143話 兄は流刑、弟は永久追放
学校から永久追放されたらこの小説は詰みです。
詰みということはそういうことです。
タイトルだけ見るとざまぁ系の異世界小説みたいですね…
1時間前に遡…らない。そんなに遡ったら朝のHRまで戻ってしまう。コホン、気を取り直して遡ること10分。
志倉先生は1年D組の生徒たちにこのような指示を出した。
「そ、それでは、じ、実験をするので、各自…グループを組んで…」
理科実験棟の化学室には大きなテーブルが窓側と廊下側に6つずつあり1つのテーブルに6人着席している(尚、クラス全体の人数は35人で今日は1人欠席していた)。出席番号が後ろの方であるイサギは窓側1番後ろのテーブルについていた。のだが…
「えっと…ど、どうして、みんな、ここに集まるのかな?」
「それはもちろんイサギくんとグループワークしたいからです!」
「そうよ!普段はオンライン勢だし!」
そうだそうだと騒ぎ立てるクラスメイト、気持ちはわからないでもないが…いや、全くわからないから同情できないんだけどあんまり騒ぐと先生に怒られる気がする。
「あ、あの…皆さん…時間が無いので早く…」
「えーと、じゃあ、俺が移動するよ」
「じゃあ、私も」
「ボクも」「アタイも」「アチキも」
俺が移動すると全員が後ろをぞろぞろとついて歩いてきた。正直気持ち悪い。
「あ、あの、いい加減に…」
「じゃんけんで決めようよ」
「言いっこなしね!」
「さーいしょーはー」
「い、いい加減にしてくださいっ…!」
その低身長で下手したら生徒と間違われそうな体のどこからそんなデカい声が出るんだと思ってしまうくらい大きな声が化学室に響いた。
「や、疚無 潔くん、あなたは…授業の邪魔なので…学校に来ないで…ください…」
…ん?えっ、あっ、ふーん。えっ、俺が悪いのか?いやよくよく考えれば俺が悪いのかもしれん。俺が移動せずに黙っていたら先生が何かしらの判断を下していたのかもしれないし。俺が勝手に動いたからか。そうか。それなら、しかたない。しかたないのか?もうわからん。今は黙って従おう。
「………えーっと、わっ………かりました」
自分で自分の腹を殴り、表に出てきそうなものを無理矢理押さえ込みつつも微妙に納得がいかないような返事をしてしまった。
「じゃ、じゃあ、俺はこれで…」
頭の中はごちゃごちゃしていた。突然の追放宣告。
「俺は何をしたんだ?これはまさか…」
俺は化学の後、教室で皆を待つのも気まずかったし気を使わせると思ったのでとりあえず安息の地に向かうことにした。
「失礼しまーす」
「あら、イサギくん。昨日の今日だけど…どうかした?体調悪いの?」
あぁ、この癒される雰囲気…今のカオスな頭を一瞬で整理整頓してくれる牡丹先生の声…まさに女神!
「実はかくかくしかじかで…」
「あらあら、それはまぁ。放課後は忙しくなりそうだわ」
俺の処罰を吟味するために先生たちを残業させてしまう羽目になるなんて…申し訳ない…残業代は俺のポケットマネーから…いや、足りないか。
「あー、そういえば、放課後に呼び出されてたんだった…はぁ、億劫だなぁ」
話す内容が目に見えているからこそ億劫なのだ。
「サボっちゃえば?」
先生…!それは教師として有るまじき発言!言うにしてももう少しオブラートに包んで言った方がいいのでは…!
「いや、一応行きますよ。俺に問題があるので俺が解決すれば全部丸く収まる…はずなんですよ」
そうだ。もっと事前に対策できたことなんだ。きっとそうなんだ。
「本当にそうなの?イサギくんはもっと周りを頼った方がいいわよ」
「あはは…これまでもかなり頼ってる方なんですけどね…」
俺はこの学校に入学するまでも体育祭の時も周りを頼ってばかりだ。つまるところ、俺は他人のことをとやかく言えるほど強くも偉くもない物理的には強いが精神的には脆弱な男子高校生なんだ。
「…聞いたわよ。昨日も上でトラブルを解決したんでしょ?」
「解決だなんて大袈裟ですよ。昨日のMVPは瑠璃先輩です。彼女がいなかったら状況はかなり変わってましたから」
「そうなの?」
「はい。瑠璃先輩が偶々そこにいてくれて助かりました」
「偶々じゃない気もするけど…」
「そうだ。トラブルを起こした加害者が瑠璃先輩に何か言っていたので後でカウンセリングを行ってあげてほしいです」
「そう、わかったわ。君が言うなら必要なことね」
君が言うなら…というのは俺は事件やトラブルの事後処理として被害者のカウンセリングを促している、言わばアドバイザーのような立ち位置を確立しているという意味だ。この立場を利用することで音女市民のうつ病患者や引きこもりの割合を確実に減らすことができている…ただ、これは俺にとってはオマケに過ぎなかった。俺は姐さんの負担を減らしたいだけだったのだから。
「とりあえず放課後まで寝てていいですか?」
「いいわよ。君は成績優秀だし。問題ないわ」
よしっ!心の中でガッツポーズする俺、昨晩はいろいろあって眠れなかったからぐっすり眠れる環境は非常にありがたい。心配して来る生徒がいなければいいのだが。
「昼も起こさなくていいので。放課後に起こしていただきたいです」
「りょ〜」
かるっ!急に軽くないですか!?
「お見舞いに来る生徒はどうする?」
「…お任せします。俺が強く言うことはできないので…」
「合点承知之助!」
先生、それ死語です。
―女神、現代の言葉を知らず。
本当に詰んでしまうのか…?
イサギは作者をそういう意味で楽にしてしまうのか…!?
次話は前編と後編で分けてほぼ同時に投稿しようと考えているので執筆に時間がかかってます。もう少しお待ちください。