Reboot―英雄覚醒―
見切り発車です。
よければ読んでいってくださると嬉しいです!
少女は言った。
『他人の為に己が傷付くことを良しとする世界なんて間違ってる』
少女は言った。
『オレ達が持つ力は誰かの物じゃない。オレ達がオレ達の願いを叶える為に使う物だ。それを平気で、当然の如く享受できるなんて思うな』
少女は言った。
『命を削る価値のある世界にするというのなら、オレがいくらだって戦ってやる。救ってやる』
少女の姿になった彼が言った。
『だから、これ以上は年端もいかない女の子にその身を賭して戦うことを強要するんじゃねぇ』
かつて、世界を救った孤独な少年が、言った。
『世界を救うか否かはテメェらに任せる。もし、これ以上世界が腐っていくというのなら、それは今を存続させたオレの罪だ。』
『そん時は、オレが責任を持って、世界を終わらせる』
『だから』
『だから、頼む。もう、コイツらの痛々しい顔を、絶望に染まった姿を、死に様を、見せないでくれ』
一人ぼっちの少年は、咆えた。
もう誰にも苦しんでほしくない、と。
◈ ◊ ◈ ◊ ◈ ◊ ◈ ◊ ◈ ◊ ◈ ◊ ◈ ◊ ◈
そこは、つい数年前までは最先端の都市として国中に知られていた場所だった。
しかし今では荒れ果てたビル群が立ち並ぶのみ。世界の荒廃の進行を色濃く表している。
そんな廃れた風景の中に、明らかに異質な色彩を纏う人影が二つ。
『魔獣の出現予測時間まであと3分です!二人とも、準備はいい?』
「こちら討魔機関防衛隊所属、位階四、フレリア、準備万端です!」
「同じく、アクエス、問題ありません」
一つは赤を基調とした、どこか西洋の鎧を思わせる衣服でその身を包む少女だった。短い茶髪を跳ねさせているその少女の手は、身長程もある大剣をがっしりと掴み、既に臨戦態勢となっている。
もう一方は青や水色が複雑な模様を描くローブのような物を羽織り、長い杖を構える少女だった。黒の長髪をたなびかせるその少女はの持つ杖の先端には蒼玉のように輝く球体が嵌め込まれており、こちらも準備は整っている様子だ。
『予測時間まであと1分……えっ!?ま、魔力反応感知!しかもすごく強い!?二人ともっ、注――――――――』
「「えっ!?」」
目前の空間が突如として割れた。
まるで硝子の破片が舞うようにキラキラと光を反射する空間の破片の向こうは、入ることを躊躇わせるほどに暗く広がる闇。そして、
「お、多過ぎる…!」
「こんなの二人で対処できる数じゃない!司令部!司令部!応答を!増援を送ってください!司令部!」
いくら通信を送っても反応はなく、ほどなくして二人は戦闘を開始した。少女達の厳しい現実を目前に置いてて。
「はあっ、はぁっ……!ちくしょうっ……!」
「まだ、死にたく、はっ、ないっ……!」
数分後、二人は満身創痍で魔獣に包囲されていた。
いくら倒しても延々と湧き続ける魔獣に対処が追いつかなくなった結果だった。
原因はわかっていた。あの開いたままの割れ目を塞げていないから。けれど二人にはそれを塞ぐ方法がなかった。
ボロボロになった体で、力ももう出せない。
死の恐怖はもうすぐそこまで迫っていた。
やがて魔獣の一体が二人に近づいて、前脚を振り上げる。
二人は互いの手を握りあったまま目をきつく閉じた。
恐怖から逃れるための無意識の行動。だから、わからなかった。直後に何が起きたのかが。
「うるっせええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッッッッッ!!!?!?」
何かが吹き飛んだような音が響き、二人は突風に襲われて蹲る。
目を開くと、そこには魔獣の代わりに黒い少女が立っていた。
二人を取り囲んでいた魔獣達が標的を急に現れた新たな脅威に変え、二人を無視して一斉に飛びかかった。
「だめっ!?」
「逃げてっ!」
叫んでも既に遅かった。魔獣の凶牙が少女に届き、鮮血を撒き散らす――――
かに思われた。
魔獣達が少女の一歩手前で止まっている。
一拍後、魔獣に変化が訪れた。
すっ、と音もなくすべての魔獣の体が上下に両断された。
倒れる魔獣の向こう側、いつの間にか手にしていた片刃の剣を肩に担いで、少女が振り返った。
「無事かい、お二人さん?」
これが、謎の少女と今の世界の初邂逅となった。
まだ、誰も知らない。
この少女が、世界を大きく動かすことを。