105話 ちょっと温泉編、長すぎるかもしれない…(こんなつもりじゃなかったのに…)
微シリアス回です。
夏原先生視点です。
少し長めです。
※途中で長い空白がありますが場面切り替えのためにわざと長めに改行してます。
私は憂鬱だった。せっかくの旅行が、デートが、1日…も経たずに重苦しい空気に変わってしまうなんて思わなかったのだから。そもそもそんな空気にしたのは私なんだけども…
「はぁ…どうしよう…」
溜息をつきながら旅館の中を通っている水路を眺めていた。
「溜息をつくと幸せが逃げて行きますよ」
「逃げるどころかもう戻ってきてくれなさそう…って、え!?」
後ろから声をかけられたのに気づかず返答してしまったが声をかけてくれたのは件のイサギくんだった。これは幸せか不幸せか…まだ心の準備が出来てないのに!気まずいよ!
「どうしてここに?」
「どうしても何も俺も宿泊してるんですけどね」
「いや、そうじゃなくて…」
「旅館の中を歩いて回ったらダメなんですか?それともすれ違った時に挨拶を交わすことすら許されないんですか?」
相変わらず歳上にも物怖じしない小生意気な男の子だと思ったけど、そこもまた可愛い。
「あ、あの…」
「何か見つかったんですか?」
「えっと、あの、じ、自己紹介…!しない?」
「自己紹介?」
「イサギくん、入学式の後の自己紹介の時間、名前しか言わなかったでしょ?だからイサギくんのことがもっと知りたくて…」
「ああ、あの時ですか…あの時は緊張してましたからね。もう慣れましたけど。それで何が知りたいんですか?」
「えっと、えっとね…」
「大方俺の情報を引き出すために0からリスタートしようっていう魂胆ですよね。たぶん梅ノ木先生も同じことを考えてるはず」
「な、なんでわかったの?」
彼は鼻で笑い口角を少し上げた。
「だって、俺、先生にも生徒にも自分から話したことがないですから」
「どうして周りに事情を話さないの?話せばきっと理解はできなくても納得はしてくれるはずだよ。イサギくんが傷つかなくて済むのに…」
「まず、事情を話さない理由は聞かれないからです。聞かれないのに話し始めたら不幸アピールだと思われるかもしれないでしょ?」
「そんなことっ…!」
「ないとも言えないでしょ?」
「教師という立場上、曖昧なことは言えません…」
「あと、話しても理解してくれないし納得してくれないですよ」
「どうしてそう言い切れるの?」
この質問をした時、私はまた間違ってしまったと思った。この質問は私が1番してはいけない質問だった。と悟った直後、彼は大きく1歩前に出て私の胸ぐらを掴んだ。
「あんたがそれを言うんじゃねぇ!あんたが、あんたらに話して実際理解出来なかったじゃねぇか!!」
彼の怒号が館内に響き渡った。あの時と同じだ。体育祭の時のテロリスト達側に私は今立っている。
「あっ、あぁっ、ご、ごめ…」
「謝れば許されると思ってんのかよ!1晩寝れば忘れるとでも思ってんのかよ!!生徒を…俺を…バカにしてんじゃねぇよ…!もう顔も見たくない!」
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい…ごめんなさい…」
何度も謝った。彼のいつものような優しくて穏やかな目は鋭く冷たく人間を信じられない捨てられて動物のような…そんな目をしていた。
「嫌わ…ないで…」
ポツリと呟いたわつもりの一言が彼の耳に届いてしまった。それが彼へのトドメとなってしまった。
「…結局それかよ…失せろ、夏原 詩」
「うっ…うぇぇええん…うえええええん」
私は成人してから初めて悲しくて泣いてしまった…優しかった彼の、イサギくんの、初恋の人の背中を見ながら。
誰かが近づいてくる足音…いや、すり足が廊下から聞こえてくる。この旅館ですり足で歩く人は限られている。私の部屋に近づく人なんて1人しかいない。
「夏原先生…もう諦めた方がよろしいのではなくて?」
女将さんの言う通りだ。私が何を言っても逆効果。彼の機嫌を損ねてしまう。せっかくの楽しい旅行も、彼に近づくチャンスも自分でドブに捨ててしまう。それなら先輩に譲って私は引き下がった方がいい。
「女将さん…そうですね…大人しく引き下がり…」
「そういうところですよ」
「えっ…?」
「夏原先生はいつも自分のことばかり考えていますよね。潔くんはあなたのそういうところが嫌いなんですよ。『嫌わないでほしい』とか『デートを成功させたい』とか。潔くんは最初から好感度なんて気にしてないんです。そもそもこの旅行自体をデートだと考えているのはあなただけなんです。潔くんは『夏原先生と梅ノ木先生には体育祭で怖い目にあわせてしまったから心の疲れも落としてほしい』って言ってましたよ」
「えっ…イサギくんが…?そんなこと言ってたんですか…?」
「あら、いけない。つい口が滑ってしまいましたわぁ、ふふふ。こんなこと言ってたらまた潔くんに『格好がつかないからやめてください』なんて言われてしまいます」
そうだ…私はいつも自分勝手…自分のことばかり考えてた…対してイサギくんはいつも周りのことばかり考えてる。異常なくらい周りばかり気にして目を光らせている。たまには自分のことも気遣ってほしいって思ってしまうほどに。
「私は…なんて愚かな副担任なんでしょうか…」
「そうですね。あなたは私が見てきた教師の中で1番醜く愚かです」
そこまで言われるとさすがに傷つきます…
「これより後ろには下がりません。あなたはもう前にしか進めないのですから。これからのあなたにマイナスはつきません。つくとしたらプラスあるいはゼロのままでしょう。だからあなたに最後の機会を与えます。これが私があなたにできるラストチャンスです」
「ありがとうございます…!女将さん…!」
「ふふふ…良い生徒を持ちましたね。そもそも彼は昔から良い子なのですけども、ふふふ」
っ…!イサギくんはまだ歩み寄ろうとしてくれてる…だって、あの時、「失せろ」って言った時、彼の目には涙が浮かんでいたんだもの。
今すぐ彼に会いたい。会ってちゃんと全部謝りたい。
※温泉旅行始まってまだ2日目です。話数は忘れました。もはや数えていません。
※作者は文章力が拙く、区切るポイントがわからないため話数が長くなりがちです。
次話は昼過ぎの投稿予定です!