162話 あの時の女性です、そうあの時のです。
もう気づいてる人はいると思いますがあの時の人です。3.5章に出た人です。
私の名前はブロンシュ。一応ウイエ家の次女である。先日、故郷を離れて音女市に越してきたばかり。故郷を離れると聞いた時は正直嬉しかった。私はこの外見のせいで虐められることが多かったから…
でも、事は上手く進まなかった。進むはずがなかった。私は先に音女市に行くようにお父様に言われた。4人姉弟の中で1番私を嫌っている末弟のジョーヌの面倒を見るようにと。
お父様は知らない…私が虐められていることを。お父様は知らない…私の醜い容姿を広め石を投げつけるようにさせたのはジョーヌであることを。お父様は知らない…三女のローズが彼と組んでいることを。
―お父様は知らない…彼の愚行と天罰を。
「―シュ」
「―ブロンシュ!聞いているのか!」
「は、はい!申し訳ありません!」
「全くどうして私の子供はこんなにも不出来なんだ!」
今日もお父様は不機嫌だった。いつもいつも不機嫌で顔色を伺いながら話すのはもううんざりだ。でも機嫌を損ねたら…きっと住むところを失ってしまうだろう。
「あら?それは私も含みまして?お父様」
可愛らしくとぼけるのは三女のローズ。もしも私が強ければ「当然でしょう!」とツッコんでいただろう。ジョーヌの悪行に加担しているのは彼女なのだから。
「ブロンシュ…何かあったの?」
優しく問い掛けてくれるのはブルーお母様。お母様だけが私の救い、癒しだった。
「お母様…心配させてしまってごめんなさい…私は大丈夫だから…」
「本当に?何かあったらすぐに言うのよ?」
「はい…ありがとうございます…」
何かあった時に言ったところで何も解決しないのを私は知っている。お母様に助けを求めたところでお母様はその場しのぎの優しい言葉をかけてくれるだけ。それはもちろんありがたい。ないよりはあったほうがいい。だけどその場、その時だけだ。時間が経つにつれてどんどん辛くなっていく。
つい先日のことだ。新しく住む街の朝日が見たいと思い、弟の目をかいくぐって1人で山の上まで歩いて行った。弟に見つかろうが見つからなかろうが散々な目に遭うというのはわかっていたから、これは私の小さな抵抗だった。でもその小さな抵抗をしたおかげで大きな成果を得ることができた。
『ふふっ、ここまで来ればジョーヌも来れないでしょう!たまには1人で行動したいからね!っと、そろそろ見えてくるかしら?』
山の上で朝日を独り占めできる!そう思った。だけど、それは叶わなかった。
『誰かいる…この街の人かしら…?』
身長は高いけど腕も脚もほっそりとしていてまるで女性のモデルが理想とするような体型をした男性だった。彼も故郷の人々と同じような反応をするのだろうか。
『あら?先約がいたのね』
勇気を持って話しかけてみた。話しかけたつもりだったんだけど少し鼻につくような挑発的な声のかけ方になってしまった。
『しろ…』
あーあ、やっぱりこの人も同じ…そう思った。
『あっ…ごめん。悪気があったわけじゃなくて。その、綺麗だなって』
綺麗…初めて言われた。それが咄嗟に取り繕った言葉じゃないっていうのはすぐにわかった。なぜなら彼が真っ赤になって照れていたから。
『あなた、名前は?』
『イサギ』
『イサギ…私の名前は―』
彼をもっと知りたいと思ってしまった。そこで欲張ってしまった私が悪かったのだろうか、悪魔はすぐそこまでやってきていた。
『おーい!』
後ろからジョーヌの声がした。イサギくんを巻き込む訳にはいかない。
『またどこかで!』
名前は伝えられなかったけどこの街に住んでいるなら彼と話す機会は必ずある。この容姿を綺麗と言ってくれた彼にもう一度会いたい。
「イサギくん…今、あなたはどこにいるの?」
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「潔くん!君はネオスタを知っているかい?」
「ねおすた?なにそれ」
「ネオスタキログラムという写真投稿アプリケーションのことだよ!」
「初耳だな。それがどうしたんだ?」
「私と君の愛の証をネオスタに載せてもいいかい?」
「炎上して唐草家と疚無家が共倒れしてもいいならいいんじゃないか?」
「ふっ!その時は駆け落ちしようじゃないか!」
「たぶん両家の当主に崖から落とされると思うぞ」
「君と死ねるなんて本望だよ!」
「ダメだ、この人…何を言っても諦めてくれねぇ…」
※この物語は完全フィクションの作り話なので人種差別だのなんだのなんて野暮なことは言わないでください。しっかり言葉を選んで書いているので安心して読んでいただけたらと思います。難しいことは考えずに頭を空っぽにして楽しんで頂けたら幸いです。それでも嫌な気持ちになった時はすぐに読むのをやめてください。
次話の投稿が少し遅れます。もうしばらくお待ちくださいませ。