111話 ラストアタックはこの人が。
イサギ視点です。
俺は囚われていた梅ノ木先生を背中に乗せて下山していた。
「先生、乗り心地はどうですか?」
「んぅ…いい感じ…」
「眠そうですね。寝ててもいいんですよ」
「ダメよ。イサギくんが報復するなんて言うから止めないと」
これから俺はアイツらに先生を殴り蹴ったぶんだけやり返すつもりだ。そのつもりなんだが…
「考えてみたんですけど、俺が報復しなくてもやってくれる人がいるなぁって」
「えっ?それって誰?」
「だから、俺がわざわざ手を下す必要はなさそうです。良かったですね、先生」
「ねぇ、聞いてる?その人、誰なの?」
「とっとと帰りますか!」
「ねぇ、答えてよ!不安になるじゃない!」
「この旅館で1番偉い人ですよ」
「それって紅花さん?あの人って戦えるの?」
「あははははっ!こんな時にジョーク言えるなんて先生、結構元気ですね」
「いやいや!ジョークじゃないから!」
「まぁ、旅館に戻ればわかりますよ」
男たちは全員麻縄で縛ったけどあの大男は逃げることができただろうな。ガタイが良すぎてキツく結べなかったから。一応確認してから行くか。
「この小屋は?」
「この中に大男がいたんですよ」
「大男…!?待って…イサギくん…わた、わたし、だ、ダメかも…」
「アイツにやられたんですね…?」
「う、うん、こわくて、いたくて…」
先生の体と声は酷く震えていた。俺は先生を背中から一旦おろして抱き締めた。
「先生、大丈夫だから。助けるのが遅くなって本当にごめんなさい」
「…次、こんなことがあったら…また助けに来てくれる…?」
「もちろん。どこにいようと俺が真っ先に駆けつけますよ」
「ありがとう…ありがとう…イサギくん…」
「…落ち着きましたか?」
「うん…ごめんね」
「謝らないといけないのは俺の方です。だからもう謝らないでください。それに感謝される方が嬉しいので」
「ふふっ、そうね、そうだよね。もう大丈夫だよ、ありがとう」
「それじゃ行きましょうか」
「うんっ」
俺は先生を背中に乗せて再び走った。2人の男を捕らえた場所を確認したがやはり姿はなかった。大男が2人を連れて逃げたみたいだ。
「イサギくん、重くない?」
「あはは、さすがの俺も女性にそんな事言っちゃいけないってわかりますよ。大丈夫ですよ、むしろ軽いくらいです」
まぁ、体育祭の時は光に遠慮なく「重かった」って言ったんですけどね…
「…ありがとう、イサギくん」
ギュッと後ろから抱き締める力が強くなった感じがした。早く明るいところへ、旅館に入らなければ不安感が増してしまう。
倉庫を出て20分が経ちようやく林を抜けた。旅館のロビーが見えてきた…何やら人が集まっているようだ。
「先生、着きましたよ」
「うん!」
「さぁ、報復の時間ですよ!」
「えっ?」
ロビーに入ると大男と他2人が薙刀を向けられて立ち尽くしていた。うち1人は手首を折られただけでなく戦意すら喪失していたため立ち上がれずにいた。
「くそっ!なんなんだよっ!あのイサギとかいう小僧!やりやがったな!」
「イサギくん、何かしたの?」
先生は背中に乗ったまま耳打ちをしてきた。くすぐったくて喘ぎそうになった。危なすぎる。
「いや、アイツが言ってるのはたぶん別件なので俺は関与してないですね」
俺は関与していない。関与したとすれば…相変わらず過保護な身内だ。
「ふふふふふ…潔くんには感謝ですねぇ。あなたがたを生かして帰すように言っておいて正解でしたわぁ。1人は戦う意思を折られているようですから、彼がやろうと思えば原型を留めていなかったでしょうねぇ…ふふふふふ」
「相変わらずおっかないですね」
「げっ!もう来やがった!」
「あらあら、おかえりなさいませ、潔くん。梅ノ木先生はご無事でしたか?」
「あー、そのことなんですけど、先生はその男に顔と腹を1回ずつ殴られたらしくて…」
こんなことを言えば紅花さんの不敵な笑顔がどう変わるかなんて容易に予想できるので俺は目を逸らしながら言った。
「あらあら…あらあらあら…あらあらあらあら…」
「処断は任せますので、あとは頼んます。俺は梅ノ木先生の手当てをしますのでこれにて失礼。何かあれば弟が近くにいますので呼べば来ると思います」
今回も後処理は弟に頼もう。ここに誘導したのもあいつだろうし。
「ふふふ、本当に私がやってしまっていいのですか?」
「…存分に」
「ふふふふふふふふふふふふふ…………」
過去一の「ふ」の多さだ。もう数えるのも面倒になるくらいだ。
「ねぇ、イサギくん、紅花さんは何をするつもりなの?」
「さ、さぁ、何をするんでしょうね…考えたら夜眠れませんよ。とりあえず早くここを離れましょう」
普段優しい人を怒らせたら怖いというのはよく聞く話だが、全くもってその通りだと思った。仏の顔も三度…女将の顔は何度までだったのだろうか…
旅館の神様・仏様は女将です。
次話は昼頃に投稿できたらいいなぁ。