79話 シリアス展開をぶっ壊そうとした結果…
タイトル通りです。一応上手く纏まったんじゃないかなぁ。でもかなり長くなりました。前編後編に分けた方が良かったかもしれない、と反省しています。朝から読むボリュームじゃないのでゆっくり読んでください。作者は寝ます。
「ねぇ、撫子ちゃん、ちょっと花屋に寄ってもいい?」
「はい、かまいませんよ」
私はイサギっちに謝るために百合さんについて行くことにした。その前に花屋に行ったんだけど、花を買うってことは…
「お墓参りですか?」
「おっ!よくわかったね。なかなかの観察眼だ!彼に勝るとも劣らないゾ!」
「えへへ…その彼とずっと一緒にいるので…」
「ふふふ、そうだったね。でも、ずっと一緒にいても分からないことは分からなかったでしょ?」
「はい…」
「落ち込むことはないよ、私はかれこれ10年以上の付き合いだけど、いまだに分からないことの方が多いもの」
百合さんすらわからないイサギっちの本当の顔…この先誰かが本当の彼を見つけることができるのかな…もし、本当のイサギっちを見つけることができたなら、その人が理解者ってことになるんだろうな…
「さ、着いたよ」
いつの間にか音女高校の上…音女城まで来ていた。音女城の近くにある墓地公園が目的地だ。ここは音女市が見渡せるほど高い場所にある。
「さてさて、いるかな?どうかな?」
誰のお墓参りに行くのかわからないのでとりあえず百合さんの後ろをついて行った。
「あっ!ほら、やっぱりいたよ」
お墓の前に花を持ってしゃがむ男の人がいた。何か独り言を言っているみたい。
「なぁ、師匠、僕、妹ができたよ。義理だけど…悪い奴らをとっちめてお姫様を悪の手先から取り返したってことだな!よくやった!なんて師匠なら言うんだろうな」
あはは、とお墓の前でから笑いしていた。それがなぜだか妙に心をチクッと刺した。
「百合さん、あのお墓って…」
「そうだよ、私の旦那の竜胆のお墓だよ。病気で亡くなったってことになってる」
病死っていうことになってる?表向きはってこと?
「じゃあ、本当の死因は…?」
「事故死…かな」
百合さんは本当の死因を明かすことを躊躇った。いや、死因を明かすことを躊躇ったんじゃない。きっとあのお墓の中には誰もいないんだと察することができた。
「当時幼かった白根を悲しませたくなくてね…それで少し嘘をついたの」
「イサギっちは毎年この時期にお墓参りに来てるんですか?」
「うーん、たぶん毎月来てるんじゃないかな、亡くなってからずっとここに」
月命日には必ず来ているってこと…?小学3年生の時に亡くなったって言ってたから6年間も?
「白根に潔くんの垢を煎じてのませたいくらいだよ。彼は旦那に恩義を感じているんだろうね、ずっとずっと」
「…イサギっち、たまに夜中にうなされてるんです。師匠、師匠って…」
イサギっちの普段の様子を教えると百合さんは腕を組んで俯いて少しの間、何かを考えていた。
「そういえば、イサギっちのお父さんってどこにいるんですか?1回も会った時ないですが…」
「潔くんのお父さんのことは私にもわからないんだ。ごめんね。勇も話したがらないし、聞いてもはぐらかされるんだよ」
「そうなんだ…」
わからない。結局何もわからなかった。知ろうとしたのに…無駄足だった。そう思った時だった。彼が涙声で竜胆さんに何か言っていた。
「師匠…俺…どうすればいいんだろう…最近みんなから好意を持たれているみたいなんだけど俺はみんなに何ができるだろう…」
みんなのことを助けてくれるからイサギっちは好かれているのに…
「ごめん、師匠。こんなことで泣くなんて俺らしくないよな。やっぱり家を出て良かったよ。ちょっと心残りはあるけどな」
その心残りっていったい…
「撫子ちゃん、声かけなくていいの?この機会を逃せばもう会えないかもよ?」
百合さんに声をかけられて本当の目的を思い出す。そうだ、謝るんだ。イサギっちに、おにいちゃんに!
