49話 何歳になってもイベント前夜はワクワクして眠れない 前編
時系列は体育祭前日です。
ガヤガヤ、ザワザワと体育館は賑やかで楽しげな空気に包まれていた。時間になると疚無校長がステージ上に登壇した。
「んんっ、おはよう!諸君!明日はいよいよ体育祭だ!」
先程までの喧騒はなくなり教師を含めた生徒全員がステージ上に目をやる。
「それでは今年のスローガンを発表しよう!生徒会!頼む!」
生徒会役員は横長の模造紙を広げた。
『フリーダム』
「今年のスローガンはこれに決定した!」
「「「…………」」」
この時、体育館にいた教師、生徒全員が思った。もしかしたら校長も思っていたかもしれない。
「毎年これじゃね?」と。
「それでは解散!」
「えっ、終わり?」と。
~1年D組にて~
「梅ノ木先生、潔くんは明日来るのでしょうか?」
「来ると思うわよ、休むとは聞いていないからね」
「ほっ…それならよかったです」
「皆、心配してるのね、疚無くんのこと」
「先生!私たちが学校に来るようになったのは潔くんがいるからです!」
「潔くんがいなかったら正直来る意味ないよね〜」
「先生の前でそれ言う?あはは」
立花 葵は我慢ならなかった。自分の経験を踏まえてもこれだけは許せなかった。
「ねぇ!そういうのやめない?」
「どういう意味?立花さん」
「皆は潔くんが学校に来なくなった理由知ってる?」
「さぁ、体調不良じゃないの?」
「周りからあんなに笑われてたのに次の日から机にも下駄箱にも手紙が入ってたからだよ!」
立花 葵は無意識に拳を握って叫んでいた。
「そりゃ男も女も魅力的なものや人に寄りたくなるものでしょ?」
「葵さんだってナンパから助けてくれた人が潔くんってわかって前まで逃げてたのに近づくようになったじゃん」
「そ、それは…謝りたくて…!」
「結局謝れたん?」
「…っ!謝れ…なかったけど…」
「謝れなくて口も聞いてもらえないのに、なんで潔くんのこと知ってるの?」
「葵が1番近づいてるんじゃないの?」
「白根…!?」
1番の親友、白根が虚ろな目で葵を見ながらボソリと呟いた。
「私が学校長に近づくことを禁じられてることを知ってすぐに近づいたの?私、言ったよね、潔に近づかないでって」
「近づいてないよ…もう遅かったんだから…」
「なんて?」
「もういいっ!勝手にすればいいじゃない!でもこれだけは覚えていてほしい。潔くんは手のひらを返されることが1番気持ち悪いって言ってた。それに彼はこの高校に入ってからずっと覚悟の証を持ち歩いていた」
「なにそれー」「どうせ半端な覚悟だって」「葵、取り繕わなくていいよ」
「…私は入学直後に見たよ、潔くんが入学式のあと教室で退学届を書いてるところ」
「なっ…」「どういう意味!?」
「グズマ先生が決闘を始めた時彼は周りを見てたよ、他の生徒が巻き込まれないように。だから万が一のためにC組の撫子ちゃんに校長先生を呼んでくるように頼んだと思う。校長先生が来るまでは自分がボロボロになってでも時間を稼ごうとした…」
つい先刻まで葵批判ムードだった教室は静寂に包まれ全員が葵の話に耳を傾けていた。
「でも撫子ちゃんが戻ってきて手を出された時に彼は本来の力でその場を解決した…というよりも、解決せざるを得なかったんだろうね」
「じゃあ、潔くんが常にメガネをかけて一人称を偽ってたのって…」
「あんなギャップなんて誰もが魅了されるものじゃない?男性恐怖症になった私ですら心惹かれる瞬間だったもん。でも、あの時近づいてわかった…あぁ、もう何もかも遅いんだって。向日葵は早めにわかってたみたいだけど、私はあんなに拒絶してしまった。私はもう遅いの。だけどみんなは違う。言いたいことははっきり言えば伝わると思う」
「でも、せめて、拒絶してごめん。私と向日葵を助けてくれてありがとうって言いたかった…!」
―ガラッ
突然教室のドアが開き誰もが目を向けた。そこに立っていたのは…半袖短パンでサングラスをかけ両手首に黒いリストバンドをした変人だった。
「ハァッ…ハァッ…ハァ…あれ?全員揃ってどうしたんだ?」
「「「!?!?!?」」」
「潔くん!?どうしてここに!?」
「休学してるんじゃなかったの!?」
「今まで何してたの!?」
全員が葵の周りからいなくなり潔の周りに集まってしまったが葵自身もポカーンと口を開けている。
残り2話で2章完結(予定)です。
次話0時に更新予定です。




