日常化する異世界生活
………私がこの世界【エルシェーダ】に来てから約1か月ほどが経過した。
最初は色々な事に戸惑ってばっかりの私も、その位の時間が経てば
否が応でも順応していく訳で………
今日もアイシャちゃんから依頼されたお仕事をこなしていく。
「これで………おしまい!!」
体重の乗った後ろ回し蹴りが緑の小人(ゴブリンって言うらしい)の
こめかみ辺りにヒットする。
メギャッと言う何とも言えない感覚が足に伝わった後、ゴブリンは
数メートルほど吹っ飛ばされ、動かなくなる。
「ふぅ、やれやれ」
残心を入れ、周囲を確認して一呼吸つく。
周りには動かなくなったゴブリンが数体転がっている。
「レン、お疲れ様。そっちも片付いた様ね」
「うん、今回の相手は小柄だから私でもなんとか倒せたよ」
フィルが駆け寄り、労いの言葉をかけてくれる。
フィルがこっちに来たという事は向こうの戦闘も終わったのかな?
「向こうは………リーゼ1人で十分でしょ
マリスなんてやる事ないから早々に大の字で寝てるわよ」
マリス………いくらなんでもその行動は大胆過ぎない?
「まぁ、ゴブリン退治にドラゴン引っ張り出してる時点で
私達も大概だと思うけどね」
フィルが可笑しそうに笑う、その点は私も激しく同意だけど。
「大丈夫だと思うけど、一応援護に行こう
リーゼの武器は大振りだし、小柄な相手とはあまり相性は良くないしね」
「心配性ね、けどそんな所も素敵よ♪」
「ありがと」
フィルの軽口を受け流し、私はリーゼの所に向かう。
「あ、マスターそちらももう終わりましたか」
指輪に戦斧をしまい、戦闘を終えたリーゼが到着したばかりの私達に声をかける。
こっちはこっちでなかなか凄惨な状況になってるね。
五体満足なゴブリンはおらず、辺り一面ゴブリンの血で染まっている状態だ。
まぁゴブリンの小さい体でリーゼの戦斧を受けたらこうもなるだろうけど。
「いや~、今回は楽だったよ
接敵一番リーゼがゴブリン達に咆哮をかましたら、ゴブリン達
完全に竦み上がっちゃって、後はもうリーゼの独壇場
あまりにやる事が無くて寝ちゃってたよ、あはははは」
成程、相手が小さくすばいっこいから攻撃を当てる為にまずは足止めしたんだね。
うんうん、私の教えを実践してくれてるのは嬉しい限りだ。
これはご褒美をあげないとね。
「リーゼ、こっち来て頭下げて」
「あ………はい、マスター!!」
私の意図を察したリーゼが嬉しそうに私に近づき、頭を下げて来る。
「うん、私の教えをちゃんと実践してくれたんだね、偉い偉い」
私はそう言いながらリーゼの頭を撫でる、髪の毛がわしゃわしゃ絡まって
気持ちいい。
リーゼは何とも幸せそうな表情をして私にされるがままになっている。
………どうもリーゼは、私がふとしたきっかけで頭を撫でたのを甚く
気に入ってしまい、こうやって頭を撫でると幸せそうな顔をするようになった。
決して自分から要求する事は無いけど、こうやって撫でてあげると
張り切ってくれるんだよね。
何か主人に撫でられて張り切る犬のような印象を受けるけど
ドラゴンも懐いたらこうなるのかな?
「もう、リーゼばかり可愛がってないで私も少しは可愛がってよ、レン」
そうすると決まってフィルは拗ねた状態になる。
「フィルは私が頭撫でただけじゃ喜ばないでしょ?
流石に女同士とは言え抱き着いたり指を絡めたりするのは抵抗あるよ」
「あら、好きな人に触れられるのはどんな行為でも嬉しい物よ
たとえそれが他人にされると嫌悪する類のものでも………ね」
フィルは流し目をしながらゆっくりと私の首筋に抱き着いてくる。
別に嫌って訳じゃないんだけど、私にも羞恥心ってモノはあるんだよ。
「あはははは、いつものやり取りご馳走様
もう少し見てたいけどそろそろ帰らないと帝都に着くのが夜になるよ~」
そんな光景を何時もの笑い顔で眺めていたマリスが時を告げる。
その言葉を聞いたフィルがぎゅっと抱きしめる腕に力を籠める。
「大丈夫だから、リーゼからは落ちない様になってるって知ってるでしょ?」
「わ、分かってるんだけどやっぱり高い所は………」
さっきの様子からは一転、心細げに必死に抱き着いてくるフィル。
個人的にはこっちのフィルの方が可愛げがあると思うんだけどね。
「それじゃ、疲れてるとこ悪いけどリーゼお願いね」
「了解しました、マスター」
リーゼはてきぱきと竜化の準備をし、ドラゴンの姿に戻る。
この辺りも慣れたもんだよね~。
震えてまともに動けないフィルをフォローしながら、私達はリーゼの背に乗る。
「んじゃ愛しの我が家に帰ろっかね~」
マリスの言葉を合図に、リーゼは帝都へと向かって飛んでいった。
………
………………
………………………
夕暮れから夜に差し掛かったころ、私達はギルドへ戻ってくる。
今日も今日とて男性冒険者達が酒を片手に自らの自慢話に花を咲かせている。
「はぁ………やっとの思いで帰って来たのにこの雰囲気だと
さらに気が滅入って来るわね」
苦手な高い所から、別の意味で苦手な男臭い雰囲気の連続攻撃に
フィルはげんなりとした表情をする。
「もうちょっとだから頑張って、私にしがみ付いてていいから」
「ありがとレン。あ~~~、癒される~~~~」
私の背中に顔を埋めながらそんな事を言い放つフィル。
私の背中はマイナスイオンでも発生してるのだろうか?
