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風の竜、眷属のエア

「え?俺たちを探してる子が来た?」


 ロックビルズへ来た翌日に一応冒険者ギルドへ寄った俺たちは、もう姿を見せたという報告を受けて驚きの声を上げていた。


「ええ。ですが伝言を伝える前に、こうしちゃいられないッスって飛んでいってしまって…。足が速くて追いつけなくて、申し訳ありません」

「いえそれはいいのですが」


 なんだか考えていたような様子と違っているなと皆の目を見て語り合う。グリム・オーダーみたいに殺気立っているより差し迫っているような感じだ。


 これは待っているより探しにいった方がいいかもしれない。一度受付から離れると皆を集めた。


「思っていたような様子じゃあないな。油断はしないがどうも毛色が違う」

「やっぱりカイトもそう思ったか。俺も同意見だ、グリム・オーダーって感じじゃない」

「どうしますか?」

「こっちから探してみましょうか。二手に分けましょう」


 レイアの提案に頷いて同意する。レイアとカイトには冒険者ギルドに残ってもらい、俺とアンジュで聞き込みに行くことにした。


 人の出入りが多いギルドにレイアを残すのはどうかとも思ったが、外に出て人にどんどん話しかけなければならない状況の方が役に立たないだろう。それを自覚してか自分から「私は居残り」と言い出した。


 それならばとカイトも残ると言ったので残った俺とアンジュが出ることとなった。消去法ではあるが人選としては妥当な形に収まる。


「じゃあ行くかアンジュ」

「ええ」


 俺たちは二人に見送られて冒険者ギルドを出た。




 ロックビルズの街に出た俺たちは、手始めに付近の人に聞き込みを始めた。ギルドで聞いた特徴を伝えて誰かを探して回っているという事実を元にして聞く。


 聞き込みは順調だった。しかし逆にそれで困ったことになった。


「アーデンさんこれは…」

「ああ、見たって人が多すぎるな」


 兎に角殆どの人からそれらしい子を見かけたという話が聞けたのだ。これでは情報は集まっても使い物にはならない、どこにでもいてどこにでも現れると言われているのと同じだ。


「この広い街の中で誰に聞いても見かけたって話が出てくるんだから相当だよな?」

「ですね。相手は相当動き回っているようです。それに…」

「それに?」

「とんでもない体力の持ち主です」

「…どっかで休むか?」

「その提案を待ってました」


 ずっと歩き回っていたから疲れていたのだろう、その言外の要求を呑んで俺たちは一度休憩することにした。


 ロックビルズに来た時に声をかけてくれた男性から、この街の名物についても聞いていた。それを目当てに俺は近くのお菓子店にアンジュと一緒に入った。


「ウィッンタってありますか?」

「ええございます」

「じゃあそれを二つお願いします。あ、ここで食べられますか?」

「ええ空いてる席へどうぞ。お持ちいたします」


 アンジュと一緒に適当なテラス席に腰掛けた。アンジュは不思議そうな顔をして首を傾げ俺に聞いた。


「なんですかウィッンタって?」

「ロックビルズに来てから色々教えてくれた人がいただろ?その人にこの街の名物についても聞いていたんだ。なんでもドライフルーツを使った氷菓子らしい」

「いつの間にそんなことを…」

「俺そういうの聞くの好きなんだ。それに面白そうだろ?」

「名物にうまいものなしとも言いますよ」

「そこは冒険と一緒だろ」


 待っていると店員が皿を運んできた。白いアイスクリームの中に色とりどりのドライフルーツがぎっしりと詰まっている。


 ひとすくいして口に入れた。甘さ控えめで冷たいアイスクリームが舌の上でとろける、中に入ったドライフルーツを噛みしめると、とろけたクリームと混ざり合って得も言われぬ甘さのハーモニーが生まれる。


