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刺客の謎 その1

 俺たちは朝を待ってから遺跡を出た。カーラの遺体と持ち物の残骸、手がかりになりそうなものはすべて回収しておいた。外のシャドーが消えたのを見てから拠点へと戻る。


 拠点の手前でリュデルたちと合流した。俺たちも大概ボロボロだったが、リュデルとカイトはもっとボロボロだった。何があったのかは聞かずともなんとなく分かった。


 その日は戻ってすぐにお互いのことを話すのではなく、負傷の治療をしてから泥のように眠りに落ちた。怪我の程度に差はあれど、皆疲労困憊であったのだろう、モニカさんに起こされた時にはもう日が落ちかけていた。


 地下へ下りて全員が集まり、夜の遺跡で起きたことを話し合った。グリム・オーダーからの刺客が送り込まれたこと、その目的があまりに不明瞭だという意見で一致したことが俺たちの間で共有された。


「結局のところ何がしたかったんだろうなあいつら」

「はっきり言って何も分からない。僕も色々と考えてみたが、アーデンたちの情報と合わせてみても答えは出ないな」


 ゴルカにカーラ、どちらもグリム・オーダーからの刺客であったことに間違いはない。だけどカーラの言うように伝説の地と秘宝についての情報が欲しかったのであれば、俺たちを殺そうとした意味が分からなかった。


「とりあえず戦って無力化してから拷問でもするつもりだったのかな」

「いや、あの殺意は本気のものだった。こちらを無力化しようという意図は感じられなかったな。少なくとも僕たちが相手をしたゴルカはそうだった」

「…そうだな、カーラも似たようなものだった」


 俺とリュデルは珍しく同じことで頭を悩ませていた。互いにうーんと首を捻っていると、レイアがバッと手を上げた。


「どうしたレイア?」

「ちょっと確認しておきたいことがあるの。リュデル、あんたによ」


 レイアの口調はあまり穏やかではなかった。名指しされたリュデルはレイアに向き直り言った。


「聞こうじゃあないか」

「ゴルカとの戦闘前、あいつが言っていたことが気になるの。皇帝陛下のお気に入りとか忠犬とか、同じ穴の狢や仲間ともあんたを称したわ。お目付け役の二人がいない方がいいとかね」


 リュデルは押し黙ったままレイアの話を聞いていた。黙っていられなくなったのは双子の方だった。


「レイア様は何をおっしゃりたいのですか?」

「リュデル様がグリム・オーダーの手のものだって言いがかりつけようってか?ああ?」


 静かな怒りを露わにするメメルに、顔を近づけて凄むフルル。二人を止めに入ろうとした時にリュデルが口を開いた。


「やめないかメメル、フルル。みっともなく恥をさらすものじゃあない」

「しかしっ」

「やめろと言ったのが聞こえなかったか?」


 リュデルの一喝で双子は黙って身を引いた。そしてレイアが話を続ける。


「別に私はゴルカの言葉を信じたって訳じゃあない。戦闘前の揺さぶりってこともあるだろうしね。だけど事実も混ざっているでしょ?」

「陛下のことだな」

「そう。似たような話をシェカドの冒険者ギルド長トロイさんから聞いたことがある。幼少の身ながら冒険者の資格を特例で得られたり、様々な事件の調査に絡んでいたり、リュデルにとって都合のいいことが多すぎない?」

「そうだな」

「あんたが優秀なのは分かる。分かるけどハッキリ言ってそれで疑念が強まった部分もあるの。何故ゴルカがあんたに対して仲間という言葉を使ったのか、説明できるなら説明して」


 リュデルとレイアの間に緊張して張り詰めた空気が流れた。俺やアンジュにカイト、黙っているメメルとフルルが黙ってそれを見つめていると、リュデルがフッと息を吐き出してから言った。


「話せること話せないことがある。そして僕にも分からないこともな。それでもいいか?」

「勿論」


 レイアの返事を聞いてリュデルはゆっくりと語り始めた。




「始めにハッキリさせておきたいのは、僕がグリム・オーダーに属するものではないということだ。それだけは断言できる」

「一応理由を聞いてもいいですか?」


 アンジュがおずおずとだが会話に参加した。その場に一緒にいたので気になっていたのだろう。


「すべてを語ることは出来ないが、僕はグリム・オーダーを壊滅させるという任務を受けている。僕はその任を全うする責務がある」


 そう言ってからリュデルは首元のペンダントを触った。そして飾りが見えるように少しだけ持ち上げる。


 その飾りはエイジション帝国の国旗などに見られる紋章に似ていた。それが何なのかまでは分からないが、何故今その行動をとったのかは分かる。


 これはリュデルにとって明かすことの出来ない事実なのだ。そして恐らく自分の意志よりも帝国の意志が絡んでいると示しているのだろう。わざわざ見せつけるような動きをする理由はそれ以外考えられない、もしくはただ自慢したいってだけの可能性もあるが、この場にはそぐわないと思う。


「分かりました。不躾な質問をしてすみません」

「いや構わないさアンジュ。寧ろ悪いと思っているよ」


 アンジュも俺と同じ意見にいきついたのだろう、アンジュは謝罪し、リュデルも心苦しい表情でそれに返事をした。


「僕とメメルとフルルはグリム・オーダーの存在を煩わしく思っているし、壊滅のために動いている。それは理解してくれ」


 リュデルは俺たちの目を見てハッキリと言い切った。真剣な表情は嘘をついているようには見えない。今度は黙って聞いていたカイトが口を開いた。


「ま、俺たちだって坊ちゃまをグリム・オーダーだなんて思っちゃいないさ。だろお嬢?」

「うん。それはそう」

「ただーし!引っかかるのはゴルカの言動だ。仲間ってどういう意味だ?本当に坊ちゃまがお仲間だったらわざわざ明かす必要はない。黙っておいて後ろから俺たちをグサリといけばいい。合理的な発言じゃあないよな?」


 カイトの発言は的を得ているように思えた。確かにリュデルがグリム・オーダーの仲間で、わざわざこちらに潜入させていたとしたらそれを利用することが合理的だし有効だ。


「…僕たちのことを完全に信頼するのは難しいかもしれない。だけど僕たちは今回のことである程度お互いを知ったんじゃないかと思う。だからどうだろう…、その、ええと、一緒に考えてみないか?」


 リュデルが恥ずかしそうに顔を背けながらそう言った。俺もそうだったが、周りの皆も、一番近くで一緒にいたメメルとフルルでさえも驚いた顔をしていた。まさかリュデルからそんな言葉が出てくるとは思わなかったからだ。


 俺はリュデルの言葉がなんだかとても嬉しかった。馴れ馴れしいと嫌がられるだろうけれど、俺はリュデルの肩をがっと抱いて言った。


「賛成だぜリュデル。一緒に考えよう、俺たち皆でな」

「…ふんっ、馴れ馴れしいんだよお前は」


 思った通りの反応が返ってきて思わず俺は笑ってしまった。俺たちのそんな姿を見てレイアがふっと表情を緩めた。


「確かに考えてみる必要があるかもね」

「私も協力します。気になることは多いですから、知恵を出し合いましょう」

「坊ちゃま、俺も賛成だ。考えるってなると俺ぁ役に立たねえだろうけどな!」


 レイア、アンジュ、カイトがそう言って協力の姿勢を示す。俺はメメルとフルルに視線を送った。二人は顔を見合わせると揃った声で言った。


「そういうことなら」


 息のあった双子の声を聞いて俺たちは笑った。俺が肩に手を置いていたリュデルも少し体が揺れた気がした。

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