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チ・テテ遺跡

 風の竜の眷属エア、風の鍵という竜の手がかりを遺跡に安置する道中にそれを落としてしまった。魔物を引き寄せる特殊なマナを発するその鍵は、魔物が食べて腹に収めてしまった。


 どうしたら三つの鍵を落として気がつかないでいられるのか、エアはアーデンたちに経緯を語った。


「まずチ・テテ遺跡に行ったッス。足が速いのが私の取り柄ッス、魔物に襲われることなく奥までたどり着けました。そこで鍵を置こうとした際に、ヘ・ハハ遺跡の鍵がないことに気がついたッス」


 道中で鍵を落としたのだと思ったエアは、来た道を戻って鍵を見つける。今度は落とす前に鍵を置いておこうと決めたエアは拾った鍵をヘ・ハハ遺跡に運ぶことを思いついた。


「ヘ・ハハ遺跡の奥にたどり着いて鍵を置こうとしたッス。そうしたら今度は二本の鍵を落としたことに気がついたッス。慌てて探しに戻ってなんとか鍵を取り戻した私は、ヘ・ハハ遺跡を出てト・ナイ遺跡に向かいました」


 ト・ナイ遺跡の鍵から置いてしまおうと考えを改めたエア、自慢の足の速さで最奥に辿り着くも、置こうとしていた鍵がチ・テテ遺跡のものだと気がつく。どこかでト・ナイ遺跡の鍵を落としたのだと気がついたエアは、これだけ失敗続きなら一本ずつ運ぼうと決め手チ・テテ遺跡に戻った。


「で、鍵を置こうと思ったらまた落としていたッス。これはまずいと思った私が鍵を探しにいった時にはもう遅く、魔物に食べられてしまった後でした。他の遺跡の鍵も同様に食べられてしまい途方に暮れていたッス」


 結局エアは三つの遺跡を行ったり来たりしているうちに、それぞれの遺跡に安置するはずの鍵をそれぞれの遺跡に落としていってしまった。呆れ返るほどの慌てん坊ぶりに言葉もなかった。


 元々孤児院で子供の世話を見ていたアンジュに火がついてしまい、すごい剣幕で説教するのをアーデンたちは三人がかりでなんとかなだめた。涙目のエアはいやというほど反省し、もうしませんと泣いて謝った。


 アーデンは冒険者ギルドへ向かうと、三つの遺跡で特殊個体の魔物の出現の恐れありという報告をおこなった。根拠が根拠なだけに説明も難しく、信用してもらうまでに時間はかかったが、他の冒険者には注意するように呼びかけをするということになった。


 これにはアーデンがこれまで経てきた冒険の数々が味方してくれていた。等級こそ変わらぬままだが、シーアライドでメイルストロムを討伐し、オリガ女王とグリム・オーダーの関係を暴いた。


 そしてリュデルとの共闘であった旧ゴーマゲオ帝国領でのグリム・オーダーの探索。報告できない情報も多かったが、グリム・オーダーに繋がる情報をいくつも手に入れることが出来た。


