勇者の足跡
「………は?勇者が最後に目撃された場所?」
余りにも予想外な言葉を聞かされ素っ頓狂な声を上げるフィル。
マリスが私達の予想外な事をするのはいつもの事だけど、今回は
それに輪をかけて意味が分からないものだった。
勇者………ってゲームとかでよく聞くあの魔王を倒すって運命を背負わされた
~とか言う主人公の事だよね?
そう言えば出会って間もない頃のフィルとゼーレンさんが
チラッと話してたのを覚えてる。
しかし勇者ねぇ………「勇気ある者」って個人的には
なんか強そうなイメージ沸かないんだけど、私だけかな?
「勇気」なんてその気になれば誰にだって発揮できるものだしね
まぁそれが難しいんだって話なんだけど。
「うん、レンお姉ちゃんの目的は『自分の世界に帰る方法を見つける』でしょ?
だったら勇者の足跡をたどるのが1番手っ取り早いと思ったんだ
だから盗賊ギルドにその足跡を調べて貰ってたんだ」
えーっと、益々意味が分からなくなってくる。
何で私が元の世界に帰るのに勇者とやらが関係あるの?
「………成程ね、確かにそれが1番可能性が高いわね」
「納得です、それならば有力な手掛かりがある公算は高いかと」
けどフィルとリーゼは納得したように頷く。
何?もしかして私と勇者ってそんなに関係が深いものなの?
「えーっとゴメン、私全く分かんないんだけど
なんでその勇者って人の足跡を調べたら元の世界へ帰る手掛かりになるの?」
私だけ話が全く掴めないので取り合えず質問してみる。
「あーそっか、レンお姉ちゃんは勇者じゃない異世界人だから
知らなくて当たり前なんだ。
結構レアなケースだからすっかり忘れてたよ」
またまた意味不明な言葉をマリスが口にする。
勇者じゃない異世界人って何?その口調だとまるで異世界人が
殆ど勇者だったように聞こえるんだけど。
「そうだったわね、レベルやステータスの特異さに目が行ってて忘れてたけど
レンはそもそも異世界人としてはかなりイレギュラーな存在なのよね」
マリスの言葉にフィルが続く。
私がイレギュラーな存在?そりゃまぁ異世界人なんてイレギュラーの塊では
あるんだろうけど………
「んとね、ここって結構異世界人が来てるって事は知ってる?」
マリスの問いに私は少し記憶を探る。
そう言えば前に聞いた事あるね、あれは確か………
「そう言えばフィルと出会ったばかりの時にそんな事をちらっと聞いたような
けど、何かその時異世界人は誰も残ってないって言ってたよね」
「あら、そんなことまで覚えていてくれてたのねレン
うふふ、とっても嬉しいわ♪」
いやいや、流石にあんな濃い体験そうそう忘れる事なんて出来ないから
と言うかフィル、どさくさに紛れて指を絡めて来ようとしてこないでってば。
「うん、今までここに来た異世界人って役目を果たしたら
例外なく行方不明になってるんだよね」
いつもの様にスキンシップを図ってくるフィルを横目にマリスは話を続ける。
しかし例外なく行方不明って、穏やかじゃないね。
………って、今なんか気になる単語があったような。
「ちょっと待って、今役目を果たしたらって言ったよね
異世界人に役目なんてあるの?」
それは初耳だ、と言うか誰もそんなこと教えてくれなかったよね?
一体どういう事かな?
「うん、この世界にとって重要な役割が異世界人にはあるんだよ
勇者として魔王を倒すって役割がね」
………はい?勇者になって魔王と倒す?
