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春実と魔法のホイッスル  作者: 幽霊配達員
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ホイッスルに魔法を込めて

 ウンディーネがわたしの髪を撫でる。声色はやさしくて、不安を包み込んでくれる。

「うん。うっとね、どうしよう? 何から話せばいいんだろ?」

 話したい気持ちはたくさんあるのに、言葉が上手く出てこないよぉ。

 たくさん泣いたはずなのに、また瞳に涙が溜まってきた。悔しいような情けないような、どうしよもない気持ちが心の中で暴れ回っている感じ。

「おちついて、大丈夫よ。ほら、まずは深呼吸。大きく息を吸ってー、ゆっくりはいてー」

 言われるままに深呼吸すると、頭が少しすっきりしてきた。

「おちついたみたいね。お話はゆっくりでいいわ。急がなくても大丈夫だから」

「うん。えっとね、シロと一緒にお散歩していたら、道路にラクガキが描いてあったの」

 ゆっくりと説明する。ウンディーネは話しやすいように相槌(あいづち)を打ってくれた。

「大変だったわね。でもひとりで行動できたなんて偉いわ」

 ウンディーネは抱きしめて褒めてくれた。つやつやな腕はヒヤリと冷たくて心地いい。それなのに胸の中は安心できるぬくもりがあった。

(春実ちゃんは偉いニャ)

 今まで気持ちがいっぱいだったから何も思わなかった。けど褒められて初めて、動いてよかったって思えた。ムズかゆいような、温かな気持ちが心の中でいっぱいになる。

「えへへっ。ありがとう」

 猫耳をペタンと垂らして、しっぽをゆっくりと振る。

 ウンディーネは幸せそうに微笑むと、膝を伸ばしてピンと立った。

「マリーの合体魔法だけど、気持ちもシロちゃんと合体しちゃっているんじゃないかな」

「あっ!」

 春実は口を大きく開いて驚く。水が嫌いになったのはシロと合体してからだ。

「もしかしたら他にもいろんな部分が合体しちゃってるかも」

「そんなぁ。ねぇ、ウンディーネさんは治すことができないの?」

 期待を込めて見上げる。ウンディーネは目をつむって、首を横に振った。

「ごめんなさい。私が使えるのは水に関わる魔法だけなの」

「そっか。ごめんね。ムリなこと言っちゃって」

 シュンとなって俯く。できないとなると、どうしてもガッカリしてしまう。

「私こそごめんなさい。春実ちゃんを助けてあげられなくて。その代わり、別のものをプレゼントしてあげるわ」

「えっ、プレゼント!」

 顔をあげて期待の眼差しを送る。聞いただけで嬉しくなる魔法の言葉。

 きっときれいな紙で包まれ箱に入っていて、かわいくて豪華なリボンがついている。中身を確かめる時はもぉ、たまらない気持になっちゃう。

「そう。プレゼント。持ってくるわ。《命の水は清く流れる》」

 ウンディーネの唱える音色は歌のように澄んでいて、聞いているとスーっとおちつく。

 湖からポワンと、大きな一つの泡が出てきた。風が吹くとやわらかくへこんだりする。

「すごーい。シャボン玉のプレゼント箱だ。中身は……あっ!」

 透けて見えたものは、大切なホイッスルだった。泡はポワポワしながらゆっくりとわたしの頭の上に移動して止まった。わーって口を開けて、真下からホイッスルを眺める。

「ふふっ。春実ちゃん。手をちょうだいってするように、前に出して」

 こう? っと手を前に出す。泡が弾けてホイッスルが手のひらに落ちてきた。壊れているところがないか、あちこち触って確かめる。

「私の、ホイッスルだ」

(春実ちゃんよかったニャ。これでお魚も一緒にあれば最高だったニャ)

