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掴んだ情報

 オーギュストさんが話に加わってから、改めてモニカさんが話を切り出した。


「話を戻します。私がグリム・オーダーの首魁について気がついたのは本当に偶然だったんです。ここの調査に加わった時私は立場として下の下、ただの下っ端だったのです」

「下っ端ですか?」

「ええ、私はワード家の人間としては不出来でしたから」

「そうは見えんがなあ」


 カイトの言葉に俺も頷いて同意する。するとモニカさんは少しだけ笑みを浮かべて言った。


「兄妹親類が分厚い歴史書を手に研究に没頭する中、私だけが冒険記を抱えて叶うことのない夢を見ていた。いくら優秀な成績を残したとしてもワード家の人間の自覚が足りないと責められるのは仕方のないことなのです」

「そんな酷いです。ただ好きなものを好きに楽しんでいただけなのに」


 これに反応したのはアンジュだった。ちょっと食ってかかるように言ったのが気になった。


「アンジュ」

「あっ、す、すみませんつい」

「謝ることありません。寧ろ怒ってくれて嬉しいです。昔の私に聞かせてあげたかった」

「…私は恩師の元で自由に学ばせていただきました。色々困ったこともする人でしたけど、何を学ぼうともそれを肯定してくれる人でした。どんなことを学んでいようと、自分の好きを持つことは大切なことだと教えてくれました」

「素敵な先生と出会ったのですね」


 モニカさんは笑顔だった。だけど少し寂しそうに見える、アンジュの肩をぽんと叩いて俺は話の続きを促した。


「私は半ば家から放逐されるかたちでここに押し込められました。皆さんご存知の通りここの研究は常にシャドーの危険が伴います。死んでも惜しくない人手という意図があったのだと思います」

「人の命を何だと思ってやがる」

「カイト様、非情ではありますがこれもお家のため。それにここでのお役目を果たすことも大切な務めです。危険でもやらなければなりません」


 覚悟と義務、そして使命感と目標の高さ。モニカさんをすごい人と思うと同時に尊敬できる人だと思った。


「と、大層なことを申しましたが所詮は下っ端。下手に立場もありますので、私は現場には出されず。ひたすら細々とした情報の精査を任されていました。集まってくる情報の正確性の評価などの作業です。それを繰り返し行っているうちに、私はあることに気がつきました」


 それからモニカさんは、グリム・オーダーとシェイドに繋がった話をしてくれた。




 上がってくる雑多な情報をひたすらに精査する毎日を続けていたモニカ。その情報はよく言えば玉石混交ではあるが、殆どが無駄なものか誤ったものである。膨大な情報の中から使えるもの、使っていいものを選ばなければならない。


 積み上がっていく資料の山と格闘していると、些細なことながら違和感に気がついた。それは遺跡から見つかった文字の一部であった。


 それ自体は珍しいことでもなんでもない。他の地下遺跡でも見つかることがある。しかしモニカは使われている文字に目がいった。


 それは古代文字でも比較的新しいもの、具体的に言えば旧ゴーマゲオ帝国が滅びる前後で使われているものであった。そこまでなら他の遺跡でも見られるものであったが、明らかに変な所だと判断できる箇所があった。


 それが文法であった。古代文字こそ使われているものの、使われている文法は年代が進んでいるものが入り混じっていた。亡国の失われた文字であるにも関わらず、それより先の年代の文法が使われているのは明らかに変だった。


 ただし一見するだけでは「変わっている」以上の感想はない。その時代では用いられていなかった文法が見られるとはいえ、その内容はデタラメで意味が繋がるものがない落書きのようなものだった。


 結局これらの情報は、変ではあるが調べても意味がないものと判断された。その時点ではモニカも同様の結論だった。あらゆる検討を重ねても意味や意義が成立しない文字列に時間を割くのは無駄だった。


 成果に繋がりそうなものでもない。しかし変は変だということでモニカはこれらの研究の担当に回されることになった。手柄にはならない面倒事を押し付けられた形になる、仕方がないと納得していてもモニカの心情は憂鬱であった。


 意味の繋がらない文字列を睨む毎日が続く、悪戦苦闘しながら研究を進めても成果は出ず。モニカの肩身は更に狭くなっていった。こんなことを続けたところで意味がないと諦めかけた時、モニカは自分が大好きな冒険記の内容を思い出した。


 それは遺跡に仕掛けられていた暗号のことだった。意味不明な文字を手がかりを頼りに正しく組み替えると遺跡の仕掛けが作動する。すると知られざる場所であった遺跡の一室が姿を現すというものだ。


 暗号ではないかというものは、それが歴史の何かを証明するものでなければならないという固定観念にとらわれていては思いつかない発想だった。


 使われている文字も文法にもまるで意味はなく、内容なんてものはそもそも存在しない。遺跡に施された何らかの仕掛けだったとしたらと発想を変え、モニカは改めてそれと向かいあった。


 調べを進めていくうちに、それらは文章ではなく魔法の術式に類似していることを発見し、膨大な文字の中から必要なものだけを抜き出すことで一つの魔法が出来上がることが判明した。


 それはとある場所に繋がる空間転移の魔法、旧帝国領の遺跡で発動するとグリム・オーダーの本拠地へと繋がるものであった。




「グリム・オーダーの本拠地!?」

「そうです。私は何度かその魔法を使ってそこへ乗り込んでいました。そこで見たものがシェイド・ゴーマゲオ、聞かされた目的が秘宝の再奪取と帝国の再興という訳です」

「なんて危険なことを…」


 まさか直接乗り込んで知ったとは思わなかった。カイトの言う通りとんでもなく危険な行為だと思う、しかしモニカさんはけろりとして言った。


「グリム・オーダーの集会に参加することはそれほど危険ではありませんでした。集まった人々はローブとフードで身を隠していましたし、所謂身辺調査のようなものもなかったので。恐らくですが自力でそこに辿り着くことは想定されていないようでした」

「でも遺跡に術式が書かれていたのでは?」

「あれは恐らくシェイドが転移魔法を編み出すためのものだったのでしょう。自分さえ意味が分かればいい、そういった類いのものですから」

「だがよお、あの爺さん秘宝っていうとんでもない力を持っていた訳だろ?それがどうして穴蔵にこもるようなことになったんだ?」


 確かにそうだと思った。シェイドは秘宝の力で生きていると言っていた。どうしてか今は伝説の地にあるようだが、秘宝によって手に入れた力が不死だけとは考えにくい。


「それは分かっていません。秘宝とは何なのか、どうしてシェイドが生きながらえ、何故表立ってではなくこそこそと動き回る必要があるのか。どれもこれも謎のままです」

「だが奴の魔の手は確実に人々の安寧を脅かさんと伸びている。私はそれをこの目で見たのだ」


 モニカさんの話に続いてきたのはオーギュストさんだった。


「私が死を偽装してまで潜んでいるのは、エイジション帝国の皇帝、つまり私の兄上がグリム・オーダーに操られ傀儡とされているからだ。グリム・オーダーの一員として帝国にて陰で糸を引いているのが兄上の嫡男である次期皇帝エルダー、私の家族を殺し、私にも手をかけようとした恐ろしい男だ」


 次期皇帝がグリム・オーダーの一員、しかもオーギュストさんの家族を殺害した。帝国で今何が起こっているのか、疑問と謎、そして闇が濃く影を落としていた。

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