まるでゲームな展開もいい所だ、けど、という事は………
「ねぇマリス、もしかして異世界人って………」
「うん、ここに召喚された異世界人は例外なく勇者の称号と使命を
課せられるんだよ。………レンお姉ちゃんを除いてね」
そう言う事か、それならばマリスの行動は納得できる。
使命………恐らく魔王を倒すって事みたいだけど、その後に
行方不明になってるって事から、使命を果たして元の世界に戻ったって
可能性はあり得るんだね。
そこを調べればもしかして元の世界と繋ぐ何かを見つけれるかも知れない
そう考えてマリスは独自に調べていてくれてたんだ。
飄々としてる様でしっかりと情報収集の布石を打ってたって言うのが
とってもマリスらしいね。
「ありがとマリス、私の為に情報収集してくれて」
「いやいや、これくらいお安い御用だよん
尤も、マリスはお金払ってダスレのおっちゃん達に依頼しただけだけどね~」
「………普段ならこんな面倒な依頼は断るんだがな、10万ルクルも積まれちゃ
俺達も動かざるを得なかったって訳さ
全く、どっからあんな大金用意してきやがったのやら」
10万ルクルって………もしかして
「マリス、そのお金ってあの?」
「うん、二つ角の破壊槌の素材代金から
前もって確保しといたお金だよん。
オークションにケリがついたら入金しといてってマイーダお姉ちゃんに
頼んどいたんだ」
何とまぁ、何処までも抜け目ないねマリスって。
ホント、この子が仲間でよかったよ。
「うん、理由は分かったし納得した。
けど、この際だからもうちょっと聞きたい事があるんだけど?」
「ん?何?」
「今まで来た異世界人が勇者だったって言ったけど、何故私が例外なのかな?
それと、なんでみんなそれが分かる訳?」
私はこの会話で生じた疑問をマリスにぶつけてみる。
別に勇者なんてやりたくないけど、ならば何故私がこの世界に来たんだろう?
偶発的って事も考えられるけど、何者かの意図が見えるならそれを知りたいね。
「それはいくつか理由があるんだよ
まずは今まで勇者としてここにきた異世界人は
みんな男の人だったんだよ
逆に女性の異世界人がこの世界に来た例ってレンお姉ちゃん以外に
まだ確認されてなかったよね?」
「………そうだな、少なくともこの嬢ちゃん以外は
俺達の情報網に引っ掛かっていないな」
そうなんだ、けどそれだけでは理由としては薄い気がする。
けど、いくつかあるって言ってたから他にもあるみたいだね。
「もう1つは『魔王が復活しなければ勇者も現れない』んだよ
確か、前に魔王が倒されたのが確か5年前ぐらいだったっけ?」
「その辺りですね、我の姉も討伐隊に加わっていましたので記憶があります」
マリスの質問にリーゼが答える。
………って、ドラゴンも魔王討伐とやらに行ってたの?
「魔王は我等にとっても敵ですので
勇者が現れたとなれば勇者を援護し、魔王討伐に助力するのは
我らの掟でもあります」
そうなんだ、なんかイメージ通り世界の敵って感じだねぇ。
「魔王の復活周期は約10年だったかな?それと同時に勇者も召喚されるって
みたいだけどその辺りはフィルミールお姉ちゃんの方が詳しいかな?
そこら辺は聖教の管轄みたいだし」
「………そうね」
マリスの言葉に若干間を居てフィルが答える。
「私もそこまで詳しい事は知らないけど、魔王の復活は法皇様が察知されて
そこから召喚された勇者を探し出す為、聖教の総力を挙げて
勇者探索が始まるの。
それが始まれば聖教に属している人間は枢機卿以上の方々以外
ほぼ全ての信徒が勇者探索の旅をして勇者を探し出さなければならないの
そして勇者を見つけ出した信徒は『聖人』として勇者に付き従い
魔王討伐に向かわなければならないのよ」
へぇ~、なんか大掛かりな儀式みたいな感じだね。
ん?という事は………
「なら聖教の信者ってその人が『勇者かどうか』判別できるって事だよね?」
「ええ、法皇様から洗礼を受けた際に勇者を見つける為の力を授けられるのよ
それは聖教の信徒として例外なく授けられるものなの」
成程ね、いわゆる法皇が使える特殊な強化魔法みたいなものなんだね。
「という事はフィルは私が勇者じゃないって事を………」
「ええ、出会った時から分かってたわ」
そうなんだ、それだけ判断材料があれば私が勇者じゃないって
断言できるのも頷けるね。
けど、そうなると私がこの世界に来た理由が不明のままだね。
何か他に理由があるのか、それともただの偶然なのか、はてさて………




