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第6話 行ってきます!

「ご同意ありがとうございます。これで転移準備の八割は完了です。つぎは……言語習得ですね。これをかじってください」


 ミラは、どこからともなくコンニャクのようなものを取り出すと、それを差し出してくる。


「は……い。いただきます」


 恐る恐るかじると、奥歯でゆっくりと咀嚼そしゃくする。


 味といい食感といい、どうやら本当にただのコンニャクみたいだ。


「おめでとうございます。これであなたも、異世界語ペラペラです!」


「はあ……」


「さて、準備も終了したことですし、そろそろ慧さんを異世界へ転送いたしますね」


「え!? とくて……」


「ご安心ください。今後、地球での慧さんの生活は全て、このサトくん人形がこなしてくれます。慧さんの記憶をコピペさせてもらいました」


「勝手に何やってるんですか!」


 そう言うミラの指先からは何やら蛍の光のような光の粒が次々と放出され、その右隣には俺にそっくりな等身大の人形が形づくられてゆく。


 もう何が来ても驚かない。


 今、俺の脳は完全に思考を停止しているようだ。


「アンシンしろ? 慧。慧のセ……イカツは。サトが……ひき……ツグ!」


 俺にそっくりな、というかどこからどう見ても星川慧その人である人形が、おぼつかないロボットのような動きで胸を叩く。


 その衝撃で、一本の棒切れのように後ろにぶっ倒れそうになるサトくん人形。


 まだ関節を上手く動かせていないようだ。


「おっとっと」


 ミラがあわてて背中を支えたので、サトくん人形は無事だ。


 なぜか見ていてかなり冷や冷やした。


「あリガとウ……ニラ……ファーム……」


「ミラです、ミラ・ファーム! 違う、ミラ・ファートム! 記憶をコピーするタイミングを間違ってしまったようですね」


 短時間で二度も名前を間違えられたミラは、サトくん人形に向かって声を荒らげる。


 ミラに視線を合わせたサトくん人形は、おもむろにサムズアップして「ミラ」とつぶやく。


 自分に自分を任せるなんてかなり複雑で、かなり不安だ。


「まあ良いでしょう。動きも話し方も、あと数時間もすれば流暢りゅうちょうになるはずです。慧さんは心置き無く、異世界生活に専念なされてください。慧さんが一人、サトくん人形に置きかわったところで誰も気づかないでしょうし、この世界には何の影響も及ばないでしょう」


 ……なんだかさりげなくけなされている気がするのだが。


 それよりも、さっきからずっと気になっていることがあったんだった。


「特典……とかはないんですか?」


「規約にも書いておりましたように、特典は慧さんが規約に同意された時点で転移先に配置されております」


「なかなか聞かないシステムですね」


「以前は事前にお渡ししていたのですが、ある時点を境に、特典を手渡されるなり『やっぱり行きたくない』と駄々をこね始める人が続出しまして、ちょうど昨晩、頑張ってシステムの変更を行ったのです」


 そんなに肝っ玉の小さいやつもいるのか。


 せっかく貰った悠々自適無双生活への切符を自ら手放すなんて、なんてもったいないやつなんだ。


 考えただけで身震いがする。


「それで、特典は選べたりしないんですか?」


「はい、規約にのっとって選択不可となっております」


「そうなんですか」


 どの神器に当たるかは運勝負ってことらしい。


 まあ、どの神器に当たろうと、それが常軌を逸した強さをほこっていることに違いは無いのだから身構える必要もないだろう。


「それでは、こちらの扉を開けば転移先の世界に繋がっております」


 ミラは腰を上げ、入ってきた時と同じドアが一枚立っているところまで数歩移動すると、それを手で示した。


 どこにでもいけそうなドアだ。


 俺は、異世界へ続く一歩一歩を踏みしめながら、ドアに近づく。


 ノブに手をかけ、時計回りにひねりながら押し出す。


「それではミラ。行ってきます。必ず世界を救って……」


 ――ドンッ!


 と背中に強い衝撃を感じた。


「はいっ! 行ってらっしゃーい」


 早口でそう言うと同時、ミラが俺の背中を力強く蹴飛ばしたのだった。


「うぐっ」


 バランスを崩して地面に突っ伏す。


 ――バタン


 背後から、ドアが勢いよく閉まる音が聞こえてくる。


「痛たたた……ってミラ!」


 立ち上がると急いでさっき出てきたドアを開いてミラを探すが、中にミラの姿が見当たらないどころか、さっきまでいた部屋ではなくなっている。

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