167話 イサギ、プチキレる!そしてブロンシュは…
ブチギレじゃなくてプチキレです。ガチギレじゃなくてプチキレです!
「どこかで見たりした?」
見たも何も今朝会ったばかりで…私の双子の弟が以前から標的にしていた人物で…まさか王子様の…イサギ様の妹君がジョーヌが拉致したナデシコという女性だったなんて。これは神の悪戯なのかそれとも私への罰なのか…いや、両方なのかもしれない。
「わ、私はその方を…」
どうしよう。どう答えよう。正直に話す?話してどうする?イサギ様を悲しませたくない。でも黙ったままでいたら私も彼もきっと苦しむ。でも幻滅されたくない。どうする…どうすれば…
「ローズ、その女性なら今朝顔を合わせたばかりじゃないか」
忘れてた!この場には私と彼以外にもいたんだった!
「もう忘れたのか?ローズ。やはり私の子供は不出来だ。学習時間を見直さないといけないな」
「…そうでしたか。今朝会ったばかりだったんですね…」
イサギは一瞬ローズを見てため息をついた。
「はぁ…」
「せっかく答えてやったのにその態度はなんだ!まったくこれだから平民は…!」
やめて、お父様!もう余計なことをしないで!そう言えたらどんなによかったか。機嫌を損ねたお父様を宥める術を私は知らなかった。だけど今1番機嫌が悪いのはお父様よりも彼であることは明確だ。
「もし俺の妹が見つかったらヴィヨレさんたちにお礼をしなければなりません」
「それは捜査協力をしたことになるから当然のことだな!」
違う。お父様はわかってない。イサギ様のお礼というのは…さっきの路地裏の男たちにしたようなことだ。でも言及されるのはきっとナデシコさんのことだけじゃないだろう…私やジョーヌ、お父様が虐め続けてきたブロンシュのことだってすぐにバレる。
いつの間にか額に大粒の汗をかいていたことに気づかないほど私は焦り追い詰められていた。
「ローズ?どうした?大丈夫か?」
イサギ様に突然声をかけられて体が少し跳ねた。彼は私の身を案じてくれたのかもしれないが感謝する余裕がなかった。
「いっ、イサギ様…わ、私は…」
「うん?」
「わ、わたくし、は…」
はぁはぁと軽い過呼吸を起こしてしまった。
「おい?大丈夫か?」
イサギはローズの体を自分に凭れさせて優しく声をかけたが過呼吸は止まらなかった。
…彼の声が遠く感じる。
「貴様ッ!私の娘に触るな!」
「あ゛?」
イサギは上目遣いでヴィヨレを威嚇し怯ませた。
「っ!な、な、なにをする!」
「病院に連れていく。あんたは帰れ。」
「ふざけるな!貴様は私の娘を拉致するつもりか!」
「違うな」
「何が違うというのだ!」
「さっきから不出来だの完璧だのってあんたは子供を何だと思ってんだ?あんたみたいな親にローズは預けられない。今晩はこっちで面倒を見る。明日あんたが泊まる宿にローズを送っていくからそれでいいだろ」
「な、な、な、なにを馬鹿なことを!これは立派な犯罪だぞ!」
「モンペに犯罪者呼ばわりされたくないね。勝手に通報でもなんでもすればいいじゃねぇか」
「きー!貴様!あとで痛い目に遭っても知らんからな!せいぜい夜道には気をつけるんだな!」
「あんたもな」
「むきー!!!!」
まったく…最初の仏国紳士はどこに行ってしまったのやら。あれじゃあ駄々をこねる子供と何ら変わらないじゃないか。
「ローズ、無理させてごめんな。今日はゆっくり休め」
「はぁ、はぁ、イサギ…様…ごめん、なさ…」
たぶんこの子が撫子の行方を知っている。となると犯人はウイエ家の長男か次女か…母親と長女は恐らくシロだ。それとここまで精神的に追い詰められるということは余罪がある可能性が高いな。そして、ローズ自身が罪を認識して追い詰められてんのにあんの仏国エセ紳士は…!
だぁーーー!!腸が煮えくり返るわ!!
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「すみません、髪が黄色い160cmくらいの海外にいそうな男の子を見ませんでしたか?」
「うーん、見てないなぁ」
「そうですか…お時間をくれてありがとうございました」
ブロンシュはジョーヌの企みを阻止すべく様々な人に聞いて探し回っていた。時刻は19時を過ぎていた。季節は初夏、この時間帯でもまだまだ明るいが人通りは少なくなってきた。
「今日はもうダメかも…一刻も早くあの女の子を助けないといけないのに…あの人に聞いてダメだったら今日はもう帰ろう」
ブロンシュは学生服を着た女子生徒に声をかけた。
「すみません、髪が黄色い海外にいそうな男の子を探しているのですがどこかで見ませんでしたか?」
「あー、その人なら見ましたよ」
「ほ、ほんとですか!?どこにいましたか!?」
女子生徒は目尻を上げて微笑んだ。
「よかったら案内しましょうか?」
「是非お願いします!あぁ、よかった。これであの子を助け出せる…」
案内された場所は人気のない倉庫群だった。
「あの、本当にここに入って行ったんですか?」
「はい。ほら、そこにいるじゃないですか」
「え、どこ……っ!?」
突然背後から殴られたブロンシュは意識を失い倒れた。
「やっぱり来たね。助かったよ、シロネ」
「この人が2人目の標的?」
「ああ、コイツはここに捨てていくけどね」
「あんたって最低ね」
「褒め言葉をありがとう。さてさて、このゴミを入れる場所がないからナデシコには少し我慢してもらおうかな」
最近悪役多くない…?