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VS.カーラ

 アーデンはカーラと対峙しながら考えていた。メメルとフルルのために啖呵を切ったものの自分にカーラを倒せるのかと悩む。


 それでもやらなければならない。メメルが決死の思いで切り開いた攻略の糸口を掴み取らなければならない。アーデンはファンタジアロッドを構えた。


 一方カーラには余裕があった。折れた足はすっかりくっつき、消費したマナも回復している。舞踏とカスタネットのコンビネーションに隙はない、ステップを踏む足も軽やかだった。


 カーラの舞踏が始まった。障壁を撃ち出す攻撃がアーデンに襲い来る、しかし今度は見えない攻撃を前にアーデンは怯まなかった。


 アーデンはひたすらに前進してカーラに肉薄した。ロッドを伸ばして鞭のようにしならせると連撃を加えた。たわむ障壁はしなやかな鞭と化したロッドを捉えることはできなかった。


 しかし有効打にはならなかった。何度攻撃を加えても障壁が破れることはない、そしてカーラは守るだけでなく攻めることもできる。至近距離でカーラの攻撃を避けるのは至難の業で、当たればひとたまりもない。せっかく近づいても離れざるをえなかった。


 攻撃の手が止まればカーラの舞踏は勢いに乗る、そして勢いがつけば止めるのは難しい、アーデンもそれを分かっていても止める方法が思いつかなかった。


「火力も手数も何もかも足りないっ」


 心の中でアーデンはそう自分に毒づいた。このままでは駄目だとアーデンは集中力を高める、そして自分にできることを探して思考の海へと潜り込んでいた。




 アーデンはずっと昔から冒険者になるための訓練をしていた。運動神経もよく体も柔軟でしなやか、無茶な動きでも耐えうる体を持っていた。


 父が残した手記を頼りに必要になりそうなことは一通り学んだ、しかしどうしても独学で学ぶには限界のものがあった。


 それが戦い方、アーデンはあらゆることを想定想像しながら戦う方法を独学で身につけてきた。武装型アーティファクトであるファンタジアロッドを持っているというアドバンテージ、そして天性の度胸だけがアーデンの支えだった。


 アーデンの戦法が型破りかつ急所狙いばかりなのは、自分の実力不足を補う方法を模索しての結果であった。首を落とせば大抵のものは死ぬ、目鼻を潰せば動きは鈍る、動き回って狙いをつけさせないよう立ち回り、確実にダメージになる箇所を狙う。


 変幻自在のファンタジアロッドとアーデンの身体能力と発想力がそれを可能としていた。だがどこまでいってもそれは我流、訓練を積んだ相手に対しての戦闘では一歩劣る。


 アーデンはなぜリュデルに対して悪感情を持ちがちであるのかを理解していた。それはリュデルが自分にないものをすべて兼ね備えているからだった。劣等感の表れだった。


 幼少より戦闘訓練をし、冒険者の教育を受け、着実に冒険者としての実績を積んできた。ブラックの再来と呼ばれていることを否定できない自分が悔しかった。リュデルにはそれに見合う実力があるからだった。


 自分の冒険を誰かと比べるものではない。頭ではそう分かっていても心の奥底にはくすぶる炎があった。自分にもリュデルのような力があれば、そんなことを考えてしまった。


 考えに気を取られてカーラの攻撃がアーデンに直撃した。致命傷とはならなかったものの、ふっ飛ばされて地面を転がる、手にしていたロッドも落としてしまった。


「ぐ、ぐぐッ…!」


 立ち上がろうと体に力を込めるも足や手に力が入らない。アーデンはせめて武器だけでもとファンタジアロッドに手を伸ばした。


「…何だ?」


 手を伸ばした先にあるファンタジアロッドが脈打つような間隔で光っていた。まるでアーデンに対して何かを訴えかけるように、何度も点滅を繰り返している。


 ファンタジアロッド、父がくれた宝物で冒険の相棒、このアーティファクトと共に困難な冒険を乗り越えてきた。しかし自分は、本当にファンタジアロッドの力を引き出しきれているのだろうか、アーデンはそう自問した。


 ずるずると体を引きずってファンタジロッドを手にする。属性の変更も、伸縮硬化も自由自在、だがもっとできるはずなんじゃあないか、できることの幅を勝手に自分で狭めてはいないだろうか、アーデンはロッドの柄を握る力を強めた。


