144話 すれ違う2人 前編
前編は瑠璃視点です。
潔くんと弥勒先生の関係をはっきりさせる。そうすることで私の初恋はまだ終わってないと確信が持てる!よし、完璧だ!半ば自分を納得させながら生徒指導室に向かった。
ふぅ…き、緊張する。生徒総会の前でもこんなに緊張することはないのに。えぇい、ままよ!私は頬を両手で叩き気合いを入れて生徒指導室の扉を開けた。
―ガラッ
「失礼する!」
「zzz…」
「潔くん!遅れてすまなかった!」
「zzz…」
「では、話をしようではない…か…」
返事がないが大丈夫なのか…?
「zzz…」
「潔くん?」
「zzz…」
え?立ったまま寝てる?いや、死んでる?微かに寝息が聞こえるような…私は緊張しているのになぜ彼は緊張感を持っていないのだ!理不尽だ!
「起きたまえ!!!」
「わー。びっくりしたー」
なんという棒読み…少し腹が立つな。
「君、最初から起きてただろう」
「いや、ぐっすりでしたよ。それで瑠璃先輩がどうしてここに?」
「呼び出したのは私なのだが…聞いていなかったのかい?」
「覚えてないですね。誰に呼び出されても応じる以外の選択肢がないですし呼んだ人なんていちいち覚えないです」
確かに潔くんは体育祭以降いろんな生徒に呼び出されているらしいが…どんな要件で呼び出されているかなんて簡単に予想できるが。それもあって呼び出す相手なんて都度覚える必要を感じなくなってしまったのだろう。
「む…それもそうか」
「それで今日はどうしたんですか?」
「うむ。今日君を呼んだのは他でもない。君と弥勒先生の関係についてはっきりさせておきたいのだよ」
「…それって瑠璃先輩に関係あるんですか?」
くっ…さすがに鋭いな。だがしっかりとした理由も考えてきてある。本来権力をこのように使うのは良いことではないのだが…
「私は風紀委員長だからな。学校の風紀を乱すのはいくら君や君の身内だったとしても見過ごすことはできないんだ」
「へぇ。そうなんですか」
「うむ。まぁ、答えられる範囲でいいから教えてほしい」
「そう…ですねぇ、弥勒先生は従姉妹なので関係としては普通の家族みたいな感じですかね」
「ほう。普通の家族のような関係、と」
「昨日から一緒に住んでるんですけど、普通にご飯を食べたり…」
な、なんだと!?聞き捨てならない!
「ま、待て!一緒に住んでいるのかい?」
「まぁ、家族は一緒に住むものでしょ?」
た、確かにそうか…?だが、彼は家族と離れて暮らしているはず…だが、家族という括りで考えると確かにそうだな…
「う、うむ。まぁ、家族という関係なら…そうだな」
「あとは一緒にお風呂入ったり…」
「ひゅ、ひゅろ!?」
ふ、ふろ!?(訳)
「俺は嫌がったんですけど、昨日は勝手に入ってきてもう困りましたよ。あと夜中は布団に入ってきたりとか…はぁ、せっかくの義妹とのレストタイムが…おっと口が滑ってしまいました。えへへ」
こ、混浴!?あの豊満な体の女性と!?それに夜這い…だと…?ゆ、許せん。潔くん、君は大嘘つきだったのだな…何が家族だ。家族の範疇をとっくに超えているではないか…!
「ぐっ…!!」
「瑠璃先輩…その気持ち、めっちゃわかります」
このように言われたことで私の堪忍袋の緒は切れてしまい…
「君にわかるわけがないだろう!このバカ!」
緒が切れた時の勢いのまま彼の顔面を思い切り手に持っていたバインダーでぶん殴ってしまった。
「いっ…!?」
彼は殴られた頬を抑え本気で痛がっていたようだ。丈夫な体の彼も痛がる素振りを見せることがあるらしい。
「出ていきたまえ!君の顔なんて見たくもない!」
そして激情に駆られた私は酷い言葉を彼にぶつけてしまったのだった。
「っ…!そ、そうですか…すみませんでした。失礼しました」
潔くんの頬には涙のようなものが流れていたのを彼が退室する間際に私は見て声をかけようとしたが、何を言えばいいのか分からなかった。
「はぁ…どうしていつもこうなってしまうんだろう…」
生徒指導室に残った私はため息をついて先程の行いを猛省していた。
―ガラッ
「おつかれー、瑠璃ちゃん」
「弥勒先生…」
「イッサとの話は終わったのん?」
「ええ、まあ…」
「何か歯切れが悪いけど、何かあった?」
「じ、実は…」
「あら。へえ。風紀委員長が生徒に制裁を下したってことね」
「制裁」なんてまだまだ生温い言い方だ。私がしたのは一方的な暴力行為。私は自ら風紀を乱したのだ。
「挙句の果てに顔も見たくない、ね」
「うっ…は、はい…」
「でもちょうどよかったんじゃない?」
「何が、ですか?」
嫌な予感がした。背筋が凍る。私は取り返しのつかないことをしたんじゃないかと質問の答えを返される前にそう予感した。
「イッサ、学校辞めるから」
「えっ………」
後編は同じ内容ですが、イサギ視点で書いています。続けてお読みください。