そんな下らない事を思いながらギルドの中に入る。
ざわっ………
私達がギルドに足を踏み入れた瞬間、ギルド内の冒険者が一斉に
こちらに視線を集める。
………毎度毎度この人達も飽きないよねぇ
これもまた私達にとって日常の1つだ、小娘だらけの冒険者パーティは
男性冒険者にとって何かと目立つ存在らしくギルドに入る度に
視線を集めてしまう。
大半が不審と侮蔑の視線なんだけど妙な視線も交じるんだよね。特にリーゼに。
まぁあんなプロポーションをした女の子が体のラインを強調する服を着てたら
男の性としては見てしまう物なんだろうね、良く分からないけど。
ちなみにその服は前にリーゼの服を仕立てに行った時に店主のお姉さんが
特注品として強引に作ったものだ、何日も徹夜してたみたいで
魂抜けかかってたけど、リーゼが試着したのを見ていい笑顔で昇天してた。
私としては正直言ってそんな服が似合うリーゼが羨ましかったり。
少し分けてくれないかなぁ、どことは言わないけど。
「あ、皆さんおかえりなさい」
そんな視線を受け流しながら受付カウンターに向かうと
アイシャちゃんが笑顔で迎えてくれる。
う~ん、いつ見ても笑顔の似合う子だね。
「ただいま、今回の依頼も終わらせてきたよ」
私達はそう言いながら冒険者証をアイシャちゃんに渡す。
「えーっと、レンさんが6匹でリーゼさんが14匹、合計20匹ですね
はい、結構です。依頼の達成を確認しました、お疲れ様です」
アイシャちゃんは書類にすらすらと書き込み、カウンターの下から
報酬を取り出す。
「では、報酬の3600ルクルです。お受け取り下さい」
「ん、ありがと」
私はアイシャちゃんから冒険者証と報酬を受け取る。
「しかしこれで依頼達成10件目ですか、もう新人冒険者とは言えませんね
フィルミールさん達のレベルも順調に上がってますし」
私はレベルが0のまま動かないからそんな感じは全く無いんだけど
どうやらフィル達は順調に強くなってるみたいだね。
ちなみにフィルがレベル15、マリスがレベル17、リーゼがレベル7だそうだ。
「おや…リーゼのレベルも上がってるね、確か前の依頼まで6だったよね」
やっぱり人化すると経験値の補正が人と同等になったのかな」
「………その様です、ドラゴンの時は人化する前の数十倍の数の
モンスターを倒していましたが一向にレベルは上がりませんでした
マリス、貴方の考えは正しかった様ですね」
そうなんだ、レベルが見えない私はピンと来ないけど
私と契約した事がリーゼの為になってくれたのなら幸いだね。
素直に喜ぶ私達、けどそんな私達にアイシャちゃんが少し申し訳なさそうに
「ですけど、喜んでばかりはいられないんですよ
新人冒険者じゃなくなるって事は、ギルドの宿舎から
出なくちゃいけなくなりますので」
そう言えばそんな話だったね、今私達が使ってるギルドの部屋はあくまで
冒険者家業に慣れるまでの仮のものだ。
「なのでそろそろ皆さんは住まいを探す事をお勧めします
個人的にはここにいて貰って欲しいんですが、決まりですし
それに、皆さんにとってここはあまり住み易い場所では無いんですよね………」
そうなのだ、冒険者はあくまで男所帯なのでここに住んでいる新人冒険者も
私達を除けば男しかいない。
当然ながらギルドの宿舎も男向けに作ってて、お風呂も1つしかないんだよね。
その辺りはマイーダさんが私達専用の時間を作ってくれたんだけど
不埒な事を考える輩はいくらでもいるもので………
「あははは、お風呂時間の攻防は中々楽しかったね~
リーゼを覗こうとした数人をレンお姉ちゃんが容赦なくぶっ倒してるんだもん」
あれは酷かった、先に私が入ってたのにリーゼが後から入ろうとした途端
男達が間違いを装って乱入して来るんだもの。
………劣等感を刺激されたからって全力で急所を踏み抜いたのは
やり過ぎたとは思うけど。
ちなみにそれを知ったマイーダさんは大爆笑して見なかった事にしてくれた。
「でも…そうね、そろそろ私達の家と言うか拠点が欲しいわね
ギルドに入る度に嫌な視線を向けられるのは少ない方がいいし」
「そだね~、マリスとしてはトラブルが多いここも捨て難いけど
みんなで遠慮なしに羽を伸ばせる空間も欲しいとこだよね~」
ふむ、2人共乗り気だね。
リーゼに関しては住処には拘らないだろうし、次の目標が決まったかな。
「それじゃ、次の目標は家探しとそれに必要な資金集めだね」
「りょうか~い、んじゃマリスは良さげな処見繕っておくよ~」
「アンタじゃ変な物件しか見つけてこないでしょ、私もやるわよ」
「マスターのご随意に………」
こうして、私達が住む家探しが始まった。