「もぉ、シロってば。でも本当によかったぁ……」

 安心すると涙が出てきた。もう手に戻ってこないと思うと、とても悲しかった。でも無事に戻ってきてくれた。こんなにも嬉しいことなんて、滅多にないよ。

 ひもを結びなおしてから首にぶら下げる。また嬉しくなって、えへへって笑う。しっぽもピンと立った。こういう仕草もシロと合体している影響だと思う。

「ありがとうウンディーネ。わたし凄く、すっごく嬉しい」

 ホイッスルが首にかかっていることを見せびらかす。もう二度となくしたりしないもん。

 ウンディーネにも嬉しさが移ったみたい。目を山なりに細めて笑ってくれた。

「喜んでくれて嬉しいわ。大切な物みたいだから拾ってあげたの。ついでに、健気(けなげ)な春実ちゃんのためにおまじないをかけてあげる」

 ウンディーネを見上げると、いたずらをしたように微笑んだ。小悪魔(こあくま)っぽい感じなんだけど、見るとドキっとするぐらいかわいかった。

「えっ、どんなおまじない?」

「私の水を操る魔法を使えるようにしてあげるわ。どんなふうに水を操るか想像してホイッスルを吹くだけで魔法を使えるの。これが私からのプレゼントよ《命の水は清く流れる》」

 水色の輝きがホイッスルを包み込む。丸い部分に水のマークが浮かび上がり、色が白から水色へと変わっていった。

 変化を遂げたホイッスルを指でつまんで、まじまじと眺める。すごい。本当に魔法がかかちゃった。

「ただし注意しなきゃいけないことが二つあるの」

 ウンディーネはグーを出すと、まず人差し指を立てる。

「一つ目。何でもいいから水が関わっていること。水以外の物は操れないわ」

「そうだね。ウンディーネも水しか使えないし。わかった。二つ目は?」

 ウンディーネは苦笑いをしながら中指を立てた。ちょっと機嫌が悪い?

「二つ目は時間ね。魔法を使うにはチカラが必要なの。一回使うとチカラがからになるから、次使うまで溜めなきゃいけないのよ」

「え? それじゃあ、どうやって溜めるの? わたし、溜め方なんてわからないよ」

 チカラを溜められなければ、魔法を使えるのは一回きりになる。急に不安になってきた。

「大丈夫よ。ホイッスルが勝手にチカラを溜めてくれるわ。でも、次使うまでに半日はかかるから気をつけてね」

「そっか。二度と使えないってことはないんだね。でも半日は長いね。大丈夫かなぁ」

「不安もたくさんあると思うけど、行動すればきっとうまくいくわ。私が手助けできるのはここまで。後は春実ちゃん次第よ」

 ウンディーネはテストの日の先生のように、まじめな顔をする。ここからは自分でやらなきゃいけないんだって伝わってきた。

 大丈夫かなぁ。ひとりきりなんて。

(大丈夫ニャ。ボクもついてるニャ)

 不安になって下を向くと、シロが励ましてくれた。ひとりじゃないってだけで、心細さが消えていく。傍にいるだけで頼りになる猫だ。

「うん。わたしやるね」

「春実ちゃんなら大丈夫。向こうの方にまっすぐ行くと(まち)があるわ。ひとりでダメだったら、誰かに頼りなさい。まずは友達を作るといいわ」

 ウンディーネは森の奥を指さして、応援してくれた。

「わかったわ。友達は、できるか不安だけど、きっと何とかしてみせる」

「その意気よ……ごめんなさいね。この世界のことに巻き込んでしまって」

 最後の方が聞こえなかったから聞き直すと、ウンディーネはなんでもないわと微笑んだ。とても悲しそうな笑顔だった。

「私は湖から春実ちゃんを見守っているわ。じゃあね」

「ありがとうウンディーネ。じゃあね」

 お互いに手を振りあうと、湖からドバって水の柱が上がった。

(ニャ! また水がかかるニャ)

「大丈夫だよシロ。ウンディーネはそんなことしないって」

 水の柱が納まると、ウンディーネはいなくなった。今度は水が降ってきて、びしょ濡れになることもなかった。湖がシーンと静まる。

 消えちゃった。どんな有名なマジシャンでも水の上に立ったり、きれいに消えたりできないと思う。凄い人だったなぁ。

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