新たなる繋がり
「クスクスクス、そんな目に遭ってたなんて
貴方達災難だったわね」
マリーさんは私達の報告を聞いて
控えめだけど楽しそうに笑っている。
あれから帝都に戻った私達は旅の埃を払い落とした後
依頼の報告に【人形達の宴】を訪ねていた。
ちなみに毒の血液がどっぷり染み込んだ私とリーゼの服は流石に
持って帰る訳にもいかず、その場で焼却処分をした。
何故かフィルが私とリーゼの新しい服を持ってたから出来た事だけど………
嬉々としてキューブから私の服を出して並べ始めたフィルには
流石に引いてしまった。
だって20着近くあったよあれ?しかも露出度の高い物ばかり………
どうもフィルはリーゼの服を作った仕立て屋さんと仲良くなったらしく
暇を見つけてはお互いに私やリーゼの服のアイデアを出し合って
試作品を作ってたらしい。
まぁ、必要だったから助かるんだけど、もうちょっと大人しめの服が着たいかな~
「それにしても君たちは凄いね
その日のうちに依頼をこなしてきただけじゃなくそんな名在りを
倒してしまうなんて、正直驚きだよ」
私達の話を聞いたデューンさんは感心したようにそう口にする。
「正直、私達も倒せるとは思いませんでしたよ
もう1度戦って来いって言われても勝てるかどうかわからないです」
「そだね~、今回はリーゼがいたから勝てたようなものだし
リーゼいなかったら速攻で全滅してたよね、あはははは」
「笑い事じゃないでしょ」
私達は口々に今回の闘いの感想を口にする。
前回のトロールの時も思ったけど、ホントああいうのは勘弁して欲しい。
別に私達は強い敵と戦いたい訳じゃないんだから。
「ふふっ、マイーダから色々聞いてるわ
最初がドラゴンで次が馬鹿みたいな再生能力を持ったトロールだっけ
これで3回目って事は、貴方達今後もこんな事ばかりになりそうね」
マリーさんは心底楽しそうに不吉な事を言う。
そーいう事は口にすると現実に起こる可能性が高くなるから
出来れば言わないで欲しかったかなぁ。
「勘弁してください………ってマイーダさんと知り合いだったんですか?」
「ええ、飲み友達なの、私とマイーダ
尤も、お互い忙しくて暫く一緒に飲めては無いんだけど」
そうだったんだ、そういやマリスがマリーさんの事
酒好きとか何とか言ってたっけ。
「そう言えばマイーダから聞いたんだけどリーゼ…だったかしら
貴方も凄いイケる口なんですってね
私以外で付き合える飲み仲間が出来た~って嬉しそうに言ってたわよ」
「そうですか、我としてもマイーダには色々なお酒を味わわせて頂けるので
至極感謝しております」
「お…言うわね、なら今日は私に付き合って………」
「ダメですよマリーさん、明日も仕事なんですから
飲むのは休みの日だけと約束したでしょう」
飲兵衛モードになりかけたマリーさんにデューンさんが釘を刺す。
「いいじゃないデューン、今日はそんなに飲まないから」
「ダメです、どうしても飲みたければ酔っ払って服を脱ぐ癖を何とかしてください
次の日全裸状態のマリーさんを起こすのは大変なんですよ?」
「あら、こんな美人のあられもない姿を見れて男としては役得じゃないかしら?」
「勘弁してください、そうでなくてもご近所に誤解されてるんですから………」
「ふふふ、そうだったわね、御免なさい」
溜息をつくデューンさんを見て楽しそうに笑うマリーさん。
しかしやっぱりこの2人に険悪な雰囲気は無い、きっと日常的に
こんな会話をしてるんだろうね。
「さて、それじゃ素材の確認も出来たし報酬を渡したいとこだけど………
その前に僕達にちょっとついて来てくれないかな?」
「ついて行く、ですか?」
いきなりどうしたんだろ、まさか報酬が準備できてないとか
そう言う事じゃないと思いたいけど………
「ついて行くのは構いませんが、何処へ行くのでしょうか?」
私と同じ疑問を持ったのか、フィルが2人に尋ねる。
「心配しなくても大丈夫よ、理由はすぐに分かるわ」
マリーさんが微笑ながら答える。
「そう構えなくてもいいよ、ついて来て欲しいのはこの店の2階だからね」
デューンさんはそう言って奥にある階段を上って行き、マリーさんも後に続く。
「何なんだろうね、マリス分かる?」
2人の意図が分からず、思わずマリスに聞いてみる。
「ん~、ある程度想像はつくんだけど確信は無いかな
けど、多分危険は無いと思うよ~」
マリスは楽観的な答えを返して2人の後に続いていく。
まぁ危険がないのは私も同意見だけど………
「ついて行くしかなさそうね、行きましょレン」
疑うのも失礼だし、ここは素直について行くのがいいよね。
私達は2階への階段を上っていく………
「これは………」
2階に上がった私達が見たものは、乱雑に物が置かれた廊下と
ドアで仕切られたいくつかの部屋だった
ひのふの………6部屋あるのかな?
