閑話⑩ 早起きは出会いの得?
今回はイサギ視点の閑話です。時系列は藍ちゃんとわかれた後です。
旅館に泊まり早2日目、本来なら1泊して今日帰る予定だったが友人や担任、副担任と気まずい関係のまま帰ることはできないため女将が気を利かせてくれた。というより、女将がイサギ一行を1泊で帰らせるつもりはなかったらしいのだが。
早朝に目が覚めた俺は毎朝のルーティンであるジョギングをしていた。整備された花壇を眺めながら走るのもなかなかいいものだ。そうだ、昨日の夕方に行った山頂に行ってみようかな。きっと朝日も綺麗だろうな。
「ふぅ…空気が澄んでて良いところだな…」
実家は虫しかいないから空気を楽しむ余裕なんてなかったんだよな…ここで少し休んでから戻ろうかな…
「あら?先約がいたのね」
お嬢様気質の話し方だな。面倒事には巻き込まないでくれよ…と内心本気で願いながら後ろを振り向いた。
「しろ…」
白く長い髪、白い肌、薄くグレーのかかった目…思わず口に出てしまった。
「あっ…ごめん。悪気があったわけじゃなくて。その、綺麗だなって」
本心だ。紛れもない心からの言葉だ。自分が他人に「綺麗」なんて言葉をかけるとは自分でも思わなかった。
「言われ慣れているから…うん、でも、ありがとう」
そう言って彼女は笑ってくれたが、俺は疑問に思った。
「言われ慣れてるって…どっちを?」
「えっ?」
「白いって言われ慣れてるのか、それとも綺麗って言われ慣れてるのか…」
「ふふっ、あなた、おもしろいのね。前者に決まっているでしょ?実際あなたもそう言ったじゃない」
「俺は両方言ったんだけどな。なんなら、しろ…って言ったけど言い切ってないから」
「ふふふっ…確かにね」
花壇を背景に朝日に照らされる白くて綺麗な女性。風にたなびく髪を手でよせて笑う顔が素敵だ。
「ねぇ、あなた、名前は?」
「イサギ」
「イサギ…覚えたわ。私の名前は…」
―おーい!
「あら、ごめんなさい。弟が呼んでるみたい。またどこかで会えたらゆっくり話しましょう、イサギくん」
「うん。じゃあ、またね…綺麗なお姉さん」
結局名前は聞けなかった。生まれた時からこの街に住んでいるけれどあのような女性は見た時がなかった。外から来た人だろうか。いずれにせよ、疚無家の人間である限り、また会わないなんてことはないんだろうな。
「それにしても…あれがアルビノというやつか…?」
不気味だ何だと騒ぐ奴らの気が知れないな。
「…綺麗だったな」
さて、腹も減ったし帰るか。
匂わせです。やってみたかったんです。連載前から考えていたキャラを少しだけ登場させてみました。
正式な登場はまだまだ先になりますが花言葉も含めて良いキャラクターだと思っています。
次話は昼頃までに投稿する予定です。