 イメージを拡張しろ、やれることの幅を狭めるな、ファンタジアロッドが本当に変幻自在であるのなら、姿形の常識にとらわれてはならない。自分のやりたいことを実現させてくれるのがファンタジアロッドで、その可能性を信じることが自分のもつ力なはずだとアーデンは心を決めた。


 ロッドを手に取り立ち上がる。迫りくる不可視の攻撃を前にアーデンは目を閉じた。




 攻撃が連続で直撃したとカーラには確かな手応えがあった。飛び道具だろうと関係はない、確かにアーデンに有効打が入ったと確信した。


 しかしアーデンは無傷で立っていた。それ以上に驚くことがあってカーラは舞踏の足を止めてしまった。


「何だそれは?」


 アーデンが手にしているファンタジアロッドの形は先ほどまでのものとは変わっていた。柄が長くなりその両端からロッドの刀身が伸びている、アーデンはそれをくるりと回して肩に担ぐと、空いている手でくいくいとカーラを挑発した。


「ガキがあッ!!」


 挑発にのったカーラが再び舞踏のステップを踏み始める、今までよりもっと激しく情熱的な舞踏に、リズムよく打ち鳴らされるカスタネット、攻撃の勢いは最初から最高潮だった。


 アーデンは振り下ろして一度、振り上げて二度、棍形態となったファンタジアロッドで攻撃を叩き落とす。くるりと身を翻してからロッドを前面で回転させながら突撃する。


 回転するロッドの刀身がカーラの攻撃を防いだ、これによって一直線にカーラへと向かうことができた。もう一度カーラへと肉薄したアーデンは、ロッドによる攻撃を仕掛ける。


 対するカーラは防御を固めた。身を守る障壁が体を包み込む、これを抜けるはずがないとカーラはほくそ笑んだ。


 アーデンは片方のロッドの刀身を伸ばした。今度は鞭のようにしならせるのではなく、カーラの体へぐるりと回し、身を包む障壁ごと縛り上げた。


 カーラはアーデンの意図が分からず困惑した。動きは止められたが障壁が身を守り絞め殺すことはできない。これではただ障壁が体に密着しただけであった。守りは逆に強固になる。


 しかしそれこそがアーデンの狙いであった。アーデンが持つロッドの柄が真ん中で切り離されて取れた。片方でカーラの体を障壁ごと拘束し、もう片方のロッドはマナの出力を高めた。


 拘束したカーラ目がけてアーデンはロッドを突き立てた。出力を高めたロッドの刀身と障壁がぶつかり合いバチバチと音を立て火花が飛び散った。


「グギャアアアアアッッッァァ!!!」


 アーデンがロッドを突き立てる力を強めるほどカーラが苦しみにあえぐ声を上げた。体に密着した障壁は確かにカーラの身を守っていて、ロッドの刀身がその身に届くことはなかった。


 だが締め上げられ密着した障壁からロッドの高密度のマナエネルギーがカーラへ直接流れ込んでいた。アーデンは障壁を破るのではなく、障壁ごとカーラを攻撃することを思いついた。


 アーデンはカーラを縛り上げているロッドの方もマナの出力を上げた。二本のロッドから流れ込む高エネルギーによって、障壁に包まれて中にいるカーラの体は焼け焦げはじめていた。


 断末魔が聞こえなくなった頃、アーデンはロッドの拘束を解いた。ドサッと地面に転がったカーラの体は、真っ黒に焦げて見る影もない。ぷすぷすと煙を上げていて、かろうじて悲鳴を上げる表情だけが見て取れた。


 勝利を収めたアーデンはロッドの柄を再びくっつけてから刀身を引っ込めた。戦いの中で獲得した新たな形態は棍と双剣、アーデンは可能性を広げたことを実感するように拳をギュッと握りしめた。


 戻ってきたフルルにアーデンは顔の汚れを拭ってから手を振った。勝利を告げるとフルルは驚いて目を丸くしたが、その後はバンとアーデンの背中を叩いて言った。


「やったなアーデン!」

「ああ、皆の勝利だ」


 アーデンとフルルは顔を見合わせてからニッと笑った。二つの遺跡で行われていた戦闘は、奇しくも同時に決着していたが本人たちにそれを知るよしはなかった。

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