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~時薙ぎ~ 異世界に飛ばされたレベル0《SystemError》の少女  作者: にせぽに~
帝国と王国の交声曲《カンタータ》
51/209

ラミカの頼み

「フンフンフン~♪

 フンフフン~フンフン~♪」


鼻歌を歌いながら私の右腕を抱きしめて上機嫌で歩くフィル。

普段から表情豊かなフィルだけどここまで嬉しそうな様子を見るのは初めてだ。

そんな表情を見るとフィルの気の済むまでこのまま歩いているのも

(やぶさ)かじゃないんだけど………


「おいおい、あの2人女同士で腕組んで歩いてるぜ」

「ママ~、あのお姉ちゃん達女の子同士なのに恋人みたいだよ~」

「うぇ、女同士だなんて気持ち悪いわね………」

「はぁ~…この様な光景が存在するなんて、眼福の極みですわ~」


女同士で腕組んでるのが珍しいのか何かえらく注目を集めてるんだよね。

まぁフィルみたいな美人が私の様な武骨者と腕組んで歩いてたら

違和感バリバリなんだろうけど………

後変にねっとりしとしてて熱い視線もあるね、何か少し寒気がしたよ。


「えーっとフィル?私達結構見られてるんだけど………」

「当然よ、だってレンと私が仲睦まじく散歩してるんだもの

 そんな微笑ましい光景、誰だってじっくり見たいに決まってるわ」


あの~フィルさん?もしかして貴方物凄く舞い上がってません?

と言うかさっきからずっと歩きっぱなしだけどフィル買い物があるって

言ったなかったっけ?


「あのさフィル、買い物はどうしたの?」

「そんなの後回しよ、今はこの至福の時間を少しでも長く続けてたいの」


駄目だ、これ完全に自分の世界に入っちゃってる。

流石にそろそろ恥ずかしくなって来たんだけど、これ当分

終わりそうにないかなぁ………そう思って少しだけゲンナリしていると


「………何やってるの2人共、こんな所でデートの練習?」


後ろから聞き覚えのある声が聞こえる、声のする方へ振り向くと

そこには若干不思議そうな顔をしたラミカが立っていた。


「ラミカ?」


私は思わず声に出す、その声が聞こえたのか自分の世界に浸りきっていた

フィルがはっとした顔になり、振り向いてラミカを確認する。


「あらラミカ奇遇ね、こんなところで仕事かしら?」


フィルは私の腕を抱えたままいつもの調子でラミカに話しかける。


「腕放さないんだ………何というか流石に2人がそんな関係だったとは

 ちょっと予想外だったかも」

「いやいや違うから…ほらそろそろ放してフィル

 流石に暑苦しくなってきたから」


私の言葉にフィルは少し拗ねた表情をするも


「………レンがそう言うなら仕方ないわね」


とかなり名残惜しそうにしながらも放してくれた。


「そんな気はしてたけどフィルはレンにぞっこんだねぇ

 ま、同性同士の結婚って帝国じゃ認められてるから問題は無いけど

 中々にハードルは高いよ~、偏見凄いしね」

「………ってちょっと待って、帝国って同性婚認めてるの!?」


ラミカが何気なく言った衝撃の事実に私は思わず聞き返す。


「知らなかったの?何か最近お偉さんの方でその手のごたごたがあったらしくて

 何かそれが原因でそうなったみたいだよ」


上のごたごたが原因で同性婚可能って…一体どんなごたごただったんだろう。


「素晴らしい国ね!!

 成り行きで帝国に住んでたけど、私初めて帝国に来てよかったと思えたわ!!」


そして自分の夢を叶えることが出来ると知って喜ぶフィル。

いやだから私は同性愛に興味なんて無いってば。


「よ、良かったねフィル………

 ところでラミカは仕事なの?」


これ以上この話題を続けてもいい事にはなりそうにないね。

そう思い私は強引に話を変える。


「ん?ああ、仕事だよ

 ちょっとこの後ゼルターズ子爵様と会わないといけないんだけど………」


ゼルターズ子爵様?

子爵様って確か爵位の4番目の位だっけ、という事はラミカって

それなりの貴族と繋がりを持ってるんだ。


「帝国子爵クラスの貴族と謁見できるの?

 ラミカって結構なやり手ね、その年で貴族と取引できるなんて」


フィルが驚いた声を出す、そんなフィルの反応にラミカは少し苦笑しながら


「たまたま運が良かっただけ、と言うより何と言うかね………」


ん?ラミカにしては歯切れの悪い答えだね、何かあるのかな。


「ん~~、そうだね

 2人共この後何か用事がある?」

「………ん?特には無いけどどうしたの?」


ラミカの唐突な質問に私は思わず返答する。

その返答に少し不服だったのかフィルは少し拗ねた表情をする

………だからもうデートは終わりだってば、と言うかそもそもデートじゃないし。


「ちょっと仕事を引き受けてくれないかな?

