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冒険の続きへ

 レイアたちは大きな怪我もなかったので早くに目を覚ました。レイアに事情を説明するためにオーギュストさんとモニカさんが動いている、アンジュとカイトはそれに付き添っていた。


 俺は空いた時間を利用してリュデルを呼びつけていた。どうしても聞いておきたいことがあった。


「リュデル、複雑な事情とか大きな目的とか今は忘れて答えてくれ。お前はこの冒険を楽しんでいるのか?」

「くだらな…くはないのだろうなお前にとっては」


 黙って頷く。真剣な眼差しでリュデルは俺の目を見た。


「これまで僕は冒険を楽しいと思ったことはなかった。僕の目的はあくまでも秘宝の奪取であり、伝説の地を目指す理由だってただそこに秘宝があるからだった。他の冒険者たちを気に留めもしなかったし、冒険によって得られるものなどないと思っていた」

「今は違うのか?」

「…分からない。今もやはり目的を果たすための手段にしか思っていない自分もいる。しかし、今回レイアたちと冒険して自分に欠けているものを知った。お前たちと話し合うことで謎を解き明かす過程を知った。それをつまらないものだとは思わない」


 俺もメメルとフルルと一緒に冒険して色々なことを知った。どんな目的を持ち、それぞれに秘めた思いがあって、何を夢見るのかも違う。今回の冒険では多くのものを学ばせてもらった。


「俺は冒険が楽しい。未知に出会い神秘にふれる、広い世界を仲間と力を合わせて進んでいくのがたまらなく嬉しい。俺はこれからも俺の夢を追って冒険を続ける」

「僕は僕の道を行く。僕の目的は絶対に揺らがない。しかし今度は、その過程で得られるものから目を逸らすことはないだろう。冒険は僕にとって手段に過ぎないが、それを無意味だとは思わない」


 立場も覚悟も違う俺とリュデル、物言いに腹が立つことも多いし、秘密主義も大概にしろと怒りたくもなる。自分の実力不足をまざまざと見せつけられている気もして悔しく思う。


 だけど冒険者としての志には共感ができる。確かに俺とリュデルでは考え方が違うけれど、揺るぎない意思の力は尊敬できる。


「冒険を楽しめとは言わないけどさ、でも感想くらいはメメルとフルルに話してみてもいいんじゃないか?」

「僕を見習って戦いの技術を磨け。あの優秀な仲間たちをつなぎとめているのは、他ならぬアーデンの力なんだ。お前が強くあれば皆もそれに応えるはずだ」


 お互いに思っていたことを言い合う。暫く沈黙する時間が続いてから、どちらともなくぷっと吹き出して笑い始めた。俺もリュデルも勝手なことばかり言ってる、でもそれが俺たちらしい気もした。


「じゃあなリュデル、冒険の果てでまた会うこともあるだろ」

「そうだなアーデン、ぼやぼやしていたら僕が先に伝説の地へ辿りつくからな」


 なんだかやっとお互いすっきりとした顔で話し合うことができたと思った。固く交わした握手を通して、友情と呼ぶには不器用だが他人とは思えない好敵手としての絆を確かめあった。




 旧ゴーマゲオ領での滞在を終えて俺たちはそろそろ出発することになった。リュデルたちは一足先に出ていっていた。


「ったく愛想のねえ坊ちゃまだな。挨拶の一つもしてきゃいいのによ」


 カイトの苦言を聞いて、見送りに来てくれていたモニカさんが微笑んだ。


「挨拶代わりになるか分かりませんが、リュデル様から手紙を預かっていますよ」

「あいつが私たちに?」

「ええ。こちらです」


 俺はモニカさんから渡された手紙を開いた。皆が一斉の覗き込んでくる。書かれている内容は実に簡潔なものだった。


「風の竜を探すのなら、ロックビルズへと向かうといい。土の竜ならシチテーレだ。ここから出発して近いのはロックビルズだ。精々頑張るといい」


 それは次の竜についての手がかりだった。風と土の印はリュデルがすでに手にしているとシェイドが言っていた。リュデルはここで竜と出会ったのだろう。丁寧にも地図までつけてくれてある。


