依頼受領
「―――ェン、………レン!」
混濁した意識の中、遠くで私を呼ぶような声で意識を引き戻される。
「………ッ!!」
慌てて跳ね起き、すぐさま構えを取る私。
気絶していた!?今の状況は!?
散々お爺ちゃんに叩き込まれていた「意識を取り戻してからの状況確認」の為に
私は周囲を見回す。
………そこには涙目で座ってるフィル、心配そうな表情で私を眺めてるリーゼ
そしていつもの笑顔のままのマリスが立っていた。
「おっはよ~レンお姉ちゃん、覚醒したてでそこまで動けるなんて流石だねぇ」
いつも通りのマリスの口調、それを聞いたせいか
混乱気味だった頭が急速に冷えて行き、冷静さを取り戻していく。
「………あ、そうか」
私は何が起こったかを思い出し、緊張を解き構えを崩す。
切り札を切ったにも拘らずロテールさんに特性を見破られた後
その弱点を突かれ見事に突進からの横薙ぎを叩き込まれたんだっけ。
………見事なまでの完敗だった、現状出来る切り札を切ってもなお
あの人には歯牙にもかけられなかったって事だね。
元々勝敗を競ってた訳でも無いし、そもそも私自身強さに
渇望してる訳じゃない、それなのに………やっぱりちょっと悔しい。
「う~ん、やっぱり現状ではこんなものかなぁ」
その僅かな悔しさをごまかす為と、仲間達に心配を掛けさせない為
わざとらしい迄の明るい声を上げてひとりごちる。
………そういえば奇麗に横薙ぎを食らったのに痛みが全くない
訓練用の模造剣だったとは言えあの勢いで振りぬかれたら肋骨の1本も
持っていかれても不思議じゃないんだけど………寸止めしてくれたのかな?
それならそれで気絶した私が情けなさすぎるんだけど………
「………申し訳ない、君の力量が想像以上で加減が出来なかった
謝罪させて欲しい」
声をした方へ向くと、少し離れた位置に申し訳無さそうな
顔をしたロテールさんと少し怒ってる表情のレティツィアが並んで立っており
私の姿を確認するなりロテールさんは頭を下げる。
「………無事は保証する、とはよく言えましたね」
その言葉を聞いたフィルがロテールさんをキッと睨みつける。
………普段神聖な雰囲気のフィルがそんな表情をすると迫力あるね
何か宗教裁判を行ってるみたいだ。
「レンがの了承したとはいえ、貴方のせいでレンが傷ついたのは事実です
これはどうあっても許し難い事柄です」
フィルの容赦ない言葉に一切反論する事なく頭を下げ続けるロテールさん。
あ~…フィルが完全に怒ってるなぁ、私の事だと異様に
沸点低いんだよねぇフィルって、と言うか結局斬撃は振りぬかれてたんだね。
「あっはっは、それはもう見事な斬られっぷりだったよレンお姉ちゃん
何せ肋骨数本持っていかれた上に完全に延びちゃってからね
呼んでも反応が無かったからフィルミールお姉ちゃんが勘違いして
半狂乱で治療してたから傷はきれいさっぱり治ってると思うけどね~」
あらま、そこまで見事に斬られてたのか私。
まぁ無事を保証するっと言っといてそんな事になったら
フィルが怒るのも分かる気がするけどロテールさんを責めるのも
あまり筋が通ってるとは言えないね、となればフィルを止めないと。
「フィル、ロテール卿を責めちゃ駄目だよ
実戦形式だったんだからいくら気を付けてても
怪我するのは当たり前なんだよ」
「レン………だからって」
私の言葉にフィルは悲しそうな眼をして私を見る。
「それに始める前に『私がいくら怪我してもフィルが治してくれる』って言って
私が無茶しただけなんだからロテール卿は悪くないよ
怒るんだったらフィルを心配させた私を怒らないと」
フィルは危険だからと止めていたのに強行したのは私だ、なら
フィルの怒りを受け止めなければいけないのは私なんだよね。
「………」
私の言葉を聞いたフィルは目を伏せ黙り込む。
続けて私は頭を下げ続けるロテール卿に向き
「ロテール卿も私に謝罪する必要はありません
これは私の鍛錬不足による結果です、なので全面的な非は私にあります
ご心配をおかけして申し訳ありません」
そう言って頭を下げる。
建前っぽく聞こえるかもしれないけどこれは本心だ、鍛練中の怪我なんて
鍛錬不足な自分が悪い、とお爺ちゃんに常日頃から言われてきた事だ。
なので私自身はロテールさんを責める気持ちは一切無いんだよね。
