102話 小学4年生がラブコメに参戦するようです
まさかのあの子の視点です。
「んむぅ…あつい…」
今日は早めに起きちゃった。時計を見るとまだ4時だった。いつもはお母さんに7時くらいに起こしてもらうけど、なんだか暑くて重苦しくて目が覚めちゃった。
「ん…」
目を擦って隣を見るとお母さんが寝ていた。お母さんに抱きつかれていたから暑かったんだ。でも昨日の夜はイサギお兄ちゃんに抱っこしてもらいながら寝た気がする。
「お兄ちゃん…どこ…?」
私とお母さんが寝付いた頃に帰っちゃったのかな?それはイヤだな…ちゃんとお礼も言ってないし、お兄ちゃんともっと遊びたい。
イサギお兄ちゃんはほとんど荷物を持ってきてないから私の部屋の中に私物はない。浴衣はしっかり畳まれて部屋の隅に置いてあった。ケータイ電話は長テーブルの上に置かれたままだった。
「よかった…帰ってなくて…」
「んー…藍?おはよう。今日は早いのね」
お母さんが起きた。
「おはよう、お母さん。あのね、イサギお兄ちゃんがいないの」
「ふふ、潔くんがそんなに気に入ったのね。大丈夫よ。潔くんは庭園の方に行ったんじゃないかしら」
「わかった!行ってみる!」
「ふふふ、気をつけてね。朝ご飯までには戻ってくるのよ」
「はーい!」
「じゃあ、私は潔くんの香りを楽しみながらもうひと眠りしようかしら…ぐぅ…」
お母さんもイサギお兄ちゃんが大好きなんだ!イサギお兄ちゃんはいろんな人から好かれてるみたい!桃お姉さんも詩お姉さんも愛お姉ちゃんもイサギお兄ちゃんのことが大好きだし!モテモテ!
私は少し早足で庭園に向かった。泊まっているのがイサギお兄ちゃん達だけだからいつもは賑やかな厨房も落ち着いた雰囲気がする。
明石家の人だけが知ってる近道を使って行こうかな。旅館の裏口から外に出ると庭園まで近いんだよね。
誰かが走る音が聞こえる。裏口を出るとすぐにその人は私の前を通過していった。
「わっ!」
「あっ、ごめん。大丈夫だった?」
聞き覚えのある声。その人はサングラス付きの帽子のサングラスをクイッと帽子のツバに乗せて私の顔を覗き込んだ。
「イサギお兄ちゃん?」
「藍ちゃん、怪我ない?」
「うん。大丈夫。今何してるの?」
「ジョギングだよ。藍ちゃんは?」
「私は隣にイサギお兄ちゃんがいなくて不安になって探しに来たの」
「そっか。不安にさせてごめんね」
イサギお兄ちゃんが頭を撫でてくれた。とっても安心する。お父さんは全然帰ってこないけどイサギお兄ちゃんがお父さんでもいいかも。
「えへへ。もっと撫でて!」
「あはは、いいよ。よしよし」
「えへへ」
イサギお兄ちゃんは私の髪型が崩れないようにゆっくり撫でてくれた。わしゃわしゃされるのもいいけど優しく撫でられるのも気持ちいい。
「ねぇ、イサギお兄ちゃん」
「んー?どうした?」
「私のお父さんになって!」
「ぶっ!な、なんで?どうして急に?」
「だってお父さん、全然帰ってきてくれないし、頭撫でてくれないもん。帰ってきたらすぐにお馬さんになっちゃうし…」
「お馬さんになっちゃうのは君のお母さんのせいだと思うんだけど…」
「でもイサギお兄ちゃんは優しくてかっこよくて頭も撫でてくれるから!結婚できないならお父さんでもいいかなぁって」
「なるほどね。でも俺がお父さんになるってことは君のお母さんと結婚しなくちゃいけないんだよ?」
「うん!いいよ!だってさっき、お母さん、イサギお兄ちゃんの布団の匂い嗅いで寝てたもん!だからお母さんもイサギお兄ちゃんのこと、大好きだよ!」
「え゛っ…そ、そうなんだ…そ、それはそれで複雑な気持ちになるな…」
「しかも結婚したら毎日温泉に入れるし毎日美味しいもの食べられるよ!」
「あはははは、確かにそれは魅力的だなぁ。俺にはもったいないくらいだよ」
「でしょでしょ!?だから…!」
「でもね、俺は人を好きになりたい。好きになって結婚したい。人から言われて結婚するような人にはなりたくない。藍ちゃんの言いたいことはすごくわかるよ。藍ちゃんの気持ちもわかる。お父さんがいなくて寂しいんだよね。わかるよ。俺にもお父さんがいないから。頭を撫でてくれる人がいないからわかるよ」
イサギお兄ちゃんにもお父さんがいないんだ…頭わしゃわしゃしてくれる人も優しくなでなでしてくれる人もいないんだ…
「藍ちゃんはえらいなぁ」
「どうして?」
「周りに気を配れるなんて良い子だよ。お母さんやお姉ちゃんが寂しいのがわかるんだろ?だから俺のことをどうしても傍に置きたいんだろ?本当は自分のためとかじゃないんだろ?」
「どうして、わかるの?」
「わかるよ。俺は藍ちゃんのそういうところ、大好きだから」
「…っ!イサギお兄ちゃん!私、イサギお兄ちゃん以外を好きになれる自信ない!」
「あはは…それも困りものだなぁ…」
「だから…責任とってね、イサギお兄ちゃん!」
イサギお兄ちゃんは呆気に取られた顔をしたあとすぐに苦笑いをした。
「やれやれ…本当にどこで覚えたんだろうね、そんな言葉。小学4年生に言われるとやけに言葉に重みを感じるよ…」
私も年上の男の人を好きになるなんて思わなかったよ、イサギお兄ちゃん。
「そうだなぁ…藍ちゃんが高校に入学してからも俺への想いが褪せていなかったら考えてあげるよ。まぁ、その時、俺に好きな人がいなかったらだけどね」
「私は自信あるよ!」
「その自信、少し分けてほしいなぁ」
「だーめっ」
この自信は、この気持ちは私だけのものなんだから!
最近の小学生…マセてるなぁ…
※今更ながらキャラ設定(脳内イメージ図)
愛は右目が隠れていますが、藍は左目が隠れています。身長は愛と同じくらいなので将来的には愛より高くなるかもしれないです。おpもお尻も愛の方が当然大きいです。将来的には…あとはみなさんの妄想に任せます。
次話は午前中のうちに投稿する予定です