファンタジアロッドの新たな可能性についてだった。棍形態の攻防一体の強さ、双剣形態の手数の多さと二本になったことで広がった戦術の幅、だがどちらも攻撃に特化しているとはいい難い性能だった。


 もっと根本から何かを変えなければならない。アーデンはそう考えていた。ファンタジアロッドを使いこなすには、もっと形にとらわれない発想が必要だと思っていた。そしてそのイメージはぼんやりとだがアーデンの中にある、後は形にする為の一押しが求められていた。


 レイアは自らが作ったバイオレットファルコンを見つめていた。自分が持つ武器としての完成形としてバイオレットファルコンはこれ以上ない出来であった。ブルーホークとレッドイーグルの設計思想と、消えずの揺炎を組み込んだハイブリット。


 今パーティーの中で一番火力があるのはレイアだった。フレアハートを起動したカイトには敵わないものの、常に最高火力を叩き出せるのはレイアだけである。しかし完成品に満足してはいけない。もっと自由にバイオレットファルコンの機能を追加させる必要があるとレイアは思い悩んでいた。


「あったぞ!鍵だ!」


 アーデンはアーマークロコダイルの残骸の中から風の鍵の一つを見つけた。これでヘ・ハハ遺跡での目的は達成された。しかしそれぞれの心の中には向き合うべき課題が浮き彫りになりつつあった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