「これは美味いなっ!」

「ドライフルーツの甘酸っぱさを甘さ控えめのクリームが包みこんでちょうどよくまとまり合っています。これは素晴らしい」


 饒舌なアンジュは口に運ぶ手が止まらなかった。気に入ってくれて何よりだと思っていると、道の向こうから騒がしい気配がして見やった。


「ん?どうかしましたかアーデンさん?」

「いや、なんだか少し妙な気配が…」


 どんどんと近づいてくる、どうやら走っているようだ。やけに速い、まるで風のようだ。


 近づいてきたのは子供だった。帽子を目深に被ってひたすらに疾走している、妙に辺りをキョロキョロと見回しながら何かを探しているようだった。


「うん?」


 何かを探していて、帽子を被っていて、足が速くって、街中を走り回っている姿の目撃証言が多く集まる。


「あーっ!!」

「ど、どうしたんですか急に!?」

「あの子じゃあないかアンジュ?俺たちを探している子供って!?」


 俺が指さした先をじーっと眺めたアンジュは、何度もこくこくと頷いて同意した。止められるかどうか一か八かだが、俺とアンジュは二人で大きく手を振って声をかけて呼び止めた。


「おーい!そこの子!もしかしてアーデン・シルバーを探してる子!?」

「もし聞こえていたら止まってください!!」


 走っていた子供が一度ぴょんと跳ねた。声が届いたのだろうか、もう一度声をかけてみるとこちらへと走ってくるのが遠くからでも見えた。


 見つかってよかった。アンジュと顔を見合わせて微笑んでいると、その子供があと一歩のところで足を引っ掛け盛大にずっこけた。ズシャアと音を立ててヘッドスライディングした。俺たちは慌てて駆け寄ってその子に声をかけた。


「おいっ!大丈夫か!?」

「怪我はありませんか?」


 転んだ子はバッと顔を上げた。その拍子に頭の帽子が脱げて、長く美しい翡翠色の髪の毛がはらりと広がった。丸くて大きな目は緑色の宝石のようだ。そんな目を輝かせながら片方の鼻の穴から血を垂らしながらその子は言った。


「もしかして!あなたがアーデン様ですか!?」

「あ、ああそうだよ」

「よかったあ!!ようやく見つけたッス!!」


 跳び上がってバンザイをしたその子は、もう片方の鼻の穴からも血をぷっと吹き出した。そしてぐらっと体が揺れて後ろに倒れそうになる、俺は咄嗟にその体を支えた。


「嵐のような勢いの子だな」

「取り敢えず介抱してあげましょうか」


 転んだ時に腕や足に擦り傷がたくさんついていた。顔を打ったのか鼻血も出ている。俺とアンジュは子供を運ぶと、店の人に許可をとって少しスペースを借りた。




「う…ん?」

「あ、起きた?」


 アンジュの声に俺は振り返った。アンジュの膝の上で寝ていたその子は体を起こして立ち上がろうとする。


「ちょっと、急に動いたら駄目よ。あなたすごい勢いで転んだんだから、頭も打ったかもしれない」


 肩を抑えられてその子はもう一度アンジュの膝に頭を乗せた。このアンジュの慣れた対処は孤児院で子供たちの相手で培われたものだろう。


「具合は悪くない?痛むところは?」

「だ、大丈夫ッス」

「そう。大きな怪我もなさそうだしよかった。ゆっくり起き上がるのよ」


 アンジュに背を支えられながら体を起こした。俺はしゃがみこんでその子の顔を見た。


「君が俺たちを探してたって子だよね?俺はアーデン・シルバー、探してた人で間違いない?」

「はいッス!まさしく私はアーデン様たちを探していました!そろそろ来るはずだと聞いて最近はずっと探して走り回っていたッス!」

「来るはずと聞いた?誰から聞いたの?」

「風の竜のシルフィード様からッス!私はシルフィード様の眷属のエアと言いますッス!」


 風の竜シルフィード、俺たちがここロックビルズに来た目的。その眷属を名乗る女の子が俺たちを探していた。こちらから探すつもりだったのにいつもとは立場が逆だ。


 俺とアンジュは顔を見合わせて驚いた。どうしたものかと肩を竦めるも、取り敢えず皆で相談することが先だなと俺はエアに話しかける。


「えっとじゃあ取り敢えず一緒に来るか?」

「はいッス!お供させてくださいッス!」


 元気よく返事をするエア。竜の眷属なんて存在は初めてだ、一体彼女が何を語るのだろうかと俺は思った。

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