 それらの実績が評価され、アーデンたち一行の信頼度は高かった。どれも必要に迫られてのことだったが、回り回ってアーデンたちの評価が上がった。


 被害が広がらないように手を打ったアーデンたちは、最初の遺跡にチ・テテ遺跡を選んだ。エアを連れて遺跡へ続く階段を下りていった。




 探索を始める前にアーデンはエアに話しかけた。


「エア、どんな魔物が鍵を食べたのかは見たのか?」

「常に全速力だったからしっかりとは見えなかったッス。確か…、チ・テテ遺跡の魔物は人型に近かったような気がするッス」


 人型の魔物は頭数が多い傾向があった。徒党を組んで数で攻め立てる、人と似た戦法をとってくる。


「じゃあ鍵を飲み込んで強くなった頭張ってる奴が群れを従えてるかもしれねえな」

「連携してくるかもしれないから取り巻きにも気をつけてね」

「あくまでも予測なので気を取られすぎないようにお願いします」

「先頭はカイト、続いてレイアとアンジュ、俺は後ろでエアにつく。索敵はしっかりな」


 アーデンたちが会話を交わしていると、その様子をエアが目を輝かせてみていた。その視線に気がついたカイトが声をかける。


「どうしたエアちゃん?何か気になるか?」

「あっいえ、違うッス。皆さまのやり取り、互いを信頼し合っていることが分かるし熟練の冒険者って感じがしてすごいッス!」


 ふんふんと鼻息を荒くして興奮するエアにアーデンは笑って言った。


「いやいや熟練の冒険者ってそんな大げさな、俺たちまだまだ全然だよ」

「そうよ。カイトなんてまだまだ新参者だし」

「えっお嬢、俺まだ新人なの?」

「知らなかった?本当はアンジュにタメ口きいていい立場じゃあないのよあんた」

「そんな上下関係なかったろ、なあアンジー?」

「頭が高いですねカイトさん。先輩にそんな態度取っていいんですか?」

「嘘だろキャラまで変わってやがる」


 そんなアーデンたちの会話を聞いてケラケラと笑うエア、和やかな雰囲気が流れた後、いよいよ遺跡へと入るとなった時にはピリッと緊張した空気に変わる。


「じゃあ皆気を引き締めていこう」


 アーデンのその一言でチ・テテ遺跡の探索が始まった。




 チ・テテ遺跡内部は薄暗いが視界が悪いというわけではなかった。更にレイアが発明したブライトグモのお陰で、先を歩くカイトも順調に歩を進めることができた。


 まったくの暗がりであれば身を隠すにも都合がいいが、明るければそれもまた利点にもなりうる。実力差による示威を周りに知らしめることが出来るからだった。


 並大抵の魔物であれば近づいて襲いかかってきても、カイトの一殴りで頭か急所を潰されて死に至る。危機感に優れた魔物であれば、実力差を覆せると確信しない限りは襲ってこない。


 それでも襲いかかってくる魔物は、致命的な愚者か勇猛な強者だ。カイトがすっと拳を構えたのを見て、現れた魔物が後者であると皆はそれぞれの武器を構えた。


 低い唸り声が聞こえてくる、上顎の犬歯が剣のように鋭いブレードタイガーが二匹、かがめた姿勢で近づいてきた。互いの殺気が戦闘開始の合図となる。


 大口を開け飛びかかってきて二匹のブレードタイガー、一匹はカイトが鼻を軽く殴りつけ退けた。もう一匹は後方からファンタジアロッドを伸ばしたアーデンに、口の中から喉の奥を突かれて怯む。


 ロッドを展開させながら素早く前に出るアーデン、カイトと肩を並べて前衛を務める。ブレードタイガーたちの俊敏な攻撃を通さないように攻撃を捌く、棍形態のリーチの長さを生かして牙の届く距離まで近づかせない。


 カイトも一発の拳の威力を高めるのではなく、素早くテンポよく打撃を放った。狙うのは主に目と鼻で、どれだけ素早く動くことの出来るブレードタイガーでも、攻撃にスピードが乗る前に潰されては速度を生かすことが出来なかった。


 アーデンとカイトがブレードタイガーの動きを止めている間、アンジュは自分の魔法の詠唱に専念できる。発動のタイミングで前衛の二人に声をかけると、二人は飛び退いて攻撃が通るようにした。


『ブースト・爆破ッ!』


 アンジュの杖の先からピリッと短な稲妻が走る、狙いはブレードタイガーの足元で、爆破の魔法は狙い通りに炸裂した。


 足元が爆発したブレードタイガーの二匹は、足に大きなダメージを負った。しかしそれが本命ではなかった。爆風によって宙に打ち上げられた体を狙っていたのは、バイオレットファルコンを構えて待っていたレイアだった。


 雷轟のような響きとともに、生成された魔力弾が雨あられの如くブレードタイガーの体を撃ち貫く。空中で避けることも防ぐことも出来ないまま、体がずたずたになったところでバイオレットファルコンの回転は止まり、銃口からは煙が上がった。


 どちゃっと音を立ててブレードタイガーだったものが地面に落ちる。戦闘を終えたアーデンたちは暫しの警戒の後ふっと息をついた。


「皆問題ないか?」


 アーデンはロッドを仕舞いながら確認した。そして後方で見ていたエアに声をかける。


「エアも大丈夫だった?」

「大丈夫ッス。でも」

「でも?」

「これでもまだまだなんスね、冒険者って…」


 戦闘の一部始終を見ていたエアがしみじみとそう言った。

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