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一つ目の真実

 エアから話を聞かされた三人も俺と同じようなリアクションをしていた。気持ちを共有出来てよかったと俺はうんうんと頷いた。


 だがその話も大いに気になるのは確かだが、エアの腹の虫がきゅうと鳴ったのを聞いて先に飯にすることにした。カイトは片腕がまだ使えないから俺たち三人で分担して行う。


 レイアの野菜の切り方が雑だと喧嘩になったり、アンジュが早く火を通すからと魔法を使って肉を消し炭にしたりと、ひとしきり大騒ぎしたがなんとか形になって全員で食事をとる。


 カイトが作るよりは劣るけれど悪い出来ではなかった。エアも喜んで食べてくれている。だけど備蓄を節約して効率よく使い、なおかつ味までいいカイトには絶対に敵わないなと思った。


 食事を終えてお茶を飲む、ほっと一息といきたいところではあるが、どちらかというとこれから聞くことの心構えをする意味が強かった。


「じゃあエア、聞かせてくれるか?」

「はいッス」


 俺が話を振るとエアは両手でこめかみに手を当ててぐぐっと力を込めた。聞こえるか聞こえないかの声でぶつぶつと何かを呟いたかと思うと、すっと身にまとう雰囲気が変わった。エアであってエアじゃない、理屈は分からないがそれが理解できた。


「私はシルフィード様の知識、この子の自意識はいまだ幼く説明には不向きですので代わりを務めさせていただきます。これもまたこの子の一面ではあるので、今まで通りエアとお呼びくださいませ」

「分かった。まだちょっと飲み込みきれないけどな」

「申し訳ありません。しかしご理解いただけて助かります」

「それで?竜が知ってるシェイドのことってどんなものなの?」


 レイアの質問にエアは頷いた。


「まずお断りしておきたいのですが、私が話せることは今のところ多くはありません。鍵一つ目ですので、私にも開示されている情報はそれだけなのです」

「小出しにする理由があるってことね」

「シルフィード様だけではなく、他の竜の皆さまの意見でもあります」

「サラマンドラとニンフもですか?」

「それと皆さまがまだお会いしていないゲノモス様ですね」


 四竜すべてが関わってくるとなるとますます大事だなと思った。俺はまず気になったことを聞いた。


「四竜はみんなシェイドについて知っているのか?」

「ええ」

「何故奴の凶行を止めなかったんだ」

「申し訳ありませんが、その質問は私には答えられません」

「…納得は出来ないけどこれ以上聞いても無駄だってことだよな?」

「恐れ入ります」


 俺はため息をついて話をエアに戻した。責めたところで何か変わる訳じゃあないし、非情なことかもしれないが過去のことだ。俺が今息巻いて声を荒げたとしてどうしようもない。


「皆さまがシェイドに接触したことで風の流れが大きく変わるとシルフィード様はおっしゃっておりました。その一つが秘宝についての知識です」

「あのジジイが今も生きているのは秘宝の力って話だったよな?」

「そうです」

「そんなことが可能なのか?」

「秘宝の力に限界はありません。凡そ思いつくすべてのことは実現出来ると認識してもらって構いません」


 その返答にカイトは頭をガシガシとかきむしった。苛立ちが伝わってくる、俺も同じ気持ちだった。


「でもさ、どうしてシェイドって自分で竜の印を集めないの?悔しいけどあれだけの力があるなら簡単なことでしょ?伝説の地だって自分の力で行けばいいじゃない」

「それがそうもいかないのです。シェイドとそれに与するもの、グリム・オーダーは遺跡への進入が禁じられているのです」

「え、ちょっとそれはおかしいでしょ。だって旧帝国領の遺跡にあいつらはいたのよ」

「…その制限がかかっているのは、大戦争中に作られた遺跡に限るからじゃあないですか?」


 話を聞いて考え込んでいたアンジュが言った。


「どういうことだアンジュ?」

「思い出してみてください。旧帝国領の遺跡は、いつも私たちが探索する遺跡とはどこか違っていたと思いませんか?」

「んん、そうだな。うーん、言われてみると他の遺跡と比べてシンプルな作りだったかな」

「それとリュデルさんから聞いたんです。旧帝国領の遺跡にはゴーレムが存在しないと」

「確かにそんなセ・カオ遺跡で話をしたわね」

「エア、聞いてもいいかな?」


 アンジュはエアにそう話しかけた。エアは頷いて応えた。


「旧帝国領にある遺跡以外は、大戦争の最中に作られたものだって私は考えてる。違う?」

「…驚きました。まさか自力でその結論に到れる人がいるなんて。その考えはいつから?」

「アーデンさんたちとの冒険を通じて様々な遺跡を訪れた。その過程でずっと気になることを頭の中で考え続けていた。それが今繋がったの」

「サラマンドラ様から賢い方だと伺ってはいましたがこれ程とは思いませんでした。確かにその通りです。旧帝国領以外の遺跡は建造されたのは大戦争の最中のもの、そしてその目的は大戦争の戦火から人々や動植物等を避難させるためのものです」


