115話 エピローグ:夏原 詩
温泉旅行編 夏原先生視点での最終話です。
最後らへんの甘々展開に注目です。
私は今…とても気まずい状況におかれている。イサギくんが隣で梅ノ木先輩にバックハグをしている。すごく羨ましい…私にもしてほしい…そんなことを一瞬考えたけれど、今回に限ってはしかたないことだと思う。
午後10時に消灯してちょうど日付が変わる頃だった。先輩が魘され始めた。
『助けて…やめて…』
聞いてるだけで胸が苦しくなった。そのあとの言葉で彼はアクションを起こした。
『生徒に手を出さないで』
この言葉を聞いた彼は梅ノ木先輩に後ろから抱きついた。私は仰向けで寝ていたけれど薄ら目をあけて耳をすまして彼が先輩の耳元で何を呟いていたのかを聞いていた。先輩が啜り泣く声は聞こえてきたけれど結局何を話してるのかは聞き取ることができなかった。
私は先輩が泣きやんでからイサギくんを背にするように寝返りをうったら腰に腕を回される感覚があった。
「起きてたの気づいてますよ」
なんでバレたんだろう?という疑問よりも先に、なんで私にまでハグしてくれるの…いや、するの?という疑問が浮かんだのは当然の反応だったと思う。けれど私にその2つの疑問が浮かぶことなんて彼にはお見通しだった。
「バレバレですよ。夏原先生が羨ましがってるのも、梅ノ木先生に何かしてあげられないか探っていたのも」
「梅ノ木先生が魘されてるのに、羨ましいって理由だけでイサギくんにハグしてほしいなんて言えませんよ」
「別に良いんじゃないですか?この旅行は先生たちの心の疲れを落とすためのものです。それに今回のことも体育祭のことも俺が引き起こしたことなんです。だから今くらいは生徒に、俺に甘えてください」
「わか…った…」
いつもみたいに丁寧語で返そうかと思ったけれど来週からまた普段通り学校が始まると思うと肩の荷を少しだけ彼に預けたくなった。
「もうちょっと近づいてくれる…?」
「いいですよ」
私は一人っ子だけど、兄がいたらこんな感じなのかなと思いながら彼に甘えてみた。意外にも彼はいつもの憎まれ口を叩かずに願望を受け入れてくれた。
「あったかい…」
「次、学校で会う時は生徒と教師ですから。でも、また3人でどこか行くのもいいですね」
「今度は2人じゃ…だめ…?」
「あはは。いいですよ。どこ行きます?」
「じゃあ、水族館とか…」
「いいですね。俺、水族館が大好きなんです。海の中ってひんやりしてて落ち着くので」
「じゃあ、今度は2人で水族館行こ?お泊まりでもいい?」
「いいですよ。プライベートは教師とか生徒とか関係ないですから」
「うん…ありがとね…」
イサギくんはまだ恋愛が何かを知らない。けれど年下はもちろん年上でも甘えたら甘やかしてくれるし受け入れてくれる。それが彼の素の姿なのか私にはわからない。わからないけれど、こんな時間をもっと彼と過ごしたくて、ついついデートの予約までしてしまった。私は意外にも欲張りなことがわかった。それでもいい。恋愛は欲張りじゃなければできないのだから。
「これからもよろしくね、イサギくん」
「こちらこそ。よろしくお願いします、詩先生」
ふふっ、寝落ち直前の名前呼びはちょっぴりズルいかな。
こういうストーリーがしっかり思いつくあたり、ラブコメだということを忘れてないようで自分自身安心しました。
温泉旅行編(物語内時間にて約4日)がめちゃくちゃ延びてしまってすみません。まだ最終話じゃないですが最終話はだいぶ近いです。
次話は夜に投稿予定です。