頭を上げ、ロテールさんを見ると一瞬だけ驚いたような顔をしたものの
直ぐに温和な笑みを浮かべ
「そう言って貰えると助かるよ、そして改めて君の力量は予想外だった
何故かレベルは0としか見えないけど、恐らく1対1で君を打倒する人間は
早々いないだろう
………まぁ、モンスター相手ではかなり苦戦を強いられそうだけどね」
ロテールさんは満足そうに笑いながら私にそう評価する。
確かに私の戦い方は「人間特化」だ、しかも武器が持てないから
どうあっても弱点を把握していない上にスペックで上回る
相手との戦いは不利になる。
たった二合の攻防でそこまで見抜くこの人は流石だね。
まぁそれが社交辞令とも限らないんだけど………
「その割にはロテール卿は私を簡単にあしらいましたけどね」
若干の皮肉を込めてロテールさんに返す。
「ははは、けど傍から見るほど余裕があった訳でもないよ
………ほら」
そう言ってロテールさんは剣を握っていた掌を見せる。
そこにはじっとりとかなりの汗をかいており、若干ふやけていた。
「正直言って最後の一合は冷や汗ものだったよ
僕が勝てたのは武器の有り無しと経験の差に過ぎないよ
………あの状態の君が武器を持っていたとしたら、多分こんな簡単には
行かなかったろうね」
そうなのだ、多数のフェイントで相手を幻惑、硬直させる「偽薊」だけど
その効果が最大に生きるのは一撃必殺の手段を持ってる時なんだよね。
勿論今の私でも人間ならば急所を狙って一撃で倒せるかもしれないけど
武器を持った相手に相打ちを狙われるとこちらが不利になる
可能性の方が高いんだよね、だから私の「偽薊」は
今のままじゃ不完全って事なんだよ。
とは言え武器が持てない以上どうしようもないんだけどね。
「至高騎士にそこまで言って頂けるとは、どうやら私も
まんざらではないみたいですね」
私が苦笑しながら言うとロテールさんも合わせて苦笑する。
「………兎も角、君の力は十分に見せて貰った
レティ、彼女達に依頼しようと思うけど、異論はあるかな?」
「私も異論は無いわ、そもそもヒュージモススライムを
どうにかできる女性冒険者パーティだもの
力を試すまでも無くこれ以上の適任者はいないわね」
至高騎士の2人は互い頷き合うとこちらに向かい
「それでは、君達に至高騎士第2位、ロテール=グレヴィアジック
第3位、レティツィア=ブルグネティから帝国に誘拐された自国民の救出と
可能であればその原因の排除を依頼したい。
依頼は冒険者ギルド連盟を通じて数日中に通達されるので
速やかに依頼を遂行する事を希望する。
なお、事の規模から大掛かりな組織の犯行の可能性が高い為、十分に留意して欲しい
………何か質問はあるかな?」
ロテールさんは格式ばった口調で依頼内容を大まかに言うと、私達に質問を促す。
「んじゃ1つ質問、至高騎士の方達はこの件の首謀者に
心当たりはあったりするのかな~?
流石に首謀者が帝国の皇帝、とかだったらいくら何でも依頼を受ける事は
出来ないからね~」
すかさずマリスが質問する。
まぁ確かにそうだ、国そのものに喧嘩を売る程私達は無謀じゃない。
「その辺りは安心していいよ、少なくとも皇帝やその近辺の人物だと
流石の僕らも手の出しようがない、そうなるともう戦争レベルの
話になって来るからね
それに現皇帝は聖教に先立って人身売買を禁止している、そんな人物が
その様な事を率先してやっているとは考えづらいね。
流石にリスクとリターンがかみ合ってなさすぎる」
へぇ、皇帝ってイメージから独裁者っぽい感じがしてたけどそうでもないのかな?
そう思ってマリスに視線を送ると意図を察してくれたのか頷いてくれる。
ふむ、マリスがそう言う反応するなら事実っぽいね。
「けど、規模と手際からして恐らく組織だった誘拐犯の可能性が高い
被害者はこの1年で30人近くに上るからね
………推測だけど、子爵クラスの貴族か軍の上層部の人間の可能性が高い」
む、それでも結構な大物が絡んできてそうだね。
とは言えこの依頼をこなさない事には先に進めそうもない
私は仲間達を見回し、みんな一様に頷いてくれる。なら―――
「………了解致しました。
私達一同、謹んでこの依頼を受けさせて頂きます」
そう言って私は恭しく頭を下げた。