「い、いさ…」
声を出そうとしたらおにいちゃんは再び墓の前にしゃがんで持っていた袋からなにかを取り出した。
「あっ、そうそう、これが本来の目的だったわ。師匠、肉好きだろ?今月は…じゃーん!国産和牛だ!あの世で焼いて食ってくれ!師匠はたぶん地獄行きだから火は使い放題だろうしな!閻魔様によろしく伝えといて!」
えっ?えぇぇぇぇぇぇ!?!?墓参りのお供え物に肉!?!?肉とか魚は供えちゃダメって常識でしょ!!ってそうじゃなくて!百合さん、なんとか言ってあげてよ!とツッコミたいけれどツッコめないので横にいる百合さんを見た。
「あはは…潔くん、またやってる…」
「また?」
「私ね、旦那がいなくなってから働き詰めになっちゃって白根とどこかに出かけたり遊んだりする時間が少なくなっちゃったの。その時に彼は白根の前に現れたの。白根にこう言ったらしいの。『お前が水野 白根か?今日から俺がお前の友達だ』って。その時に白根は潔くんに話しちゃったらしいの、私が忙しくて構っていられないってことを」
私は黙って百合さんの話を聞いていた。
「私も毎月お墓参りに来ているんだけど、たまたま見ちゃったのよ」
「何をですか?」
「潔くんが旦那の墓に魚や肉を置いてるところを見ちゃったの。それで声をかけちゃったの。それは間違ってるよって。そしたらね」
『そんなことわかってるよ。俺はその中にいる人に肉や魚をあげたんじゃない。俺はただ友達とその家族に幸せになってほしいだけだよ』って。
「あぁ、優しくてあたたかい子だなって、そう思ったの。だから私は彼に個人的に恩返しがしたくて陰ながら応援してるの」
その話を聞いた後、私はすぐに声をかけた。
「イサギっち…いや、おにいちゃん!!」
おにいちゃんは私たちの存在に最初から気づいてたみたいだった。いつもの呼び方で呼んだ時、昨日の張り詰めた雰囲気だったのが、別の呼び方で呼んだ時にすぐに綻ぶのが感じ取れた。
「あぁ、いたのか、撫子、それに百合さんも」
白々しい…最初から気づいてたくせに。
「おにいちゃん、わたし、謝りたくて…ごめんなさ…」
まだ言いかけだった。言わせてほしかった。元を辿れば私のせいなのに。それなのに…抱きしめられて頭をポンポンと軽く撫でられた。
「撫子、俺が悪かったんだ。ごめんな。お前は謝らなくていい。ちょっと…無神経だったな」
「私の方こそ…ごめんなさい…おにいちゃん…」
「泣くなよ、女の子だろ?」
それはさすがに意味がわからない。「泣くなよ、男だろ?」というセリフなら意味が通るかもしれない。ただ昨今は特にSNSでは性の話題に敏感なため「泣くなよ、男だろ?」というセリフすらも炎上対象になりかねない。けれど、やっぱりわからない。男の子でも女の子でもどちらでもなくても泣いてもいいと思う。
「なんで、泣いてもいいじゃん、別に」
つい言い返してしまった。今、和解できるチャンスだったのに、また、自分で潰しちゃった…
「そうじゃなくてさ、俺はおにいちゃんだから撫子の涙は見たくないってことだよ」
あぁ…ほんとに、優しい。ほんとに、あたたかい。私の居場所。
「ごめんなさい、ありがとう、大好きだよ、おにいちゃん」
「俺も大好きだよ、撫子」
恋人じゃなくてもいい、死ぬまで一緒じゃなくていい。高望みはしません。だから、今だけは、今この時間だけは、私に独り占めさせてください、神様。
がちで疲れました…(小声)
労ってください、かみしゃま…
ブクマ、ありがとう、かみしゃま…
次話は一応12時投稿予定です。




