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春実と魔法のホイッスル  作者: 幽霊配達員
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ラクガキ踏んだら

学生時代に書いた課題の小説(子供向けのつもり)です。

データの山に積んでおくのももったいなく感じたので晒す事にしました。

「今日もいいお天気だね。シロ」

 前をテトテトと歩く猫と一緒にお散歩をする。

 つやつやと白い毛をしていて、細長いしっぽを丸めて立たせている。耳をピコピコさせると、振り向いてミャーって鳴いた。青くてつぶらな瞳は、愛らしさで(あふ)れている。

 小学四年生で十歳の春実(はるみ)は、飼い猫の返事に微笑(ほほえ)んだ。

 緩やかな風が吹くと、ボブカットの黒髪と黄緑色をしたワンピースのスカートがふわふわゆれる。首にはひもで括った、白いホイッスルがかけてある。小さい頃に死んだおばあちゃんから買ってもらったお気に入りだ。

「ふふっ、気持ちいい風。お散歩楽しいね。あれ?」

 前を見ると、道路が白いチョークでデカデカとラクガキされていた。道の端から端まで、大きな丸が描かれている。中には星とか三角とかがたくさん描いてあった。

 シロと一緒に立ち止まって、ジックリと見下ろす。

「誰のイタズラだろう。不思議な感じがして上手だけど、かわいくない。もっとハートマークとかあればかわいいのに。シロ、行こっか」

 家の塀によって、道路の隅っこを進む。だけどラクガキは、端っこを踏むといきなり光りだした。

「きゃ、なに?」

 ラクガキから出てくる光は、春実とシロを捕まえるように眩しく輝く。お空に浮かんでいる太陽よりも強烈(きょうれつ)だ。とても目を開けてなんていられない。

 シロの慌てるような鳴き声が何回も聞こえた。

「やだ、怖い。パパっ、ママっ。きゃあ!」

 光はより強く輝いて、春実たちを包みこんだ。


 気がつくと、木の枝や緑色の葉っぱを見上げていた。葉っぱの隙間からは、太陽の光と青空が見える。手をパーに開いて影を作った。

「んっ、眩しい。わたし、どうしちゃったんだろ?」

 ボーっとしていると、猫の鳴き声が聞こえた。身体を起こして振り向くと、つぶらな青い瞳を見上げて、テトテトとシロが歩いてきた。安心したようにミャーって鳴く。

「シロ。無事だったんだね。よかった。でもここ、どこだろう?」

 辺りはたくさんの木が立っていて、葉っぱがわさわさと空を隠している。隙間からシャワーみたいに細い光がいくつも差している。静かに深呼吸がしたくなる森の中だった。

「きれいな場所だけど、どこ?」

 大きく描かれていたラクガキも、さっきまでお散歩していた道路も、お家に帰る道すらもわからない。

 オロオロと見渡してみるけど、わからないことばかり。寂しさがコップに注ぎすぎた水のように、プクって膨らんでいるみたい。ちょっとでも衝撃を受けるとこぼれちゃうよ。

 シロが心配しないでというように、膝に顔をスリスリしてくれる。

「シロ。ありがとう」

 シロを抱き上げると、顔をスリスリし返してあげた。お日様のような匂いが悲しい気持ちを溶かしてくれているみたい。

 そうだよね。こんなところで立ち止まっていても何もできないもんね。

 目元にキッと力を入れてから、シロを平たい胸に抱いて立ち上がる。今はまだ小さいけれども、大人になったら絶対に大きくなっている。だから気にしない。

「でも、どっちに行こっか」

 森を見渡していると、シロがしっぽをピンと向けて鳴いた。耳もピコピコさせている。

「こっちが気になるの。じゃあ行ってみよっか」

 シロがシッポを指す方向に進む。森の中を歩いていたら、いきなりひらけた場所に出た。

 一面に広がるのは大きな湖だった。向こう側の地面が見えないくらいだ。水面はゆらゆらと穏やかで、光の反射で宝石のようにキラキラ輝いている。

「わぁ、きれい。泳いだら気持ちよさそう」

 近づいていくと、シロが嫌がるように暴れた。腕の中から出ていって湖から遠ざかる。

「ふふっ。シロは水が苦手だもんね。しょうがないよ」

 微笑みながら湖の傍でしゃがむと、両手で水をすくった。透明で冷たくて、飲んでみるといつもの水よりおいしかった。喉をツルンとすべる感じで、スッキリする。

 もう一口水を飲もうするんだけど、遠くから聞こえた小さな音が気になった。

「あれ、何か聞こえたような。シロは聞こえた」

 振り向くと、シロは耳としっぽをピンと立てて鳴いた。青い瞳は縦に細長くなっていて気合が入っている。

「誰かいるかもしれないし。行こっ」

 わたしは立ち上がると、目に力を入れて頷いた。シロと一緒に音がした方へと向かう。

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