「あいつ手紙でもこんな感じなのね」

「でもリュデルさんらしいですよ」

「俺ぁ心配になるけどな。そっけないにも程があるぜ」

「ははっ、確かに。でもこれは多分リュデルにとって最大限の親愛を示していると俺は思うよ」


 挨拶は不要だったなと俺は手紙を懐に仕舞った。改めてモニカさんに向き直る。


「じゃあ俺たちも行くよモニカさん」

「今回のこと本当に申し訳ありませんでした」

「確かに色々とあったけど、結果なんとかなったから大丈夫です。それよりモニカさんたちこそ気をつけてください。俺たちなんかよりずっと危うい立場なんですから」

「はい。肝に銘じます」


 それぞれに挨拶を交わしてから歩きだす。俺は最後にモニカさんに振り返って手を振りながら言った。


「共に行こう友よ、世界は冒険に満ちている!」


 モニカさんはそれを聞いて一度目を丸くして驚いた。しかしすぐに笑顔となって手を振ってかえしてくれた。


「行ってらっしゃい!私は私の冒険をしながら、皆様の無事を祈っています!」




 旧ゴーマゲオ帝国領を立ち去りながらカイトが口を開いた。


「なんだかとんでもないことに巻き込まれちまったなあ」


 それを聞いてアンジュが言う。


「でも竜の印を狙っていたのなら時間の問題だったと思いますよ」


 そしてレイアが続いた。


「そうね。どのみちグリム・オーダーは私たちの前に出てきたと思う。オリガの件では派手にやっちゃったし」

「それ言われると弱いなあ、そうなるとそもそも俺の存在が大問題だ」

「否定はできませんね」

「ちょっと?フォローしてよアンジー、たとえそうだったとしてもさあ!」


 そのやり取りを見て、なんだかやっといつもの俺たちに戻ったような気がした。今回の冒険は危険も多かった。だけど得たものだって確かにある。


「カイトはグリム・オーダー絡みじゃなくともそのうち問題起こしてたんじゃないの?」

「おいおいそりゃないぜアー坊よ、俺ぁそれはもう立派にサルベージャーやってたんだぜ?」

「イマイチ信用できないのは何故かしらね」

「お嬢まで酷くない?俺の心は繊細よ?頑丈な外身と違ってよ」

「最初に話しかけてきた時の胡散臭さは擁護できません」

「そういやお嬢もアンジーもめっちゃ警戒してたな。フレンドリーだったのはアー坊だけじゃあねえか!」


 大げさに肩を落としてみせるカイトを見て俺たちは笑った。こうして和やかな空気になったのは久しぶりかもしれない、それだけ気を張り続けていたのだと改めて思う。


「皆、ありがとうな」


 思わずこぼれでた言葉に皆が足を止めた。


「何よ急に、変なものでも食べた?」

「レイアさん失礼ですよ。拾い食いするのはカイトさんだけです」

「いやいや流石の俺でも拾い食いはしねえって」

「でもこの前その辺の草引っこ抜いて食べてたの見たわよ?」

「あれは食べられる野草だよっ!!」


 俺は自分の顔がほころんでいるのが分かった。暖かな気持ちが胸に湧き上がる、どんな困難にあってもこの仲間たちが一緒なら大丈夫、グリム・オーダーなにするものぞ、俺たちの冒険はシェイドのくだらない思惑を越えていく。


「行こう皆!次の冒険へ!」


 俺の言葉に皆頷いた。思わず駆け出したくなって前に出る、文句を言うレイア、慌てるアンジュ、負けまいと並んでくるカイト、笑い声を上げて次の目的地へと向かうのだった。

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