「ここがデューンお兄ちゃんたちが住んでるとこ………じゃないよね
それにしては微妙に埃っぽい上に物がいっぱいだし」
マリスが廊下にある窓のふちをつーっとなぞり、指に着いた埃を吹き飛ばす。
確かに人が住んでそうな様子は無さそうだ。
「ここは物置………ですか?
もしかして報酬はここにある物になるとか………」
フィルが周囲を見回しながら2人に質問する。
むー、けど確かに報酬はお金でって約束した訳じゃないから
物品でもいいと言えばいいんだけど………
「惜しいわね、ちょっと違うわ
貴方達への報酬は、この2階全部よ」
………………
「えええ~~~~~!!」
予想外過ぎる言葉に私とフィルは思わず大声を上げてしまう。
「くすくすくす、予想以上の驚いた顔ね
貴方達のそんな顔を見れただけでも、デューンを説得した甲斐はあったわ」
マリーさんは心底楽しそうに笑う。
えっ、でもちょっと待って………この2階全部ってどう言う事!?
「マイーダから聞いたわ、貴方達住む処を探してるんだってね」
「え、ええ…はい、そうですけど」
「それをデューンと私が報酬として提供しようって訳
どう?悪くない話だと思うけど?」
ちょっと待って、いきなりすぎて頭が混乱してる。
「ふむふむ、確かにマリス達にとってはとても魅力的なお話なんだけど
流石にマリス達にいい話過ぎて依頼と報酬のつり合いが取れてないかな~
という事は、追加でマリス達に何かやって欲しい事があるんだよね?」
動揺する私達を他所に、マリスがマリーさんに問いかける。
マリスってホント大物だよね………
「おや、察しがいいわね貴方
頭の回転の速い子は嫌いじゃないわよ」
マリスの問いにマリーさんは穏やかな笑みのまま答える。
「とは言っても大したことじゃないのよ、貴方達の都合のいい時に
レストランでウェイトレスをして欲しいのよ」
ん?ウェイトレス?
ここのレストランってマリーさんの人形が接客するのが売りの1つなんじゃ………
「あの子達も万能じゃなくてね、大抵の業務はこなせるんだけど
イレギュラーな対応は出来ないのよ、その度にデューンが料理を中断して
奥から出てくる羽目になるのよ」
そうなんだ、あまりに滑らかに動くから何でもできるのかと思ってた。
「そんな時に柔軟な対応が出来る子がいてくれたら助かるのよ
ちなみに私は人形を制御するので精一杯だから
そこまでの対応はちょっと無理ね、話すぐらいなら可能だけど」
ふむふむ成程ね、いわゆる住み込みウェイトレスって事かな
そう言う事ならば私達に住処を提供するって考えも理解はできるけど………
「ちなみに臨時雇いで人を雇ったりできないの?」
「残念ながらそれも無理なのよ、1回募集をかけてみたら
デューンのファンの子達が殺到しちゃって騒ぎになったのよ
モテるのも考え物よね、デューン」
「ははははは………」
デューンさんが力なく笑う、相当な騒ぎだったみたいだね………
「貴方達なら大抵の事にも対応できそうだし、過激なデューンのファンや
不届きな輩が来ても自分の身は守れそうじゃない?
