98話 イサギの最大の敵は…
久々の愛視点です。
なんとびっくり温泉旅行編が始まって10話目ですがまだ1日目です。黙って4章として始めればよかったのに…
「ところで愛…」
少し…いや、かなり異常な友情の誓いを立てたところで潔くんは困った顔をした。
「どうしたの?潔くん」
「…めっちゃ見られてるよ」
「えっ!?」
もう日が落ちたから誰も見てないと思っていた私はとても愚かだったろう。辺りを見回してみると担任と副担任が花壇からこちらを見ていた。
「恥ずかしい…」
「それは今更じゃないか?」
「潔くんは恥ずかしくないの!?」
「別に。何を恥ずかしがってるんだ?」
えぇ!?潔くんは一部の感情を失ってる気がする…!
「愛さん、イサギくん…おめでとう…」
「まさか告白する前に振られると思いませんでした…」
「ちょっ、ちょっと待ってください!先生方、何か勘違いしてますよ!!」
友情の誓いが異常すぎて2人とも勘違いしてる…というか、あれを見たら誰もがそう思うだろうな…私だってそう思うもの…
「私と潔くんは、つ、付き合ってません…!」
自分から付き合ってないなんて言いたくなかったけど誤解を解かないと2人とも引きずりそう…
「俺と愛は改めて友達になっただけだよ」
「えっ、お互いに、キ、キスしてたように見えたけど…」
「そうだけど…それがどうしたの?」
「どうしたのじゃないわよ!じゃあ、私と詩にもして!」
「えぇ…この大人、めんどくせぇ…」
潔くん、本気でめんどくさがってるけど、直接言うのは良くないよ…陰口も良くないけど…
「あ、あの…!私、実は…」
夏原先生が顔を赤くして小さく手を挙げた。
「今朝、イサギくんと、あの、しちゃって…」
「「えっ」」
「いつの間に?俺は身に覚えがないけど」
「う、詩!先輩を差し置いてどういうつもり!?」
梅ノ木先生のこの言葉は聞き捨てならなかった。生徒として、潔くんを好きな同士として。
「梅ノ木先生、恋愛に先輩とか上司とかないですよ。それを言っちゃうと先生を差し置いて生徒が恋愛するなっていう風にも言えちゃうんですよ?」
「うぅ…確かにそうね…ごめんなさい」
思いのほか、梅ノ木先生は落ち着いていた。すぐに引き下がってくれた。担任と険悪な関係にならずに済んでよかった。
「あ、あの、あれは事故だったんです」
どんな経緯だったかを夏原先生からざっくりと聞いた。
「確かに事故…ですね」
「それなら仕方ないけれど、でも、羨ましい…」
「あはは、桃はさっきから羨ましがってばかりだなぁ」
「元はと言えば君が魅力的なのが悪いんだよ!」
「えぇ、それって怒ってるの?褒めてるの?」
「どっちも!」
「どっちだよ…それで、桃もしてほしいの?」
「うぅ…してほしい…でもでも、不意打ちがいいの!」
「なるほど、不意打ちか。それなら得意分野だな。専売特許とも言える」
「潔くんが言うと別の意味に聞こえるよ…」
「とりあえず旅館に戻りませんか?まもなく夕食だと思いますし」
「それもそうだな。藍ちゃんにも会いたいし」
「私の妹に手を出さないでくださいね!」
「俺がいつ手を出したんだよ…」
潔くんは恥を知らないから誰にでもキスしちゃいそうで危なっかしいなぁ。あ、そういえば…
「そういえば、ファーストキスは誰にあげたんですか?」
「えっ、ファーストキスは私じゃないんですか?」
「待って!それ、気になる!!」
「えっ?撫子だよ?」
「「「詳しく教えて(ください)」」」
「はぁ…旅館に戻ったら話すよ…」
潔くんは天然女誑しだということが確定した瞬間でした。
「それで!どういうことなのかな!?イサギくん!返答次第によっては…!」
「桃…じゃなくて、梅ノ木先生、落ち着いてください」
旅館に戻ってから潔くんは呼び捨てとタメ口をやめて普段通り話すことにした。その方が丁寧な感じがするからかな?
「梅ノ木先生、生徒の前で骨を鳴らすのはどうかと思いますよ。傍から見たら尋問です」
「そうですよ、先輩。イサギくん、今までの所業を正直に話してくれたら悪いようにはしませんからね」
「とか言いつつ麻縄を持ってるのはなぜですか?夏原先生。そういう癖を持つのは勝手ですが、押し付けるのはどうかと思いますよ」
さすが潔くんです。噴火直前の先生2人を宥めると同時に煽りも忘れないという精神力、私も見習いたいものです。
「まぁ、要約するとですね、あれは撫子の聞き間違いだったんです。あの日の夕食は天ぷらだったんですけど『鱚にしてもいいか?』って聞いたつもりだったんです。でも撫子は『キスしてもいいか?』に聞こえたみたいでそっちを期待してたらしいんです。それで…」
本当に要約して話しているのか疑問に思ってしまうくらいグダグダと御託を並べていたので痺れを切らした私はつい口を挟んでしまった。
「それで心優しい潔くんはしょんぼり落ち込んでる撫子ちゃんを見ていられなかったからキスしたってことですね」
「そ、そう!よくわかってるな!」
「ふ〜ん」
「へぇ、潔くんはキスの価値を甘く見積もりすぎじゃないかな?」
「そんなに価値のあるものですか?」
「「「ある!!!」」」
これはさすがに聞き捨てならないとこの場にいる女性全員が思ったららしい。
「はぁ…さいですか…でも藍ちゃんにもされましたよ?」
「それは藍ちゃんも小学4年生にしてイサギくんに恋愛感情を持ったからでしょう」
「それにしては慎重性に欠けますけどね。姉の顔が見てみたい…」
「潔くん?そこは親の顔が見てみたい、でしょう?私の責任みたいに言わないでください」
「それもそうだな。姉も慎重性に欠けるから姉の顔を見ても同じだもんな」
この時、私の堪忍袋の緒が切れました。先程潔くんと友情の誓いを立てたばかりですが、さすがに怒りました。
「先生方、やってしまいませんか。私はもう限界です」
「そうね」「そうしましょうか」
「待て待て!ごめんって!ちょっ、なにを…!」
―うわあああああああああああああ
この後、イサギはめちゃくちゃ擽られてチビりかけた。
読者の方々の言いたいことを当ててしんぜよう。
「この終わり方、何回目?」でしょ?
読者が思ってることは作者も思っている!ということです。
「この主人公、隙あらばキスしてないか?」とも思っているでしょう。私も思います。
次話は12時~14時に投稿します!