表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
118/299

97話 少し異常で歪んだハッピーな仲直りエンド?

ハッピーエンドな仲直りじゃないです。ハッピーな仲直りエンドです。最後に?をつけたのは最後まで読めばわかります。

 一方その頃、桃と詩はイサギを探していた。


「先輩、イサギくんはいましたか?」


「こっちにはいなかったわ。部屋に戻るって言ってたのにどこに行ったのかしら…」


「あっ!細いお姉さんとちっちゃいお姉さん!」


 宿泊部屋の前で話していると藍が声をかけてきた。藍にとっては愛称なのかもしれないが、教師2人にとっては蔑称だったのがやはり気に食わなかった。


「藍ちゃん。私は桃。桃お姉さんって言えるかな?」


「私は詩だよ、藍ちゃん」


 ようやく名前がわかって嬉しかったのかニコッと笑って頷いた。


「桃お姉さん!詩お姉さん!」


「なんとか蔑称…いや別称を拡散されるのを防げたわ」


「先輩、ナイスです」


「イサギお兄ちゃんなら外に行っちゃったよ。たぶん1番上の高いところに行ったんじゃないかなぁ」


「えっ!?高いところ?」


「先輩、イサギくんに限ってありえないと思いたいですが、さっきの紅花さんの話を聞いた後だと最悪の事態が…」


『潔くんは精神的に弱い』という言葉を2人は思い出した。思い詰めて身投げ…なんてことがないとも限らなかった。


「はやく行きましょう!」


「藍ちゃん!教えてくれてありがとう!」


「うん!バイバイ!お姉さんたち!」




 午後4時、陽が傾き始めた頃、イサギは旅館のある場所のさらに高い場所にいた。


「おー、良い夕陽だなぁ…綺麗だ…びゅーてぃふる!」


 山頂で1人で騒ぐも空気は静かだった。


「誰もツッコんでくれないなんて寂しいなぁ…今度撫子と来ようかな…」


 木々や草花は微風に吹かれサワサワと揺れ、橙色の太陽は刻一刻と闇に沈んでいた。


(本当に静かな場所だな。ボケる余裕がない)


「俺はどうするべきだったんだろうか…俺はあの時確かに聞いたんだ。『助けて』って声を」


 心の声を言葉にして1人で悩むも答えは出ない。


(こういう時、相談する相手がいないのは本当に辛い。誰も教えてくれなかったし、何よりも人の心情は独学で勉強できないのが難儀だよな…)


「…友達…いなくなっちゃったな…」


 ぽつりと悲しげに呟いた。


「そんなことない!!」


 それは辺りも心も夕闇に包まれる瞬間のことだった。イサギは後ろを振り向いた。


「愛…じゃなくて、明石さん。どうしたの?」


「潔くん。私が悪いの!全部!」


「いや俺が自分勝手にしたことだから、明石さんが謝らなくてもいいんだよ?」


「違うの!私…妹に大切な友達を盗られたと思ったの…情けない話だけど、私、高校に入るまで…あの時、潔くんに話しかけられるまでお父さん以外の男性と話せなかったの」


「…そりゃ、また勝手なことをしたな…ごめんな」


「ありがとうって言いたかったの!!ずっとずっと言いたかった!でも言えなくて、挙句の果てに心配なんていらないなんて強がっちゃって、潔くんは私の声を聞き逃さなかったのに、私は潔くんの手を払い除けちゃって…」


「…手を払い除けられることなんて日常茶飯事だから、別にいいのに…律儀だね」


「さっき、お母さんから聞いたの。潔くん、私の入学費、払ってくれてたんでしょ?」


「…!なんだ、紅花さん、話しちゃったのか…話さないでほしかったなぁ…格好がつかないじゃないか…」


「入学前から潔くんは私のことを助けてくれてたのに、気づかなくてごめんなさい」


「知らないなら気づかないのは当然のことだろ?」


「でも、入学して初めての友達は潔くんだったの!私は昔から引っ込み思案で男の人に警戒心を持ってて…でも、潔くんは警戒する暇も与えてくれないほど積極的に話しかけてくれて…いつの間にか…好きになってたの」


 愛の前髪が風でたなびき、いつも隠れた目がイサギにはキラキラと輝いて見えた。それが先刻見たばかりの夕陽よりも美しかったのかイサギの顔が少し緩んだ。


「…潔くんの『好き』に恋愛感情がないのはわかってたことなのに私の方こそ勝手なことしてごめんなさい。私ともう一度友達になってくれませんか。私をもう一度名前で呼んでくれませんか…?」


「…実は俺も入学して初めての友達は君だった。白根に背中を押されて話しかけたのがきっかけなんだけど、ここまで仲良くなれると思わなかったんだ。それに君が縁を繋いでくれたんだ。だから君には感謝してる。こっちこそ友達になってくれるかな、()


「っ…!!」


 イサギが照れくさそうに名前で呼ぶと愛は涙を零し、声にならない声を出した。


「お、おい、泣くなよ…ど、どうすれば…」


「ふふ、あたふたする潔くん、かわいい…」


「泣いたり笑ったり、どっちかにしてほしいんだけどなぁ…」


「じゃあ、私を慰めてください。方法はお任せします」


「え、えぇ…そんな無茶苦茶な…でも、わかったよ、後で文句言うなよな」


「うん?わかりました。文句は言いません」


()()()()()()何も言うなよ」


 辺りはすでに闇に包まれ、1本の街灯が2人の顔を照らした。


「愛、今からすることには慰め友達としての誓いを立てるって意味があるけれど、それ以上もそれ以下もないからな」


 イサギは愛を自分の体に近付くように寄せ耳元で囁いた。


「愛、これからもよろしくな」


「っ…!こちらこそ…っ!?」


「よろしく」と愛は返そうとした。しかし、それは遮られた。言葉にすることはできなかった。物理的に口が塞がれたのだから。


「~~~~~!!」


 再び声にならない声を出そうとしたが今度は本当に声を出せなかった。傍から見れば告白が成功したカップルに見えるかもしれないが、あくまでこれは友情の証を示す()()()()()だった。


「潔くん…ずるいです。でも、そんな潔くんと友達になれて私は幸せです。私は友達以上の関係を望みません」


「それは、なんで?」


「だって、潔くんは()()()()()ですから!」


「ははっ、言えてるかもな。いや、自惚れとかじゃなく」


「だから、これからもよろしくお願いしますっ!」


「ああ…!?」


 今度はイサギの口が塞がれた。イサギの口を塞いだものが離れたあと、愛は自分の唇をペロリと舐めた。


「ふふっ、お返しです!やられっぱなしも癪なので!」


「やられた…」


 たった1本の街灯の下、灯りが照らすのは少し(いびつ)な友情だった。









「なにあれ…!!羨ましい…!!」


「イサギくん…今日だけで何回キスしたんでしょうか…」


 そんな2人の世界を、かたや羨望の目で、かたややるせない思いで見守る者がいたのだった。


作者も羨望の眼差しでイサギを見てましたとさ。


次話も何時に投稿できるかわかりませんがランダムな時間の投稿も楽しみに期待せずに待っていてください。一生投稿しないということはさすがにないので安心してください。最低1日1話は投稿しているので!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