148話 決まり手はバインダービンタ
瑠璃視点です。
今、潔くんは私になんと言った…?ありがとうと言ったのか?聞き間違いか?
「すまない、もう一度言ってくれないだろうか?」
「何回も言いますよ!今回は助かりました!ありがとうございました!」
今度は助かったと言ったぞ!どういうことだ?私のことが嫌いになったんじゃなかったのか!?
「ちょっと待ってくれ。私は君に謝りに来たんだぞ」
「俺、瑠璃先輩になんかされましたっけ?」
したじゃないか!2時間前くらいのことだぞ!潔くんは鶏並の記憶力なのか?
「ほら。バインダーで思い切り…」
「ああ。それですか」
なんだか淡白な反応だ。
「それが決め手だったんです。ありがとうございました」
何の決め手だ!
「そ、それで入院するくらいの大怪我だったんだろう?」
「んー、怪我という表現が合ってるのかどうかわかりませんが…そもそも桔梗先生は大袈裟なんですよ」
さっきから潔くんは何の話をしているんだ?殴られたところが重症なら大袈裟もなにもないだろう。
「たかだか虫歯1本あっただけなのに大袈裟ですよね」
「は?むし…ば…?」
顎を骨折したとかじゃなくて…?
「はい。瑠璃先輩があの時殴ってくれなかったら一生気づきませんでしたよ」
虫歯なら私が殴らなくてもすぐに気づいていただろう!いや、そうじゃなくて!
「ほ、本当に虫歯なのか!?嘘ついてるんじゃないか!?」
「嘘つきたいくらい情けない話ですが、この歳で虫歯が見つかりました…笑ってもいいですよ…」
「あ、あははは…」
…笑える。そんな偶然があるのか…
「瑠璃先輩があの時『顔も見たくない』って言ってくれたのはそういう事だったんですね」
「そ、その、さっきはすまなかった!私は君に酷いことを…!」
「顔も見たくないくらい腫れているから早く病院へ行けって意味だったんですね」
「えっ、いや、ちがっ…」
「違うんですか?でも俺は瑠璃先輩が理由もなく人に暴力を振るうとは思えませんけどね」
「その…言い訳に聞こえるかもしれないが弁明させてほしい」
言うんだ。恥ずかしいけど…私は謝りに来たのだから。
「嫉妬してしまったんだ…」
「何にですか?」
「その…弥勒先生が羨ましくて…一緒にふ、風呂に入ったり寝たりしてるって聞いて、いてもたってもいられなくて…」
顔から火が出てる気がする。
「先輩…」
潔くん、怒ってるよな…
「わ、私のことを殴ってもらっていい!だから学校は…!」
「何言ってるんですか?先輩のことを殴るのなんて嫌ですよ。俺は痛いことをするのもされるのも本当は苦手なんですからね。体育祭という一大イベントを利用して事件を起こしてしまいましたがあれが自分の中では最初で最後の咎だと思ってます。それに俺も先輩に謝りたいんです」
「な、なにを?」
「瑠璃先輩だけじゃなく3年生全員に謝りたいんです。今年で卒業するのに大切な行事を俺がめちゃくちゃにしてしまってすみませんでした」
イサギは瑠璃に頭を下げた。
「い、潔くん…それはもう過ぎたことじゃないか。それに君はみんなを守ってくれただろう?」
「それは結果論です!」
「それなら君は後悔しているのかい?」
「他にもやりようはあったかもしれません。だけど俺は大切な義妹を守れたから結果的には後悔していません!」
「なら、それでいいじゃないか」
「瑠璃先輩がそう言ってくれるなら俺からはもう何もないです…」
でも、君はずっと1人で悩んでたんだな。その気持ちだけでも嬉しいよ。
「話を戻しますけど、今度から殴るなら俺じゃなくて弥勒姉のことを殴ってください。いくらでも殴ってくれていいんで」
「それこそダメだろう!?彼女は一応教師だろう!」
「一応ですから大丈夫ですよ。あとさっき何か言いかけませんでしたか?学校がなんとかって」
「そうだ!私に出来ることがあるならなんでもする!だから学校を辞めないでくれ!」
「…何の話ですか?学校は辞めませんよ」
「へ?でも弥勒先生が…」
「あの人の言ってることはほとんど嘘だから間に受けてたら死にますよ?」
「…………」
「俺から母さん…校長に言っておきますか?」
「…………よろしく頼む」
やっと話が噛み合いました。まぁ、イサギは噛めないんですけどね!←ん?