 とは言え私と一緒に子爵様のとこについて来てくれるだけでいいんだけど」


ラミカはいきなりそんな事を言い出す。


「どうしたの急に?その子爵と会うのに何か危険な事でもあるの?」


治安の悪い区画なら兎も角、その子爵様が住んでると思われる貴人区は

常時帝国兵の警邏が巡回していて治安はいいっぽいんだけど

そうでもないのかな?


「ああ違う違う、護衛じゃなくて付き添って欲しいだけ

 別に危険な事は無いよ、ただ私1人で行くとちょっと

 面倒な事があるって言うか………」

「面倒な事?」


ラミカの言葉にフィルが聞き返す、確かに貴族との謁見ともなれば

言葉遣いやら礼儀作法やらが厄介そうではあるけど………


「あ~…何と言うかその、ゼルターズ子爵って凄い女好きなんだよね

 流石にギルドに所属してる私には無茶は言ってこないだろうけど

 それでも1人だとちょっと心細いって言うか………」


成程、典型的なスケベ貴族様って感じなんだね。

そう言う事ならラミカの不安もわかる気がする。

私としては安請け合いしてあげてもいいんだけど………


「ん~…どうしよっかフィル、私としてはついて行ってあげてもいいけど

 フィルはその手の男の人嫌いでしょ?」


取り合えずフィルに聞いてみる、とは言え恐らく私が行くと言ったら

フィルもついてくるとしか言わないだろうけど。


「そうだけど……そんな輩が私の見てないところでレンを舐め回す様な

 視線で見られてると思うと正直耐えられそうも無いわ

 ならまだ私が見られた方が数十倍もマシよ」


不快そうな顔だけどやっぱりフィルは着いて来るって言ってくれる。

う~ん、私はその手の視線に慣れてるから平気なんだけど

フィルにとって結構な苦痛かもしれないんだけどな。


「あ~、私からお願いしてる事だけど別に断ってもいいんだよ?

 どうしてもって訳じゃないし、さっきも言ったけど1人だと

 面倒な事になるだけで別に命の危険がある様な事じゃないしさ」


私達のやり取りを見ていたラミカは少し申し訳なさそうに言う。


「ああゴメン、別に断りたい訳じゃないよ

 ただ、その手の視線に慣れてないと結構ストレス溜まるから

 フィルに大丈夫?って聞いてるだけだよ」

「慣れてないと………ってレンは慣れてるの?」

「一応ね、慣れたくて慣れてた訳じゃないんだけどね」


ラミカの問いに私は自嘲気味に笑いながら答える。

元の世界での()()()()は男の園だったから、女だって言うだけで

おじさん達からの軽めのセクハラは日常茶飯事だったんだよね。

だけど、是非は兎も角としておじさん達はきちんと私を女の子として

扱ってくれてたのは分かってたからそこまで不快感は無かったんだけど………

ちなみにガチ目のセクハラをしてくる若い輩は

逆におじさん達に締め上げられてたりしてたんだよね。

今思えばあれがおじさん達流の可愛がり方だったんだろうなぁとは思う。


「………成程ね、だからレンってばあのスケベ爺の視線を浴びても

 平気な顔してのね」


うん、あのおじさん達の露骨な視線に比べれば

ゼーレンさんなんて随分紳士的だよ。

そんな視線に慣れちゃってる自分は乙女としてどうかとも思うけど………


「とにかく、レンが行くなら私も行かないって選択肢は無いわ

 いっその事リーゼも連れて行く?あの子が来たら多分スケベ子爵の視線は

 釘付けになると思うけど、レンは居場所分かるんでしょ?」


そう言えばマリスが前にそんな事言ってたっけ、確かリーゼの事を思い浮かべれば

直ぐに位置は感じとれるらしいんだけど………


「あ、リーゼは止めておいた方がいいかな

 流石に見初められでもしたらマズいでしょ?」


ラミカの指摘にはっとなる。

そう言えばそうだ、万が一そうなって貴族の強権で連れ去られようものなら

確実に厄介な事になる、下手すれば帝国が敵に回る可能性もあり得るね。


「………そうだったわね、少し軽率だったわ」

「まぁ、ラミカの不安を払拭(ふっしょく)させるだけなら私達だけで十分だよ

 んじゃラミカ、その仕事請け負うよ」

「ありがと~助かる~

 やっぱり持つべきものは女冒険者の知り合いだね♪」


ラミカが嬉しそうに私とフィルの手を握って言う。


「報酬は弾むから期待してて♪

 それじゃ早速行きましょ」


ラミカに促され、私達はその女好きな貴族が住む屋敷へと向かった。

はてさて、どうなることやら。

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