 今まで俺たちが探索を続け、魔物と戦いを繰り広げていた遺跡が大昔の避難所だった。その事実は衝撃的で信じられないというよりも、あまりに現実味がないと俺は思った。


 それからエアは話の概要を語った。




 シェイドは手にした秘宝の力を思うままに使って、自らの快楽のために戦火を広げていった。世界中の国々を巻き込んだ大戦争だったが、当然戦えるものと戦えないものがいた。


 戦えるものは皆兵士として連れていかれた。志願するものもいたが、戦いが激しくなるにつれ望んで戦いに出るものは減っていった。士気が高いのは国のトップや権力者ばかりで、戦いの温度差は広がるばかりだった。


 勿論その裏にはシェイドがいて争いを扇動していた。だから大戦争は落とし所も見つからずいたずらに命を無駄に消費し続けていた。しかしそんなことを誰も知る由もない。


 人々は絶望し希望を見失いつつあった。広がり続ける戦火を前にただうなだれて見ていることしか出来なかった。


 そんな時とある双子の兄弟が突然人々の前に現れた。そして不思議な力を用いて次々と強固な建造物を作り出しそこへ人々を匿い保護した。


 兄弟は人々を守るため、核さえ残ればどんなに破壊されようとも再生可能な防衛装置ゴーレムを創造し設置した。建物は強力な結界とゴーレムに守られ、備え付けられた機能は自動で生命にとって最適な環境へと調節を行い保護を可能とする。その施設は絶望にあえぐすべての人の希望となった。


 双子の兄弟は世界中を巡り歩いて次々にその建造物を立てていった。それが現在アーデンたちが遺跡と呼ぶものであり、冒険者たちが様々な目的をもって活動する場であった。




「双子の兄弟が作り出した遺跡には強固な結界が施されています。それがどのようなかたちでも絶対にシェイドが手出しを出来ないようにするものです。なのでシェイドとグリム・オーダーは遺跡に直接介入できないのです」


 そこまで話終えたエアは目を閉じた。そしてまたしてもまとう雰囲気が変わって、目を開けた時には俺たちの知るエアに戻っていた。安心すると同時に、話はここまでだと一方的に切られて不満に思う気持ちもあった。


 大きな目をぱちぱちと瞬かせふるふると頭を振ってからエアは言った。


「あ、あの。どうッスか?私ちゃんと話せていたッスか?」


 不安げにそう語る彼女を見て、これではいけないなと俺は思った。エアの頭を優しく撫でると笑顔を向けた。


「大丈夫。色々聞かせてくれてありがとうな」

「よかったッス!お役に立てたならなによりッス!」


 そう言ってはしゃぐエアの姿を見て、皆の険しい表情がふっとやわらいだ。恐らくそこで今まで自分たちの顔や態度が神妙なものになっていたと気がついたのだろう。


 はしゃぐエアをアンジュがたしなめた。長々と話を聞いていたので夜も更けてきた。アンジュはエアを連れてテントに戻る。カイトも怪我を早く治すためにと休むことになった。


 残ったレイアに俺は言った。


「片付けは俺がやっておくからレイアも休んでいいぞ」

「そうしてもいいけど気になることがあるから付き合ってあげる」

「気になること?」

「手記よ手記。鍵を一つ手に入れたんだからまた追加されているんじゃない?」


 そう言えばそうだと思い懐から手記を取り出した。隣に座ったレイアと一緒に開いたページを覗き込む。




 まだまだ旅を続けているようだな。アーデン、そろそろ色々な真実がお前に姿を現れ始めたころじゃあないだろうか。竜を追うということはそういうことだ。


 どんな真実が待っていようとお前はお前の冒険を続けろ。せっかくここまで来たんだ、俺はお前が伝説の地まで辿り着くと信じている。


 シルフィードは風を司るドラゴン、悠々たる大空を駆ける一陣の風、吹きすさぶ秘宝の護り神。大空を目指す勇気を与える発揚の神なり。


 そうだな、シルフィードは他の奴らと違ってちょっと気むずかしい性格だな。ただ考えなしという訳じゃあないぞ、むしろ一番思慮深いまである。


 会って話を聞けばまた分かることもあるだろう。それまでのお楽しみだな。


 アーデン、俺はもうお前に頑張れとは言わない。ただやると決めたことをやり通してみろ。どんな冒険だろうとそれはお前だけのものだ、お前はお前の道を行け。


 じゃあな。




 読み終えてから俺は無言で手記を閉じた。レイアもそれについて何かを言ったりはしない、ただ黙っていた。


「今日は月が大きく見えるな」

「ええ、綺麗ね」

「うん。すごく綺麗だ」


 冒険の中で綺麗なものも汚いものも世界にはたくさんあると知った。それでもまだ俺たちはまだまだ世界にとってちっぽけな存在だ。


 知りたいことも知りたくないこともこの冒険の先で待っているだろう。傷つくことだってあるかもしれない。だけど俺たちはこの道を行く、この冒険心は誰にも止められないからだ。


 父さん、俺は仲間たちと一緒に行くよ。それが俺の決めたことだから。どんな真実が待っていようとも俺たちは負けない。

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