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春実と魔法のホイッスル  作者: 幽霊配達員
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マリー姫は後ろめたい

 春実がゴブドンのお家に泊まった次の日の朝。

 マリーはお城にある自分のお部屋で眠っていた。

 真っ黒な壁にはランタンがいくつもかかっていて、コウモリの飾りが散りばめられている。天井にはキラキラしたシャンデリア。床は真っ赤でふわふわしたじゅうたんが敷いてある。部屋の中央には休憩用のテーブルとイスも用意してある。

「むっ、んんっ」

 両開きの窓からは朝の光が差し込み、天井の付いた豪華なベッドで眠るマリーの顔を照らしていた。髪を結んでいないから、バサァッと金色の髪が広っている。

 マリーが光をさけるように横になった時、コンコンとドアからノック音が響いた。

「マリー姫様。失礼します」

 黄土色の犬耳にしっぽ、メイド姿をしたシャロンがドアを開けた。お辞儀をしてから部屋に入ると、眠っているマリーの身体をゆさゆさとゆすった。

「マリー姫様、朝ですよ。起きてください」

「んー、うるさい。クビにしますわよ」

 マリーはモゴモゴ言いながらベッドに潜っていく。

「シャキっとしてください。マリー姫はもう十歳、幼いお子様とは違うんですよ。ちゃんとしないと王様に叱られてしまいますよ」

「む~、お父様に叱られるのは嫌。仕方ないから起きてさしあげますわ」

 マリーはむっくりと起きあがると、眠たげな目をこする。ベッドから出ると、足元まで伸びた黒色のネグリジェ姿がかわいらしい。胸元には赤いリボンがついていて、フリルは花弁が重なるようにヒラヒラしている。

「マリー姫様。お着替えいたします」

 マリーがじっと立って待つと、メイドが丁寧に着替えさせた。

「次は髪よ。ツインテールに仕上げなさい」

 真っ黒でてっぺんにコウモリの飾りがついた化粧台に座る。メイドがマリーの後ろに立つと、金色の髪にクシをいれる。

「昨日は精霊の森で春実って子と出会いましたわよね」

「えぇ、あんな女の子が一人で。保護者の方が近くにいたのならいいのですが」

 メイドは鏡を見ながら、コウモリの飾りゴムでツインテールに結ぶ。

「そうではなくて、あの後春実はどうしてしまったのかと思って」

 ホイッスルが湖に落ちた時、物凄く泣いてしまいましたし。

「心配ですか?」

「誰が! 春実のことなんて全然、まったく、これっぽちも気にしていませんわ!」

 マリーが勢いよく立ち上がった。

 メイドは慌てて手を引っ込めた。ツインテールに整え終わった後でよかったと安心しているけど、マリーは気づいていない。

 人間風情がこのマリーにたてついたのが悪いのですわ。マリーは全然悪くないんだから。

 床に穴があくんじゃないかってほど、ドスドスと力を入れて歩いていく。両開きの窓を開くと、心地よい風が金の髪をゆらゆらとなびかせた。マリーは街の南側を眺める。

 街の外壁までまっすぐ伸びた南の大通りが、たくさんある建物を左右に別けている。

「相変わらず地味な景色。マリーの部屋の眺めにしてはふさわしくない気がしますわ」

「庶民の街並みもきらびやかでは、お城が目立たなくなってしまいますよ」

「それもそうですわ」

 手前の方にはお金持ちが住んでいる地区。きれいで整った街並みがあって、いろんな色の屋根がカラフルに並んでいる。

 奥の方は一般人の住んでいる地区。家の大きさもバラバラで、おもちゃ箱をぶちまけたように整っていない。家が詰めこんだようにギュウギュウになっている場所もあれば、無駄にあき地になっている場所も見える。

 木を組んだだけの高い場所に、鳥の巣みたいな家もいくつか伸びていた。

「いつ眺めても、平民の住む家は品がなくてよ。どうして暮すことができるのかしら」

「きっと庶民の方々は、お嬢様の暮らしの方が想像できないと思いますよ。豪華すぎて、目が眩んでしまうでしょうし」

「まぁマリーの生活は誰もが望む一番上の存在ですものね」

 そうですわ。庶民のことなんて気にする必要ないのですわ。春実のことなんて、気にする必要ないのですわ。

 庶民のグシャグシャした街並みが、春実のグシャグシャした泣き顔と重なって見えた。マリーは目をギュッとつむってから、首を横にぶんぶんと振った。

「マリー姫様。どうなさいました」

「なんでもありませんわ!」

 マリーが気分を変えるつもりで、遠くを眺めた。

 魔族の街(シェルタウン)を守るように立つ高い外壁。その向こうには、大通りに続くような砂利道と、草原が広がっている。草原には東の方にある森から、大きな川が西のゴツゴツした鉱山の方に流れていた。

 立派な橋もかけてあるけれど、大洪水で何度か壊れたことがある。川の流れが気紛れだから《猫の川》と名前が付いていた。

 猫の川は、精霊の森にある湖から流れてきているんですわよね。春実と出会った……って、何でさっきから春実の顔が離れないんですの!

「シャロン。朝食の準備はできていまして?」

「はい、いつでも召し上がっていただけますよ」

「じゃあすぐに用意しなさい」

 きっとお腹がすいているから変に考えちゃうんですわ。おいしい食事でも食べればおちつくに決まっていますわ。

 マリーはいばり散らしながら、メイドに命令するのだった。

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