112話 2人の教師の最適解
梅ノ木先生視点です。
3人の男に拉致され暴行を加えられた私は先程イサギくんに助けられ怪我の手当てをするために部屋に運ばれていた。
「えっほ!ほいさ!えっほ!ほいさ!」
「ね、ねぇ、イサギくん。私を神輿か何かだと思ってるのかしら?」
「神輿以上に大切に扱ってますよ」
この子の事情は把握したけれどたまに心に響く言葉を言うので天然なのか分かってて言ってるのか判断がつかない。
「イサギくん、分かってて言ってるの?」
「何をですか?」
「やっぱり、なんでもない…」
天然…だと思う。
「さぁ、着きましたよ」
「あっ!先輩!大丈夫でしたか?」
「心配かけてごめんね、詩」
「今から梅ノ木先生を布団の上におろしますので服を脱いでください」
「「えっ!?」」
イサギくんたら大胆なんだから…後輩に見せつけながらなんて…倉庫で2人きりの方が楽しめそうだったんだけどなぁ…
「そ、それはいきなりすぎないかしら…軽傷とはいえ怪我人と…その…しちゃうのはどうなのかしら?」
「何言ってるんすか。怪我の具合を見るんですよ」
…忘れてた。こういうの疎いんだっけ。
「もう!イサギくんは部屋を出て!」
「え、えぇ…わかりました…」
イサギくんは詩に部屋を追い出されてしまった…残念…
「全くもう!彼には養護教諭の葉 牡丹先生の教育が必要みたいです!」
「あはは…そうみたいね…」
おっとり保健医の牡丹先生に任せたら何を仕込まれるか分かったものじゃないから内心共感できなかった。
「ごめんなさい、迷惑かけちゃって」
「迷惑だなんて!不可抗力ですよ!」
「それはそうなんだけど…それでイサギくんと和解できたの?」
「できました!梅ノ木先輩は?」
「私も和解できたわ」
「よかったぁ…」
本当によかった。彼との関わりを絶たれることが1番嫌だったから。自業自得ではあるけれど、彼もあんな風に言ってくれたし、腐っても高校生ね。しっかり自分のことを理解しているみたい。
―ガラッ
「終わりました?」
「イサギくん!ノックくらいしてください!」
「あぁ、すみません。でも俺が風呂入ってる時、先生達はノックせずに入ってきたような…」
「それはそれ!これはこれ!です!」
「なるほど、これが理不尽というやつですね!メモしておきます!メモして母に伝えます!」
「ごめんなさい、私が悪かったです」
「あっはっは、冗談ですよ。2割くらいは」
「8割本気じゃないですか!」
この平和なやり取りが出来るなんて…私は幸せ者だわ。
「夏原先生はお元気そうでよかったです。梅ノ木先生は大丈夫そうですか?」
「ええ、まぁ、応急処置はしてもらったから」
「それならおふたりともお風呂にどうぞ。俺は野暮用を済ませてくるので」
「野暮用って?」
「なんかもう1人、俺に謝りたいって人がいるみたいなんですよ」
「なるほどね」
愛さんのことね。それなら納得…
「俺は身に覚えがないんですけどね」
えっ!?愛さんには怒ってなかったの!?そういえばイサギくんが怒った時、あの場に愛さんはいなかった…じゃあ、愛さんは何を謝るの?何に負い目を感じているの?もしかして…やっぱり友達以上の関係を求めてるって言いたいの!?
「詩、まずいわ」
「えっ、どうしたんですか?」
「またライバルが増えるかもしれないわ」
「…先輩、そのことなんですけど、私、自分のことしか考えてないなって思ってこれからイサギくんのことをもっと知るために生徒と教師の関係をしばらく続けようと思ってるんです。だから、恋愛はまだいいかなって…」
「そうだったのね…あなたはあなたなりに考えていたのね…」
後輩は私よりも大人だった。私は初めての恋愛感情に振り回されて誰がライバルだの、先を越されるだのって1人で馬鹿みたい…イサギくんは馴れ馴れしくてもいいって言ってたけど後輩が1歩身を引くなら先輩の私もそうするべきなのかしら…
「でも、先輩は私と同じスタートラインに立つ必要はないと思います。これが私なので。烏滸がましいことを言いますが、先輩は先輩なりにイサギくんを支えてほしいです。彼は何かと危なっかしいので…」
「そう…ね。そうよね。ありがとう、そうするわ」
後輩は離れた所から彼を支える。私は馴れ馴れしい、とまでいかなくとも近くで彼を、生徒を支えよう。それが今私にできる最善だと思うから。
なんとか2人の教師編はハッピーエンドに導けたかな?
最後はあの子でこの章はフィナーレ!?
次話は夕方か夜か…
※後で活動報告を更新する予定です。更新後は読んでいただけるとありがたいです。