だからうってつけなのよ」
不届きな輩は兎も角、過激なファンに自己防衛が必要って………
どんだけモテるのデューンさん。
「これが私とデューンが貴方達に住処を提供しようとする理由
納得して貰えたかしら?」
「僕からもお願いするよ、最近お客が増えてきてマリーさんの負担が
増えてきてるから、何とかしようと思ってたところなんだ」
う~ん、そう言う話ならお互いにメリットもあるし受けてもいいかな。
だけど1つはっきりさせておかないといけない事がある。
「けど、私達は冒険者だから依頼を優先する事になるよ?
下手すれば何か月単位で留守になると思うけど………」
正直、日々の糧を得るだけならここでウェイトレス専属ってのも悪くないけど
私は元の世界へ戻る為にこの世界で手掛かりを探さなきゃいけないんだよね。
今は地盤固めの最中だからひとまず置いてるけど………
だから冒険者を辞める訳にはいかない。
「それは大丈夫よ、貴方達が入る日は人形の数が減らせるから
その分魔力の貯蓄に回せるの。貴方達がいない時はそれでフォローするわ
けど今の状態だと魔力の貯蓄も出来ない状態だから
これ以上お客が増えると困るって訳」
私の問いにマリーさんは笑顔のまま答える。
一瞬マリスの方へ視線を向けると察してくれたのかマリスは笑顔で頷く。
と言う事は魔力が貯蓄出来るって言うのは本当みたいだね
それならもう気兼ねする材料は無いかな、後はみんなの意見を聞くだけだね。
私はみんなの方へ振り向き
「さてどうしよっか、私は願ってもない事だから
このお話は受けようと思うけど皆はどうかな?
あ、フィルとリーゼは『私が決めたから』は禁止ね」
率直な意見を聞く為に先に釘を刺して置く、すると2人は
あからさまに困った顔になる。
いやいや、どんだけ私の意見に従いたいの貴方達は………
「マリスは賛成だよ~、ギルドの寝床もトラブル多くて楽しかったけど
流石にあの男臭さはしんどくなってきたとこだし、それに
ウェイトレスってやった事ないから楽しみだったりするんだよね~」
マリスは賛成っと、まぁこの子は予想通りの答えかな。
話を聞く限りこのレストランにもトラブルが多そうだし、マリス的には
反対する理由は無いんだろうね。
「私も賛成、マリスと同じ意見てのはちょっと引っ掛かるけど
流石にあの男所帯にいるのも我慢の限界だし、ここに住むのはいい案よね
だけど私、レン以外に愛想をふりまくのは得意じゃないんだけど………」
フィルも賛成、けどフィルはもう少し他人に愛想を
振りまく練習をした方がいいと思うよ?特に男性に。
「我は…正直分かりません、今住んでいるところに不都合はありませんし
うぇいとれす…と言うのも理解はできませんので正直判断が出来ません
マスター…本当にマスターの考えに従う事は駄目なんでしょうか?」
リーゼは困りながらも自分の考えを出してくれてる。
結局は私の考えに従いたいみたいだけど、自分で考えてくれたなら合格かな。
「ゴメンねリーゼ、それにフィルも
出来れば自分で考えて答えて欲しかったからさ
リーゼも、自分で考えて私に従うって言うならダメとは言わないよ
だから今後も私に意見を聞かれたら取り合えず自分で考えて欲しいかな」
「了解…しました」
これで意見はまとまったね。
それじゃ、私から2人にお答えしないとね。
「お待たせいしました
我ら一同、貴方がたのご提案、喜んで受けたいと思います
以後、よろしくお願いします」
そう言って私は慇懃に礼をする、それに倣ってか仲間達も後に続く。
「ふふふ、そう固くならなくてもいいんだけど
その義理堅さは好ましいわ、ねぇデューン?」
「………そうだね、自分達に有利な提案でも安請け合いすることなく
きちんと考えて答えを出してくれてる
これなら僕も余計な心配はしなくて済みそうだよ」
そう言って2人は頷き合い、私の前に手を出してくる。
「それでは宜しくね、勇敢で佳麗な冒険者さん達」
私達はそれぞれ2人手を取り、新たな出会いを祝福した。




